第240話 竜、広い庭を造る
「高さはこれくらいでいいかのう」
「ネクターリンの木は魔物除けになりますし、三メートルくらいあればいいんじゃないですか」
「すぴー……」
「わほぉん……」
昼食を摂った後、ディランとトワイトは庭の作成に取り掛かっていた。
持ってきたネクターリンの木は十メートルを越えるものが多数あるため、切ってから形を整えて壁にしていく。
びっちりと隙間が無いようにして、蛇などは上からでないと入れないような感じで川まで一直線に置いていく。
リヒトは午前中に遊んで疲れたため、ディランが竹で適当に作った簡易ベッドで寝ていた。日差しが直接当たらないよう、木の棒と布でタープを張っている。
そして足元にはダルやルミナスなどが寝そべって居るため、虫などは寄ってこれない。
枕元には埴輪と土偶もあるのでリヒト的には安心である。
「アー」
グラソンは氷を吐き出してひんやりしたベッドを作って寝転がる。便利な生き物だとヤクトがふんふんと鼻を鳴らしていた。
「まあまあこれくらいじゃな。次は畑と水田の辺りから自宅横まで置いていくぞい」
「はいはい」
リヒトが大人しく寝ている間に作業を進めていく。自宅、その少し横に畑と水田と川がある。
今回の庭拡張は奥行きを増やした形となった。斜面だった部分はディランが力任せに土を削って平らにする。
今後は壁を作るので別ルート以外では山頂へ直接行ける道はない。元々、険しい山なので冒険者くらいしか来ない。村人も浅い部分で採取をする程度なので特に困る者はいない。
むしろ頼んで通してもらった方が山頂へは行きやすかったりする。
「これで畑回りも壁ができたな」
「奥の庭からは魔物が通れなくなりましたし、遊びやすくなったと思いますよ♪」
これで拡大した庭が完成した。
大人が四十ほど集まっても窮屈にならない空間は、川が近く砂場もある。
外で昼寝をしたければ簡易ベッドも使え、釣りも可能だ。
「後は花壇でもあると華やかになりますね」
「そういうのはワシにセンスがない。トワイトに任せるぞい」
「あら、いいですか? フラウさんの花の種を植えてみようかしら」
花壇が欲しいというトワイトにディランがセンスが無いから任せると汗を拭いていた。
そのままトワイトは笑顔でリヒトのスコップを手にして小走りに宿と岸壁の近くを掘り出す。
「すぴー……」
「ふう、まだ寝ておるか。これは夜、寝ないかもしれんのう」
「わほぉん……」
トワイトが向かった後、バーベキューをするための机と椅子、そして焚火台を作成してリヒトのところへ戻る。
足元で寝そべっていたダルが上半身を起こして、やる気の無さそうなあくびをして、ディランを見ていた。
「まあお主達が居れば大丈夫か。今、寝てもいいが夜はリヒトと遊ぶのじゃぞ」
「わ、わほぉん……」
「うぉふ……」
ダルがお前に任せるという感じで、グラソンの横でお腹を出してごろりと転がっていたヤクトのお腹に前足を乗せると、任せろといった感じで自分の前足を乗せた。
ヤクトはリヒトが動いていないと割とこうやってだるんとしている。やはり兄弟なのだ。
「わん」
「どうせジェニファー達も寝ておる。ルミナスもゆっくりしておけ」
「わふ」
ディランの手伝いをしようとお座りをして待っていたルミナスだが、リヒトの遊び相手の方が大変だぞと休むように言い、日向ぼっこをさせる。
「さて、次は池じゃな。もう少しグラソンが泳ぎやすく、変な水棲系の魔物が入って来れないようにするか」
さらにディランは水を飲んだ後、川へと向かう。ソオンも泳ぐのでナマズなどが入ってくると困るのである。
一度水を抜いてから池を拡張していく。こちらも山を削ったのと同じく、腕のみをドラゴンにしてざくざく削っていく。
丸かった池が正方形のプールのようなものに変わった。給水口と排水口を鉄の棒で網にし、大きな魚は入って来れないようになった。
グラソンは物足りないかもしれないが、安全に配慮するならこれが最善だろうと考えてたのだ。
「さて、川の水を入れて完成じゃ」
今は濁っているがすぐに流れが良くなり、キレイになるだろうと頷いていた。
「これでええかのう。トワイト、そっちはどうじゃ?」
「こっちもいけそうですよ」
ディランが声をかけながら近づくと、ルミナス達が運んでいた石ころを使って枠を作り柔らかくした土を盛りつけていた。
「石ころを使ったのか。さすがじゃ」
「後は種を植えたら花が咲くのを待つだけね。ひまわりは育つかしら?」
「まあ時間はあるしやってればええんじゃないか? 米もできるしこの山の土はなかなか上質じゃ。あまり人の手が入っていないからじゃろうな」
「ラーテルキングなんかもいましたしね。ガルフ君たちも浅いところまでしか行っていないって言っていましたし」
「ふむ、せっかく広げたし誰か呼んで宴でもするか?」
「あ、いいですね♪ それじゃあ早速花を咲かせないと」
ディランが珍しく作った庭を自慢したげな様子で顎に手を当てていた。
トワイトは手を合わせていいと思うと賛同し、種を取りに家へ戻るのだった。
そして――
「あーい♪」
「うぉふ♪」
「こけー!」
「うむ、やはり元気じゃのう」
――その夜はリヒトが太鼓を鳴らしながら揺り椅子に乗ってはしゃいでおり、夜中まで賑やかであった。