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老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる  作者: 八神 凪


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第243話 竜、夢を見る

「うぉふ!」

「よしよし、いつも元気だねヤクトは。一番小さかったのに今じゃ一番大きくなったよね」

「わん!」

「おはようルミナス。子供たちは?」

「きゅん」

「きゅーん」

「あ、きたきた」


 キリマール山にある家と庭に、穏やかな優しい顔をした金髪の青年が大きなヤクトを正面から受け止めて撫でていた。

 そこへルミナスが現れて青年が話しかけると、後ろから小さな赤ちゃんウルフが二頭、青年の足元でじゃれつく。


「ふふ、可愛いなあ。お父さんは狩りかい?」

「わんわん!」

「ヤクトも早くお嫁さんを見つけないと」

「うぉふ」

「あはは、体が大きくなっても変わらないなあ」


 金髪の青年はヤクトを撫でると『それはまだ』といった感じで大きく鳴いていた。そこで彼に声がかかる。


「リヒト、おはよう!」

「ああ、リコット。おはよう」

「朝ごはん出来たから呼びに来たわ。ダルは?」

「今日は姿が見えないけど……あ、帰って来た」

「わほぉん」

「狩りに行ってたのね」


 そこで野ウサギを咥えたダルが戻って来た。ヤクトよりやや小さいものの、毛は硬く、顎の長さは小さい時の比ではなく、立派な狼だった。


「わほぉん」

「いつもありがとう。それじゃご飯にしようか」

「ジェニファー、みんなーご飯よ!」


 ひとまず朝食を摂るとリヒトがダルを撫でると、リコットが大きな声でジェニファー達を呼ぶ。


「こっけ」

「こけー」

「こけっこ」


 そこには少々足取りがゆっくりなジェニファーと、ニワトリのトコトとレイタだった。


「あれ? ソオンとグラソンは?」

「ガー」

「アー」

「慌てて走って来たわね」


 リヒトが首を傾げていると、池の方からダッシュしてくる二羽の姿があり、リコットが腰に手を当てて苦笑していた。

 ソオンも立派なアヒルで、グラソンも魔物らしい大きな身体である。

 まとめて家に入れると、ペット達は用意されていた食事にありつく。

 リヒトとリコットがキッチンへ行くと、リコットの母であるソレイユが気づいた。


「あ、来たわね。それじゃ食事にしましょうか」

「はい、いただきます」

「いただきますー!」


 席についてから食事を始めると、ソレイユがリヒトへ話しかける。


「今日からまた旅に出るって聞いたけど、ディランさん達の居場所は分かるの?」

「多分、竜の里だと思うんだ。この一年、調査をした結果、各国に住んでいたドラゴン達はみんな居なくなってしまった。だから戻ったんじゃないかって」

「パパやトワイトおばさん、トーニャおばさんもそこかな……?」

「恐らく。ドルコント国のユリウス王子が伝承で竜の里のあたりをつけたと連絡があった。一度デランザとドルコント国へ行ってから、場合によってはそのまま行くつもり。ザミールさんも一緒に探しているみたいだけど」

「あたしも行く! ママ、いいよね」

「……」


 ソレイユの言葉にリヒトは決めていたことを告げた。

 忽然と居なくなってしまった老ドラゴン達の行方をずっと探しているリヒトは、ヴァール王やギルファ王、そしてユリウス王子の助けを借りて捜索を続けていたのだ。

 そしてユリウスから連絡があり、その旅立ちの日が近づいていた。


「……パパの行方は私も知りたいわ。だけど、なにか嫌な予感がするの。無茶だけはしないでね」

「うん!」


 そうしてソレイユの許可を得た二人は装備を整えてから庭へ出る。そこでリヒトがカバンに入れているものを見てリコットが呟く。


「それ、持っていくんだ」

「うん。小さいころからのお守りだしね」


 リヒトは苦笑しながら少し欠けた埴輪と土偶をチラリと見せていた。心なしか二体の目が光っているようにも見える。


「ま、いいけどね」

「それじゃ行ってくるよ。ルミナス、ジェニファー、トコト、レイタ、ソオン、グラソン。ソレイユおばさんを頼んだよ」

「わん……!」

「きゅん」

「きゅーん」

「こけ」

「アー!」


 リヒトがペット達へ言うと、心強い返事が返ってくる。微笑みながらそれぞれを撫でていると、空が陰る。


【リヒト、遅くなった】

「ううん、大丈夫だよデランザ! 悪いけどよろしくね」

【うむ。ウィズエルフの山と王都の往復仕事は別の者に交代したから問題はない。行くのはダルとヤクトか】

『そうだ、デランザ。僕とヤクトだけ同行する』

『オレたちとデランザおじさんが居れば護衛は十分だって』

「あはは、ありがとう。でも調子に乗ると怪我をするよヤクト」


 デランザの言葉に、ダルが久しぶりに静かな声で返事をした。続けてヤクトが笑いながら前足を伸ばす。


『気を付けて。ディランお父さんとトワイトお母さんを見つけたらよろしくね』

「うん。ルミナスには悪いけど、旦那さんとグラソンと一緒にこの家を守って」

『ええ』

「アー!」

「……よし、父さんと母さんの素材で作った装備もある。ガルフさんとバーリオさんから教わった剣術にトーニャおばさんの魔法があれば怖いことなんてないよ。行こう、リコット」

「うん! それじゃあママ、きっとパパを連れて帰るわ!」


 そうしてデランザに乗り、リヒトとリコットは竜の里を目指す――


◆ ◇ ◆


「む」

「あら」


 ――そこでディランとトワイトが同時に目を覚ます。


 月見酒をほんの少し楽しんだあと、全員家へ戻った。モルゲンロート夫妻は帰るかと思ったが、宿に泊まるというので騎士たちと共に宿へ。

 もちろんガルフ達も泊っていき、宿はそれなりに埋まっていた。

 そしてリヒトははしゃぎすぎたのか程なくして眠り、トワイトに抱き着いたまま離れなかった。

 そのまま遊戯室へ布団を敷いて、ディランと一緒にリヒトを挟むようにして就寝したのだ。

 珍しくベッドでないため、ダル達も寄ってきてペット達総出で遊戯室で寝ていたりする。

 リヒトはトワイトとディランの袖を掴んだまま、ぐっすりと眠っていた。


「今のは夢か。リヒトが随分大きくなった姿じゃった」

「あら、あなたも見ましたか。私もリコットちゃんが大きくなった姿を見ましたよ」


 二人は顔を見合わせてから目を丸くした。しかし、すぐにフッと笑ってからリヒトを撫でた。


「なんかワシらは居なくなっておったが、皆が元気そうな未来で面白かったのう」

「実際、ああなるかは分かりませんけどちょっと嬉しかったですね」

「あーう……すぴー」

「さて、明日も朝飯をごちそうせねばならん。このまま寝るとしようぞ」

「はい♪」


 トワイトはリヒトのほっぺにキスをすると、また眠りにつくのだった。


「(しかし不思議な夢じゃった。竜の里か。老ドラゴンが出て行った後、一度戻って確認する必要もあるか?)」

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