第244話 竜、楽しい時間を終える
「あなた、お漬物食べすぎじゃありませんか?」
「お前こそ卵焼きを独り占めしているではないか」
「たくさんありますから喧嘩しないで食べてくださいね」
宴の翌日。
朝からまた庭で朝食会を開き、爽やかな環境でおかずの奪い合いが発生していた。
トワイトは苦笑しながら追加を用意してテーブルに並べる。
「米もおかわりが炊けるぞい」
「炊き立て米に焼き魚がたまらねえな……ショウユってのが合いすぎる」
「同感だ。ほらガルフ、ショウユだ」
「わたしもー! ……ダル達、大人しく食べるわねー」
ガルフ達冒険者組は炊き立てご飯に焼き魚を添えたものだった。漬物とみそ汁、焼き魚は贅沢だとがつがつ食べていた。
ユリはペット達が並んで食べているのを見てほほ笑んでいた。
「わほぉん♪」
「飯時は元気だなお前」
「アー!」
「魚を丸のみするのかグラソン……」
「美味そうだ……」
一方でヒューシがグラソンの食事を見て呆気に取られていた。
騎士たちはモルゲンロート夫妻が終わるまで待機だが、お腹の音は誤魔化せない。
「昨晩あれだけ飲み食いしたのにのう」
「体が資本ですからね。交代で見張りもしておりましたし、食事はいくらあっても困りません」
「食える時に食うのが我々です」
「すまないなもう少し待ってくれ、バーリオ」
「大丈夫ですよ陛下」
謝罪をしつつもご飯を食べるモルゲンロートにバーリオは苦笑しながら答えていた。
散歩に出ている騎士もいて、朝からなかなかの賑わいを見せていた。
【エメリ、我にも魚を頼む。こっちの頭には草だ】
「はいはい、今日だけは手伝ってあげますよ」
【なんせ動きにくいからな】
「ぴよー♪」
「ひよこちゃん達、デランザの髭が好きすぎるでしょ」
【遊ばせておけフレイヤ……】
エメリとフレイヤもデランザの寝そべっているところで食事をしていた。フレイヤも騎士だが、デランザ係なのでそこは例外のようだ。
「あーい♪」
「ほら、ちゃんとミルクを飲んで。そしたら遊んであげるから」
「あい」
「ごめんねトーニャちゃん、リヒトのお世話してもらって。ご飯の用意があるから」
そしてリヒトはトワイトの代わりにトーニャからミルクをもらっていた。お姉ちゃんにこうやって飲ませてもらうのは初めてなのでご機嫌である。
「いいわよ。なんせ弟だもん。それにしてもママとパパ以外でもお構いなしなのね」
「そんなこともないわよ。抱っこはさせてくれるけど、私だとミルクは飲んでくれないもの。トーニャがお姉ちゃんだってわかっているんだと思う」
「あ、そうなんだ」
「んぐんぐ……」
トーニャはまったく困っていないと笑っていた。それと同時にリヒトが誰にでもこうあるのかと疑問を口にする。
しかし、隣にいたレイカが、以前ミルクを飲ませようとした時は口にしなかったと話していた。
「ちゃんと誰かってのを認識しているもんね。ねー?」
「あーい♪」
「もー、可愛いー!」
ユリもおにぎりを食べ終わり、リヒトに笑いかけると手を上げて彼女に返事をした。ユリは思わずぷにぷにの頬を摘まむ。
「他のドラゴンさん達も見たかったなあ」
「また機会はあるじゃろう」
「そうですね。ユリちゃん、おにぎりもう一つどうかしら?」
「いただきますー!」
トワイトがさらに出したおにぎりを手にして食べ始める。そこでモルゲンロートがフォークを置いてから口を開く。
「ごちそうになった。相変わらず東の国の料理は美味いな。それはそうと、ドラゴン達が住んでいる国とは、しばらくひと月に一回程度の交流をすることにした」
「ほう?」
「あーう?」
「あ、パパの真似をするんだ」
ディランがモルゲンロートの言葉を聞いて、顎に手を当てて反応すると、リヒトも顎に小さな手を当てて首を傾げる。トーニャがそのしぐさを見て苦笑していた。
「どういったことをしているか、なにか仕事をしたかというような報告だな。場合によっては国を入れ替えるといった措置も必要だ」
「まあ、確かにな」
「それと、他のドラゴンさん達の受け入れをどうするかといった話ができるので、その時はお二人にも来て欲しいですわね」
裏で色々と画策してくれているようで、ひと月ごとに国を変えて集まるようにしていると話す。
「移動をする時は任せてくれ。いつでも飛ぶぞい」
【我でもいいぞ】
「デランザは背中に別の頭があるから乗りにくいでしょ? 私達二人でちょうどいいんだし」
【むう】
フレイヤの言葉にもっともだとその場にいた全員が笑う。そこで朝食も終了し、少し休憩した後、帰ることになった。
「それじゃ、また私が送っていくから。パパ、ママ、ありがと♪」
「庭の自慢をしたかっただけじゃからな。楽しんでくれて良かったわい」
「またいつでも来ますからね!」
「竜神様、またお願いします……! リヒト様、また!」
「あーい!」
変身するトーニャと、体の大きなデランザに乗るフレイヤとエメリが先に庭から出ていく。
「またねダル」
「わほぉん」
「グラソン、またな」
「ア」
「兄妹で変な生き物を愛でるなあ……ディランのおっちゃん、また屋敷に来てくれよ!」
「うむ」
「レイカちゃんのお産の時も付き添えるから呼んでね」
「ありがとうございます!」
「あい」
そしてガルフ達も去っていく。背中を見送りながらリヒトは手を振っていた。
モルゲンロート夫妻と騎士たちもトーニャを追うと、庭は一気にがらんとなってしまった。
「あー……」
「帰っちゃったわね」
「あう」
バーベキューをしたがみんなきれいに使っていたので庭も砂場も池も全部元の通りだった。しかし、リヒトはそれを見て少しテンションが落ちていた。
「寂しくなったかしら?」
「まあ、賑やかだったからのう」
てくてくと庭の真ん中へ歩いていくと、少し寂しそうに見えた。
だが――
「わほぉん!」
「うぉふ!」
「わんわん!」
「あーい!?」
その瞬間、ダル達がリヒトにすり寄っていった。自分たちと遊ぼうとおしくらまんじゅうみたいになっていた。
「こけー♪」
「ぴよー♪」
「ぴよぴー!」
「あー♪」
「ぴーよー」
「アー♪」
「あらあら」
さらにジェニファー達も突撃していき、リヒトはあっという間にペット達に囲まれて笑顔になる。
「まあ、いつも通りじゃな。寂しくなる暇などないわい」
ディランはその様子を見ながら微笑み、トワイトと一緒にリヒトの下へ行くのだった。楽しい時間は訪れ、そして必ず終わり、また次に繋げるのだと思うのだった。




