第223話 リヒト、失敗をする
「……奇妙な縁だ」
「父上が嬉しそうな顔は久しぶりに見た……痛い!? なにをする……!」
「お前がつまらんことを言うからだ」
「まあまあ」
フラウとカーネリア、トワイトとシエラがテラスでお茶をしているのを見てウォルモーダがフッと笑っていた。
それをオルドライデが口にすると、ウォルモーダが彼に拳骨を食らわせていた。
そのまま軽い喧嘩となった。
モルゲンロートが苦笑しながら諫めていた。
「そんなに似ているのは興味深いわねえ。確かに私はもうおばあちゃんだから間違っていないけど」
「もしかしたら償う機会を神様が与えてくれたのかもしれませんわ。末永くよろしくお願いします」
「もちろんだわ♪」
喧嘩をしている親子を目にしてフラウが肩を竦めていた。カーネリアにとっては義母にあたるが、義母と同じ顔をしたドラゴンが困っているのは偶然ではないのかもと口にしていた。
「あい!」
「だうー」
「こっちも仲がいいですね。リヒト君、いつも元気でユリウスも楽しそう」
「あい♪ ……あーう」
「どうしたのリヒト?」
リヒトとユリウスがお互いのお母さんの膝の上でじゃれあっているのを見てシエラがほほ笑む。
ほぼ同い年だが、特に少しだけ成長の早いリヒトが元気にユリウスへ話しかけていた。
そこでリヒトが思い出したように自分のカバンに手を入れた。トワイトが首を傾げると、リヒトはテーブルの上にハニワを置いた。
「あー♪」
「なんです、それ?」
「ハニワね。東の国だとお土産になっていたりするわ」
「多分、ユリウス君に見せたかったのね。大事にしているから」
「へえ。どうユリウス?」
「だー……」
リヒトが嬉しそうにハニワを出すも、ユリウスの顔はその瞬間曇った。なんとも言えない声をあげる。
「あーう?」
「だーう……」
隣に座っているユリウスに自慢しようと出したが、反応が良くないので近づけてみた。
「あい」
「だ……あああああああああああん!! わああああああん!」
ゆっくり見て欲しかったが、近づけた瞬間、ユリウスはじわりと涙を流した後、大泣きをし始めた。
「あーう!?」
「あらあら」
「あー、あの丸い目が怖かったかしら」
無機質な感情のない双眸はやはり怖いようで、土偶を前にしたリヒトのように泣き出した。
「うー……ああああああああん!」
「あらリヒト君も! よしよし、大丈夫よユリウス」
「ハニワはしまっておきましょうね♪」
「赤ちゃんだと仕方ないわよね。リヒト君みたいにハニワを気に入るのが稀だろうし」
もらい泣きをしてしまい、リヒトとユリウスの合唱が始まりテラスは騒然となる。
そこでダル達がひょいと立ち上がり、テーブルに前足をかけた。
「わほぉん」
「うぉふ」
「わん」
「ぴよー!」
「ぴよぴー!」
「ぴー」
「あ、わんちゃん達」
三頭が鳴き、ひよこ達が彼等の頭の上からテーブルへ移動した。そのままリヒトやユリウスの前でぴよぴよする。
「あー……」
「だーう……」
「凄い、泣き止んだわ」
すると二人はぐずぐずと鼻を鳴らしているものの泣き止んだ。カーネリアがびっくりする中、ダル達は鼻の頭を二人に擦り付けていた。
ひよこ達はパタパタと羽をはばたかせていた。
「あー♪」
「だーう♪」
「良かったわねユリウス」
機嫌が直ったことにほっとするシエラは、ユリウスと一緒にルミナスを撫でていた。
「大丈夫かのう?」
「ええ。そろそろ行きますか?」
「うむ。あまり長居もできぬからな」
モルゲンロートとウォルモーダが少し話をして、この場は終わりとなったようだ。
また庭へ移動するとフラウだけを置いてディランに乗り込む。
「ではなウォルモーダ王」
「ああ。また来てくれモルゲンロート王。今回は歓迎をする時間がなかったからな」
「その仏頂面が直ったころに来るとしようか」
「……ふん来ないつもりか」
「直せばいいだろう」
「じゃあねディランさんにトワイトさん! また会いましょう」
「一か月ほど経ったら報告会をしましょう! 妹さんも連れてこないといけないしね」
「あーい!」
「だーう!」
フラウとトワイトがそう約束し、ディランは再び空へ。穏やかに過ごせているのは良かったとトワイトはほほ笑んでいた。
「次はどうする?」
「ガリアへ行こう。ここからならそっちの方が近い。北東へ向かってくれ」
「承知した」
ちなみに町では人々が上昇するディラン達へ手を振っていたりする。この国がより良い方向に行ったのはドラゴンのおかげで、今後迎え入れるという話をウォルモーダがお触れを出しているからである。
そして一行は初めての国、ガリア国へと入っていく。
「こっちは湖が多いですね」
「ロイヤード国からちょうど東がガリア国なのですよ。西は我がクリニヒト王国ですな。ガリア国はまだ小さい国で、御覧のとおり湖が多く土地が少々狭いのだ」
「水が多い土地は豊かだと思うがな」
「水害もあるからなんともだとぼやいていましたがどうでしょうかね。お、あの大きな城があるところが王都だ。ディラン殿、頼む」
「承知した」
ディランは小国と言われたガリアへと降り立つ――