第228話 リヒト、海ではしゃぐ
「あーい!」
「うぉふ!」
「ぴよー♪」
よちよちとリヒトが走り、アッシュウルフとひよこ達がついていく。
目指すは波の音がする海の方だ。
風もあり日差しもちょうどよくお散歩には最適だった。
「あう?」
「わほぉん?」
「わん?」
そして到着した海を見てリヒト達は首を傾げる。水がこっちへ来たりあっちへ戻ったりしているからだ。
「あんまり近づいたらダメよ。とくにひよこ達は流されちゃうわ」
「あい」
「うぉふ!」
ひよこ達の近くへ移動するリヒト。そこでヤクトが波に立ち向かって行った。
ざざーんとこちらへ来た際に吠え、引いた時に突っ込んでいく。
「うぉふ!?」
「あー!?」
「うふふ、水をかぶっちゃったわねえヤクト」
「まあいい経験になろう」
波が戻る際に引くつもりだったが、ちょっと大きな波だったのでばしゃんと被ってしまった。
「う、うぉふ……ぷしゅん……」
「あー」
「こけー」
びしょびしょになったヤクトが尻尾を下げてリヒトのところへ戻る。そして海水がしょっぱかったのでだらりと涎を垂らしていた。
「わほぉん?」
「わんわん」
「うぉふ……」
ダルとルミナスがヤクトになにかを尋ねていた。しょんぼりしたヤクトが鳴くと、二頭は海に向かって歩き出す。
「わほぉん……」
「わん……」
「あーう……?」
そして二頭が海の水を舐めた。リヒトはヤクトがとんでもない目にあったと思い、波にまだ近づけない。
「わほぉん……!?」
「わんわん……!!」
「あー!?」
ダルとルミナスは慌ててリヒトのところまで戻ってきてゲホゲホとせき込んだ。
リヒトはびっくりして二頭の背中をわしゃわしゃと撫でる。
「うむ。海水はしょっぱいからのう。ワシも飲めんぞ……ほれ」
「わほぉん……」
「こけー……」
「あー……」
ディランも海水を口に含んだ後、渋い顔をして吐き出した。
ダルはそれを見て『早くいってほしかった』というような顔で項垂れていた。
「お主達がダメならリヒトも飲もうとするまい。すまんのう」
「うぉふ……」
「あーう……」
リヒトが残念そうな声を出しながらびしょ濡れのヤクトも撫でてあげていた。
そこでトワイトがリヒト用の帽子を取り出してかぶせてあげる。
「でも、海は慣れると楽しいのよ。ほら、抱っこしてあげるから触ってみて」
「あー……あい!」
「わほぉん……!」
トワイトが靴を脱ぎ、スカートをたくし上げた後、リヒトを抱っこをしてから海へ歩いていく。
ヤクトのびしょ濡れ姿を見てリヒトはしっかり掴まっていたが、トワイトはしゃがみこんでから水をすくって見せる。
「ほら、冷たいわ」
「あーい♪」
「舐めなければ冷たい水じゃからのう」
「ぴよー」
「あー♪」
するとアヒルの雛であるソオンがすいーっとリヒトの前にやってきた。ゆらゆらと揺れて気持ちよさそうなのが見て取れる。
「あい♪」
「冷たいでしょう♪」
「よし、ワシも久しぶりに入るか」
「わほぉん?」
そしてディランはカバンを砂浜に置き、靴と靴下を脱ぎ、ズボンをまくり上げてから海へ向かう。
「それ」
「わほぉん……!?」
「うぉふ♪」
何事かとディランについていき、足だけつけていたダルへおもむろに水をかける。
びっくりしたダルがしりもちをついていた。
「ふっふっふ、次はルミナスじゃな?」
「わ、わんわん!」
「こけー!?」
ディランは少しかがむと、手を合わせて海につける。そしてぎゅっと力強く手を挟んだ。すると手から水が一直線に噴射され、ルミナスの鼻に当たり、横に居たジェニファーが巻き添えを食った。
「あー♪」
「お父さん、凄いわねえ♪」
「川でもできるが、ウチの近くの川はちと深いから初めてやったわい」
「わほぉん!」
「お、やるかダル」
そこでダルが反撃に出た。前足を器用に動かして水しぶきを上げる。ディランにかかると、ルミナスとヤクトも同じことを始めた。
「やるではないか」
「あーい!」
「リヒトもやりたいの?」
「あい!」
「足だけね」
楽しそうにしていると見えたリヒトは自分を降ろせとトワイトへ手を振る。
苦笑しながら彼女はリヒトの靴を脱がせて砂浜に置き、裾を上げてから海に立たせた。
「あー♪」
「あら、怖くないの?」
「あい!」
「ダル達が浸かっているからじゃろう。トコトとレイタはリヒトについてくれ」
「ぴよーん」
「ぴー」
リヒトが足をつけると冷たいと思うと同時に、ちょっと飛び跳ねてはしゃいでいた。ひよこ達も浮き、リヒトの周りを旋回しだす。
「あーい!」
「うぉふ! うぉふうぉふ!」
ディランの真似をしてヤクトに水をかけるリヒト。危険ではないと知り、お風呂みたいなものかと判断したらしい。
ヤクトも負けじと軽く返していた。
「あー……」
「あら、口に入っちゃった?」
そこで口に入ったらしいリヒトの顔が渋くなった。目に入ると痛いので幸いである。
「わほぉん……」
「あい」
「わん!」
「ぴよー」
そこで心配そうに駆けつけてくるペット達。しかしリヒトは大丈夫だと腕を掲げていた。強い子である。
「あ、いかん」
「ああ」
その瞬間、ちょっと大きな波が来て、その場に居た全員がばしゃんと被ってしまった。ダル、ルミナス、ジェニファー、そしてまたヤクトがびしょ濡れになる。
リヒトは囲まれていたのでかからなかった。
「わほぉん……」
「わふ……」
「こけー……」
「あー♪」
「うふふ、またびっしょりになっちゃったわねえ」
ぐったりと尻尾を下げたその様子にリヒトは笑いがこみあげていた。
そしてリヒトは感極まってダルの背中に乗る。
「あ、ダメよ」
「あーう?」
もちろんびしょ濡れになったダルにまたがったのでリヒトの服もびっしょりになってしまった。
「あはははは♪」
「もう、後でお着換えしないとね」
「こうなったら好きに遊ばせるしかないかのう」
トワイトとディランは困った顔で笑っていた。