第238話 竜、色々と話を聞く
「ドラゴン印の野菜だぞ、買ってけ」
「なんでゼクウさんが売ってんだよ!?」
「あらあら」
「おナス貰えるかしら?」
『あ、いらっしゃいませー』
露店へ行くと、ゼクウに知り合いがいるらしくあっという間に販売許可をもらって売り出し始めた。
彼は不敵な笑みを浮かべて道行く人に声をかけており、ゼクウを知るものが驚いていた。
後はレイカとリーナも売り子をしてくれており、よく売れていた。
「お姉さん美人だね、このあとお茶でもどう?」
「うふふ、旦那と子供が居るのでお断りしますね」
「またナンパされてる」
『トワイトお母さん美人だもんね』
そしてトワイトはその容姿もあり通りかかる『事情を知らない』男性に声をかけられていた。すでに何人も。
レイカやリーナは町に住んでいる冒険者なのでそれなりに顔は知られている。
だが、あちこちからくる商人や冒険者には認知されていな場合も多かったのだ。
「えー、今一人だしいいじゃないか」
「ダメですよ。私はお仕事に来ているのですから! さあ、野菜を買わないのでしたらお引きとりください」
「ほれ、とっとと離れんかい」
「くそ……すごい美人なのに……」
トワイトはハッキリと断り、気づいたゼクウに追い払われていた。
「ふう、どうしてこんなおばあちゃんに声をかけたがるのかしら?」
「えっと、まあ、そう思っているのは多分ディランさんとおトワイトさんだけなので……若くて美人に見えますよ」
「もう、レイカちゃんもからかってー」
『可愛い』
声をかけられることに不思議がるトワイトへレイカが理由を話す。すると、そんなことはないとぷんすかして怒っていた。
「お、そうじゃ。あの坊主にいいものを作ったんじゃ。持ってくるから少し待っていてくれ」
「リヒトのことですか? あ、行ってしまったわ」
『なんだろうね? とりあえず野菜を売ってしまおうよ!』
ゼクウがなにかを思い出して露店を去っていく。トワイトが止めたが、意外に素早く駆けていってしまった。
リーナはひとまず売り切ってしまおうと言い、売りさばく。
「もう無くなってしまったわ。お父さんの野菜は凄いわね。それじゃあ、お金を分けておいたから受け取って」
「え!? いやいや、いいですよ! いつもお世話になっているのに!」
『うん。トーニャにもだし、リヒト君になにか買ってあげて!』
「そう? ならまたなにか持っていくわね♪」
分け前を用意していたがレイカとリーナにやんわりと断られてしまった。断っているところにぐいぐいいくのは良くないかとトワイトは引いた。
「それじゃあデランザ君のところへ行きましょう♪」
「そうですね。材木を貰うならフレイヤから陛下にお伝えしてもらいましょうか」
露店から撤収した三人はその足で町の外へ行く。
デランザが来るようになってから、町の外壁に沿って道が作られていて、騎士や作業員の往来がしやすくなっている。
「ドラゴンさんが増えたらあそこに一旦降りてもらってから変身して町へ入ってもらうみたいな話をしていましたよ」
「そうねえ、私達って変身していると飛べて便利だけど降りるところは必要よね」
『あ、飛んできたよ』
そこでちょうどデランザが降りてくるところに出くわし、三人は早足で現地へ向かう。
「こんにちは」
【おや、トワイト殿】
「奥方様、こんにちは! ……竜神様は?」
「今日はお留守番なの」
【どうしたのだ? 一人とはまた珍しい】
「たまにはこういうこともあります! もう、みんなして私一人だとびっくりするんですから」
「まあ、いつも一家勢ぞろいで居ますから」
やっぱり腑に落ちないトワイトが口を尖らせていると、そこへフレイヤもやってきた。
「あ、トワイトさん! どうしたんですか?」
「かくかくしかじかなの」
「なるほどネクターリンの木を。でもゼクウさんの言う通り、持って行ってもらっていいと思いますよ。ねえエメリ」
「ええ。竜神様のお願いに対価は必要ありませんよ……!」
フレイヤとエメリはうんうんと頷きながらそう言っていた。そこでゼクウの声が背後から聞こえてきた。
「おーい、待たせたな!」
「大丈夫ですよ♪ あら、それは?」
「坊主が座れる、揺れる椅子だ。だいたい馬とかを模すんだが、せっかくだしドラゴンにした」
「あら、お父さんね♪」
「あ、可愛い~」
「ゼクウさんこれ、わたしにも一つ……!」
ゼクウの持ってきた揺り椅子はディランを模したものだった。トワイトが受け取ると、フレイヤやエメリが反応していた。
「ありがとうございます! リヒトも喜ぶと思います」
「ああ。ディラン殿にもよろしくな! 話は聞いたと思うが、木材を渡してくれ」
【承知した】
「そういえば言葉が流暢になりましたね?」
そこでデランザがカタコトでなくなっていることに気づく。すると、フレイヤが胸を張って言う。
「私達が話しかけているからですね!」
「ええ!」
「まあ、いいわねデランザ君」
【いつもうるさいのだ……】
フレイヤとエメリのテンションとは裏腹に、デランザが少々うんざりした様子で返していた。ヤギと蛇の頭もげんなりしている。
それはともかく、持ってきた木材はトワイトが七本ほど受け取った。
「これでお庭が作れるわ。またお礼をしに来るわね」
「大丈夫ですよ! ディランさんとリヒト君によろしくです」
『また来てね! トーニャが居る時にでも!』
レイカとリーナに声をかけると、笑顔で問題ないと答えていた。そこでフレイヤが口を開く。
「あれ? 帰っちゃうんですか? 今からお茶でもと思っていたのに」
「みんなが待っているから今日はこれで帰るわね。また行きましょう」
「竜神様によろしく伝えてくださいー」
トワイトが頷くとドラゴンへと変身し、木材やゼクウからもらった揺り椅子をもち飛んでいくのだった。
「うふふ、たまにはこういうお散歩もいいわね♪ お金も増えたしミルクを買わないと。でも、やっぱりみんなと一緒が楽しいわ」
そうして山へと向かうのだった。
一方、ディラン達はというと――