第235話 竜、改築を考える
「今日もいい朝じゃ」
「こけー♪」
「わん♪」
「ぴよー♪」
リヒトが土偶と和解したころ、ディランは庭に出て深呼吸をしていた。
ジェニファーとルミナス、それとレイタが足元で一緒に鳴いていた。
一日の始まりである朝食前のひと仕事である畑仕事をするためである。
「む、アブラムシじゃ」
「こけ……!」
「ぴよー!」
ディランはナスの茎についているアブラムシを発見した。虫は通常の畑と同じようにやってくるためこういう時はジェニファーやひよこの出番である。
「ぴよぴー」
「ソオンも来たか。トコトは家か?」
「ぴーよ」
ジェニファーの声を聞いて家からとたとたとソオンが出てきた。
トコトはリヒトのところに居るのでディランの質問に一声鳴いた後、アブラムシ駆除を始める。
「わふ!」
「ルミナスは日向ぼっこでもしておればええ」
「わん……」
ルミナスもなにかお仕事をと思い、尻尾を振りながらディランの足に抱き着く。
しかし、畑仕事を手伝うことは特にないため休んでていいと言われた。
「いつもリヒトの相手をしておるからたまにはええじゃろう。どうしてもというなら草を処理してくれると助かるぞい」
「わん♪」
ルミナスは飛び跳ねた後、土を掘って除草を始めた。それを見届けたディランは収穫をスタートする。
「うむ。見事なトマトじゃ。ダルが喜ぶわい。トウモロコシも粒がでかいな。フラウも来たことじゃし、土壌の活性化もアリじゃな。花も育てるか?」
籠へ収穫物を入れていくディランは、知り合いのドラゴンがあちこちに点在するようになったので協力をしてもらおうかなどと考えていた。
「アー」
「む、グラソンではないか。外に出てええのか?」
そこで新メンバーのグラソンが畑へ出てきた。ディランが気づき、抱っこして目線を合わせて尋ねる。
「ア!」
「そうか」
大丈夫だという感じでグラソンはディランお辞儀をした。ディランが降ろすと、ペタペタと川辺へ走っていく。
「泳ぎそうじゃな。ルミナスよグラソンについていてくれ」
「わん!」
ディランに声をかけられたルミナスは草取りを止めてグラソンを追いかけて行った。
「こけーこっこ……」
「ぴよー……」
「ぴよー」
そして畑ではジェニファーとひよこ達が夢中でアブラムシをついばんでいた。
収穫を終えたディランはその光景を見て顎に手を当てる。
「ふむ、グラソンも増えたことじゃし、少し改築をするか。魔物は入って来ないが川などは危ないからのう」
収穫物を玄関に置き、その足でルミナスの後を追う。畑には蛇なども来るがジェニファーがいるのでそっちは任せることにした。
そして川へ到着すると、ルミナスが川のほとりにお座りをして覗きこむように下を見ていた。
「ルミナス、ありがとうな」
「わん♪ ……わんわん」
「ふむ、川に潜ったのか」
グラソンの姿が無いものの、前足で川を指して鳴くので恐らく泳いでいるのだろうとディランは推測する。
ルミナスと一緒に覗き込むと、黒い影がすいーっと動いているのが見えた。
山にある川の水は冷たいので、そういう意味では最適かもしれない。
「アー」
そこでグラソンが顔を川から出した。口から魚を吐き出し、地面でびちびちと跳ねる。
「魔物じゃから川の水でも平気なのかのう。ひとまずシャチやアザラシ、ワニなんかもおらんし快適か」
「アー♪」
すでに少し食事をしたようで、ご満悦の様子だった。後はディラン達のために魚を獲っているようである。
「ワシらは自分で獲るから大丈夫じゃぞ、ありがとうな。これはお主の食料として置いておこう」
「アー」
「そうがっかりするな。ここは海と違って魚は獲りにくい。だからワシらがお主の食事を用意するのは難しい。だからこいつは凍らせて置いておけばいいのじゃ」
「アー!」
グラソンは分かったといった感じで一声あげてからまた潜っていく。
「ため池はあるがあそこに魚が来るようにしてみるか……?」
グラソンは魔物であるためそう簡単にやられるような個体ではない。ディランのいう捕食者が居ないからだ。
それでも大ナマズのような、なんでも口にする相手は危ない。そのためディランは釣り堀にしている川と繋がった池を改造するかとまた考えていた。
「よし、飯を食ったら作業に取り掛かるか。ロクローが居れば地面の改造は楽なんじゃが、まあええか」
しばらくルミナスと一緒にグラソンの漁を待ちながら朝食を待つ。いい天気なのでディランの膝に顎を乗せて鼻提灯を出すルミナス。
「アー!」
「六匹か、やるのう」
「ア♪」
「わふ……」
陸に上がってぶるぶると水を払ったグラソンは褒められてご満悦だった。
「あなたー、ご飯ができましたよー! あら、あなた達、もう虫を食べているの?」
「こけー」
「ふむ、朝食か。では戻るか」
「わん」
「アー」
「あーい!」
ディランは魚をもって家へと戻っていく。
どう改造するか? それを頭に描きながら、今日も平和な一日が始まる。