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第217話 熊、定住を決める

「これは立派なク・ヌーギの木じゃな」

「はい! 大きなどんぐりを作るのはク・ヌーギが一番なんですよ。話を聞いてすぐにここを思い出しました!」


 ディランは木を見て満足げに頷くと、エッタが嬉しそうに答えていた。どんぐりの成る木はいくつかあるが、ク・ヌーギは特に大きな実を落としてくれるのである。


「わほぉん♪」

「あー♪」

「ぴよー!」

「遠くへいってはならんぞ」

「うぉふ!」

「あ、どんぐりを食べたらダメだからね」

「あーい」


 どんぐり拾いに夢中になっているリヒト達を気にして目を離さないようにしているが、赤ちゃん特有の動きで気づけばあちこちに移動している。

 ただ、ダル達が周囲にいるため遠くなれば連れ戻してくるだろうと考えていた。

 トワイトは別で、どんぐりを口にしないように見張るためリヒトの後ろについていた。


「きゅーん♪」

「これは美味い。炒ってやると甘みが増しそうだ」

「この森にはブルグさんのようなクマは居ないんです。だからリスやネズミ、イノシシなんかが主食にしています。ただ、食べる個体よりも木の方がそれなりに多いので、時期によっては大量のどんぐりが落ちています」

「なるほど」

「ブルグさんは獣人にもなれるし、町で暮らしてどんぐり拾いにくればいいんじゃないかな?」


 リヒトとは別の場所でギンタとギルファがどんぐりを拾い、ブルグとギンタは美味しく口にしていた。

 この自然区域にクマは居ないらしく、枯れることは滅多にないらしい。

 ギルファは町に住んでここで生活をすればいいのにと口にしていた。


「それだとありがたいですね。これほど立派なク・ヌーギはなかなかお目にかかれない」

「父上に頼んでみよう。いいかなお姉ちゃん」

「まあ、いいんじゃない? ブルグさんは話せるし、ギンタ君も大人しいから。それにギルファはギンタ君と一緒に遊びたいんでしょ?」

「うん!」


 カーラが呆れた調子で笑いながら問うと、ギルファは満面の笑みで頷いていた。

 もし問題ないなら旅をするのも大変なのでお願いしたいと申し出ていた。


「それじゃ、お父さんに聞いてみましょうか」

「やったー!」

「ふむ、良かったのうブルグ。ワシらは隣の国に住んでおるから今度招待するわい」

「おお、それはいいですね! 怪我をしたときはどうなるかと思いましたが、こんなに良くしていただけるとは……あの木彫りのおかげですね」

「木彫り? おお! そういえばギルファにプレゼントしたのう」

「そうだよディランおじさん!」


 木彫りと聞いてディランは珍しく声を上げてハッとしていた。ギルファがその木彫りのクマを差し出すと、ブルグは目を細める。


「これは私を模したものですか」

「うむ。クマと言えばお主じゃったからな」

「嬉しいですね。恐らく、ディラン様の力が木彫りにも移っているのでしょう。それで引かれたのだと思います」

「まあ、なんでもええわい。無事ならのう」


 ディランはブルグの背中をポンポンと叩いて笑い、ブルグは照れくさそうに背を丸めていた。


「最近はキマイラも知り合いになったからそのうち作ってみるかのう」

「それはまた凄い」

「キマイラって結構危ない魔物じゃなかったっけ……?」

「モルゲンロート殿のところで配達を担っておるぞ」

「キマイラが……!? まあ、ディランさんだしねえ」


 あっさりと告げるディランにカーラが目を丸くして驚いていた。しかし、ディランの実力を考えればなにかあったのだろうと肩を竦めていた。


「きゅーん♪」

「わほぉん?」


 そんな中、ギンタがリヒト達に近づき遊ぼうとしていた。ダルの背中に手を置いたので、ダルはギンタへ振り返る。


「きゅ!?」

「あーう?」

「こけー?」

「怖がっているわね?」


 そこでギンタがバッと飛びのいていた。リヒトは太鼓をもって警戒していたが、ギンタの視線はダルの顔……ではなく頭の上にあった。

 そこにはリヒトが置いたハニワが鎮座していた。


「あう」

「きゅん……!」

 

 リヒトはハニワを手にして近づいていくと、ギンタはびくっと体を震わせてギルファの後ろに隠れた。


「あー」

「どうしたのギンタ?」

「ギンタはハニワが怖いみたいね。リヒト、しまってあげましょう?」

「うー」


 トワイトがほほ笑むとリヒトは渋々カバンに入れた。するとホッとした様子でリヒトのところへトコトコと戻って来た。


「きゅー♪」

「あー」


 ギンタは友好の証なのかどんぐりをリヒトに差し出した。一瞬リヒトは止まっていたが、すぐに声を上げてどんぐりを受け取った。


「きゅーん♪」

「あーい♪」

「ぴよー!」


 どうやら仲直りができたようで、リヒトはギンタにどんぐりを食べさせていた。食べられそうになっていたソオンが近づくと、ギンタは両手で抱えて頭に乗せた。


「あー♪」

「良かったねギンタ!」

「ちゃんとこのひよこは食べ物じゃないと分かったのね」

「きゅー♪」


 トワイトがほほ笑みながら撫でると、両手を掲げて肯定したように見えた。

 良かった良かったと一同が微笑ましく癒されていると――


「ぷぎー!」

「あーう!?」

「きゅー!?」


 ――茂みからけたたましい声を上げながらなにかが飛び出してきた。


「ぷふー」

「あら、ウリ坊だわ」

「あう?」

「イノシシの子供だよね? どうしたんだろう」


 それはイノシシの子供であるウリ坊だった。鼻息を荒くして鳴いている。


「ぷぎ!」

「きゅー!?」

「あー!」


 言うが早いか、ウリ坊はギンタの手に体当たりをした。その衝撃でどんぐりを落とし、バラバラと地面に転がる。


「ぷひー♪」

「あーう」

「多分、ここが餌場なのかもしれないわね。取られたと思ったのかも? リヒトは食べられないし、あげちゃいましょう♪」

「うー……あい!」


 太鼓をカバンに入れ、しゃがんだトワイトの手を引いてリヒトがウリ坊に近づいていく。ぴよぴよこけこけとジェニファーやひよこ達もついてきていた。

 ハニワのお守りを左手に持ち、トワイトの手を離してからリヒトはポケットへ手を入れた。


「あい」

「ぷぎ!? ……ぷー♪」

「あー♪」


 ウリ坊は一瞬ハニワを見てどきっとしたが、どんぐりには勝てなかったようでリヒトの手からどんぐりを食べていた。


「親は居ないのかしら?」

「たまにはぐれてうろうろしている個体も居ますからね。あ、出てきた」

「ふご」

「ぷ? ぷぎー」

「あー」

「いっちゃったわね。お手てを洗わないといけないわね」

「わほぉん」

「あい!」


 草むらの隙間から親イノシシが顔を覗かせていた。ダル達も居るので警戒をしているようだった。

 ウリ坊が声に反応して親の下へ行き、そのまま姿を消していた。

 リヒトは残念そうだったが、ダル達がすり寄ってきたのでそちらに気を取られていた。


「では戻るとするか」

「わかりました」

「楽しかったー! また来たいねお姉ちゃん」

「元気ねえ」


 そんな調子でディラン達は自然区域のお散歩を終えるのだった。

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