第222話 竜、ドルコント国へ再び
「ふう、凄かった……」
「一人でも手に余るのに、複数がかかってきたらひとたまりもありませんな」
「フラウさん、お茶にしましょう!」
というわけでモルゲンロートの希望でそれぞれドラゴン達が変身した。
バーリオや騎士、妻のローザにヴァール、コレルなども呼んでいた。
「……貴族がどうのとかどうでもよくなるな……」
「まあ、あくまでも人間基準の話だからね。デランザでも十分脅威だし、別種族に自分たちが王で貴族だ! って言ってもそこまで効力はないし」
「確かに、な」
コレルはディランの時も思っていたが、ドラゴンを前にすると人間の貴族に拘ることの小ささが目立つと冷や汗をかく。
ディランにトワイト、トーニャにハバラと一家のみだったが、さらに増えていくため少々不安もありそうだ。
「攻撃されればやぶさかでないが、なにもせんならこちらから何かすることはない」
「そう言っていただければ幸いです。概ねお話もできましたし、各国へ行ってもらいましょう」
「よろしく頼みますわい。どこに誰が行くか決めてええのかのう?」
「実際に現地へ飛び、現地の国王と話してみて相性が良さそうな国に行くのがいいと思いますわ」
「それは名案ね!」
「あーい♪」
「ドルコントならワシもわかる。エンシュアルドとガリアは案内が必要じゃな」
現地へ行って話すのが一番だとローザがいい、フラウが賛同していた。
ディランはひとまず場所を知っているドルコント国へ行くと話した。他の国を経由するなら案内が必要だと口にする。
「ヴァールも謹慎が解けた。私とローザで赴こう」
「あら、陛下自ら?」
「この国から始まったドラゴンのことですし、ご挨拶をしておこうかと」
「私は構わないけど、いいのですか父上?」
「うむ。たまには外に出ても良かろう」
城の仕事も溜まっていないため、特に問題はないと胸を張るモルゲンロート。ヴァールは呆れながらも代理を務めることを決めた。
「ではモルゲンロート殿、頼むぞ。まずはドルコント国へじゃな」
「うぉふ!」
「あーい!」
「ぴよー」
まだ昼前なので元気であるとディランはまた変身してみなを背中に乗せた。
「おお、相変わらず大きいな」
「お父さんはひときわ大きいものね」
「あい♪」
ようやく土偶の件は忘れたのか、リヒトは太鼓を取り出してポコポコとご機嫌よく鳴らす。
今度はドルコント国へ飛んでいくことになったが、やはり労せず城までやってきた。
「……よく来た」
「いらっしゃいませ! ユリウス、リヒト君よ」
「だー♪」
「あーい♪」
謁見の間へ行くと、ウォルモーダ王を筆頭に一家が揃って出迎えてくれた。
シエラに抱っこされているユリウスがリヒトを見つけて満面の笑みになった。
そこでオルドライデ王子が口を開く。
「お話は伺っております。ドラゴンの受け入れについてですね。その後ろにおられる方がそうなのでしょうか?」
「左様。この中の誰かを受け入れて欲しいのじゃ。ワシの友人じゃから無茶はせん」
「お話してみて? シエラさんと私は向こうで子供たちを遊ばせようと思うけど、いいかしら?」
「承知した」
「シエラ、行っておいで」
「ありがとうございます」
「おぬしらも行ってこい」
「わほぉん」
「なんだか、なごみますね」
トワイトの提案でリヒト達は謁見の間の裏にテラスへと向かい、ペット達も移動させた。アッシュウルフ一頭にひよこ一羽を乗せててくてくと歩いていく姿に王妃のカーネリアがほほ笑んでいた。
「俺はボルカノと申す者。フレイムドラゴンだ。今は俺一人だが、定住ができるなら妻も連れてくる。そこを考慮していただきたい」
「わしはコウ。フロストドラゴン族のひとりだ」
「ここはお花がたくさんあっていいですねえ。奥様が好きなのかしら? リーフドラゴンのフラウです、よろしく!」
ディランの背後から一人ずつ自己紹介をしていくドラゴン達。ボルカノは今、家を出ている妻を迎えに行くことがあると説明する。
コウとフラウもそれぞれ挨拶をするが、最後のフラウを見てウォルモーダとカーネリアが目を丸くして驚いた。
「……!?」
「……あ!?」
「? どうしましたか?」
「あ、いや……」
「ふむ?」
「どうかしたのか父上?」
フラウが首を傾げると、ウォルモーダは珍しく慌てた様子で口ごもる。ディランもこの態度は初めて見る上、オルドライデも良く分からない様子だった。
「なんというか……その、フラウ殿と言ったか。髪の色こそ違うが、私の母にそっくりなのだ……」
「え?」
「本当に……亡くなった義母様に雰囲気まで……」
「そ、そうなのか……?」
「あら、なんだか不思議ねえ」
動揺が見られるウォルモーダを見て、オルドライデは本当なのだと冷や汗をかく。
「では――」
「フラウ殿、もし良ければ我が国で暮らしては如何か?」
オルドライデがなにかを言おうとしたところでウォルモーダが真面目な顔でそう語る。するとフラウも小さく頷いてから話し出す。
「亡くなったお母さまを思い出すと辛い、などあればいけないのでは?」
「いや、逆だ。私は母になにもしてあげられなかった。亡くなった原因を放置して逃げた男である。あなたは今、里を追われて困っている。母が、助けてやれと言っている気がするのだ」
「真面目なのですね。お花はそのお母さまが育てたのかしら? こちらはお願いする身。お受けしたいと思います」
「よろしく頼む」
ウォルモーダは視線を外してからよろしくとだけ口にした。
まずは一人、住むところが決まったのだった。




