第237話 竜、手助けを求める
「こんにちは」
「おお、あなたは! お通りください。はて、今日はおひとりですか?」
ベノムキマイラのデランザの発着場へ降り立ち、そのまま門へと歩いてきた。
デランザは今日はお休みらしく、来ないのだそうだ。
門へ到着すると、門番からさっきも騎士に尋ねられたことを聞く。
「そうなんです。息子はお父さんにお任せしています♪」
「へえ、やっぱディランさんはいい人だなあ」
「ええ! それでは」
門番の意図は「子育ては疲れるからたまにはお母さんに羽を伸ばしてもらいたいんだろうな」だったが、トワイトは別にいつもいい人という認識である。
特に誰かが不利益を被るわけではないが、微妙なすれ違いだった。
「まずは材木屋さんね。あ、でもどこか分からないわ」
王都は城とトーニャ達の居る屋敷、それと先日行ったカフェくらいしか足を運んでいない。
「王都は広いし、闇雲に探したら時間がかかってしまうわねえ。お屋敷に居るレイカちゃんに聞いてみましょうか」
トワイトは手を合わせて決めると、その足で屋敷へと向かう。あまり遅くなるとお昼ご飯に間に合わなくなってしまうからだ。
「こんにちはー」
『はーい。あ、トワイトお母さん!』
鉄柵の向こうに人影が見えたので声をかけると、そこにはリーナが居た。
笑顔で駆けつけてくれると、早速中へ入れてくれた。
『どうしたの? ディランお父さんとリヒト君は?』
「今日はお買い物がしたくて私だけで来たの。リーナちゃんは材木屋さんの場所を知っているかしら……?」
『うーん、わたしじゃわからないや。レイカに聞いてみよう』
「ガルフ君たちは?」
『お仕事に行ってるわ。今日はわたしだけしか残っていないの』
リーナは手にしていたじょうろを片付けてからトワイトの手を取って屋敷へ歩き出す。
『相変わらず凄いお野菜……』
「少しおすそ分けしたら売りに行こうかと思って」
そんな話をしながらレイカの部屋へ行くと、本を読んでいた彼女がが顔を上げた。
「あれ、トワイトさん?」
「こんにちは♪ ああ、いいわよそのままで」
「いえ、元気なので動けるときは動きたいんです。おひとりですか?」
『そうみたい』
ディランとリヒトの姿を探すも居らず、もちろんペット達もいないので静かであった。
「そうなの。みんな私一人だと気になるみたいね?」
「いつも一緒で仲が良いところを見ていますからね。その籠のお野菜となにか関係が?」
「これはついでなの♪ レイカちゃん、材木屋さんがどこにあるか知らないかしら?」
「え? まあ、一度フレイヤとエメリに散歩で連れて行かれたことがありますよ」
「良かった! 案内してもらってもいいかしら?」
「いいですけど……買うんですか?」
レイカとリーナは顔を見合わせてから首を傾げた。トワイトも『そうよ?』と首を傾げていた。
「トワイトさん可愛い。じゃなくて、デランザ君とかの騒動を解決したわけだし、タダでもらえるんじゃないですか?」
「え、そうかしら? あれはウィズエルフさんとモルゲンロートさんの交渉だった気がするけど」
『元はと言えばディランお父さんが解決して、その話し合いになったわけだから……』
「ま、まあ、いいわ。ひとまず行ってみましょう」
レイカが苦笑しながらベッドから出ると、着替えてから一緒に外に出た。
「戸締りオッケーっと!」
『それじゃ行こうか!』
「ありがとうね、二人とも♪」
そんな調子で三人は散歩がてら歩き出す。するとリーナが後ろ頭で手を組んでから口を開く。
『ルミナス達とも会いたかったなあ』
「仕方ないじゃない、お留守番しているんだから。そういえばどうして木が必要なんですか?」
「ちゃんとしたお庭を造るみたいなの。お父さんが張り切って今、別の作業をやっているはずよ」
『へえー。できたら行ってみたいかも』
「もちろん歓迎するわ」
それから、依頼のことやトーニャから魔法を教えてもらい上手くなったなどリーナが話し続けていた。
レイカもお金は欲しいけど、子供ができたら冒険者で稼ぐのは難しいかもといった悩みなどを口にしていた。
そうこうしていると木材屋に到着することができた。
「お、エルフ娘の友達の嬢ちゃんか」
「こんにちはゼクウさん」
『こんにちはー』
「こんにちは」
「あいよ、こんちは! って、ドラゴンの奥さんじゃねえか。ひとりかい?」
店に入ると、工房と一体になっている場所でゼクウが目を丸くしてレイカを見た。
顔は知っているが、用事が多くなるような店ではないため、どうしたのかという感じだった。
そしてトワイトを見てさらに大きく目を見開いていた。他の人達と同様に「一人か」という質問を聞いて、トワイト達はお互いの顔を見た後、ころころと笑った。
「なんでい? で、今日はなんのようだ? ネクターリンの木はボチボチ売れているぜ! 手数料で稼がせてもらっている。どうだいこの椅子? 頑丈で座りやすい。さらに木のぬくもりも感じられるんだ」
「それはなによりです。椅子もいいですけど、今日はちょっと大木そのものが欲しくてきたのですよ」
「なぬ? 大木だと。」
そこでトワイトは使用目的と買いに来たことを告げる。 するとゼクウは飛び上がって驚いた。
「あんた達ドラゴン夫妻に売るなんてとんでもない!? 陛下に怒られちまう! 適当に持って行ってくれて構わんよ」
「いいのですか?」
「そりゃそうだ。ディラン殿が居なければネクターリンの木事業自体なかったんだからな。百や二百じゃなく五、六本だろ? なんも問題がねえよ」
『ほらー』
「あらあら」
トワイトは意外だという感じで頬に手を当てて、目をパチパチとするのだった。
「すぐ帰りますか?」
『お茶しに行こうよー』
「うーん、今日はお家でみんなが待っているからお茶は今度かしらね。ひとまずこの野菜を売りたいわ」
「おう、なら露店に出すといいぜ。待ってな、一緒に行ってやる」
ゼクウは膝を手でポンと打った後、そんなことを言い出した。