第214話 竜、再会を喜ぶ
「む、目が覚めたかブルグ」
「ここは……? あ、あなたは……!?」
ディランがフッと笑いながら身を起こしたブルグへ話しかける。
そこでブルグはハッとして大きな口を開けた。
「まさかディラン様……!」
「おう、覚えてくれていたか。久しぶりじゃのう」
「おおおおお!」
「でかい声!?」
ディランがポンと手を軽く叩いてやると、ブルグは雄たけびを上げながら荷台を降りた。
だいたいディランより頭二つほど大きな身体が地上に降り、四つん這いになったかと思うと腰に頭を擦り付け始めた。
「会いたかったですぞ……!!」
「また会えるなんてすごい奇跡ねえ」
「……! トワイト様も! おおおおおん!」
「よしよし♪」
続いてトワイトを見てまた口をポカーンと開けた後、雄たけびを上げた。
「喋るブラッドリィベアってのも珍しいが、まさかディラン達が知っているとはのう」
「偶然じゃがちょっと嬉しいわい。まだその小熊くらいのころに会ったのが初めてじゃったし」
「きゅーん?」
「そうなんだ! じゃあこの子も大きくなるんだね」
「あーい♪」
ディランが指さすと小熊が首を傾げていた。ギルファは大きくなることによ転んでいた。
「元気にしておったか?」
「はい。あの時、助けていただいてからこの百年ほどあちこちを移動してなんとか生きながらえております」
「背中の傷はどうしたの?」
「それがなにに襲われたのかわからないのです。空からの気配を感じて咄嗟に息子を庇った後、急いでその場を離れたところまでは覚えていますが……」
ブルグはもう少し遠くで襲われたと語っていた。ロイヤード国の東で、三日ほど走って逃げてきたとのことだ。
「赤黒い羽が見えたのでもしかしたらドラゴンかワイバーンか……ただ、それから追っては来ていないようです」
「赤黒い……」
「どうしたのあなた?」
「いや、なんでもないわい。まあ、ここで会ったのもなにかの縁じゃ。治癒できるまで居ていいか聞いてみようぞ」
「ありがとうございます。息子はまだ小さいもので」
「お母さんはどうしたの?」
何者かに襲われたがその正体は分からないとブルグは言う。ディランの眉がぴくりと動いたのでトワイトが首をかしげる。
ディランはなにもないと返したので、トワイトはひとまず奥さんのことを尋ねた。
「実はこの子は拾った子でして、実の子ではないのです」
「あー!」
「ぴよー!?」
「おお、いかん」
「わほぉん!?」
「こけー!?」
ブルグは悲しそうに拾い子だと言う。その時、大きな声が聞こえてきたのでそちらを向くと、ソオンが小熊の両手に掴まれ、口の中へ入れられそうになっていた。
ダルが手を叩き、ジェニファーがついばむ。取り落としたところでディランが慌てて拾った。
「あーう!」
「きゅーん?」
リヒトが珍しく憤慨して、おすわりをしている小熊をぺちぺちと叩いていた。家族を食べられそうになったのは理解しているらしい。
「危なかったね……ごめんよ」
「ぴよー……」
もちろんリヒトの攻撃ではびくともしない小熊である。ギルファがソオンに謝罪を言うと、ソオンは安堵のため息をついていた。
「ひよこだと餌になるから食べてもいいと思ったのでしょう」
「きゅーん……」
「腹が空いておるのか? これをやろう」
「きゅん♪」
ディランがカバンからトウモロコシを取り出して小熊に与えた。すると大喜びで掴むとそのまま食べ始める。
「野生のクマなら仕方あるまい。それにしても拾い子とはのう」
「あなたもドラゴンですね? ここまで運んでくれたことに感謝します」
「ロクローじゃ、よろしくな。なに気にするない、わしも客人じゃて。それにしてもよく喋るのう」
「ディラン様から教えてもらいました。こういうこともできるようになりましたよ」
「お」
「あら」
そこでブルグは目を閉じてから魔力を使う。すると体が少し縮んで人型になった。
「できるようになったのか」
「とはいえ、耳と髭、尻尾は残ってしまうので未熟です。毛もところどころありますし」
「凄いわよ♪」
「ドラゴンみたいだね」
「しばらく一緒に過ごしていたから色々教わった形なのだ。この姿で話せるので人間の町に行っても獣人として扱ってくれるので助かる」
ブルグは少しだけ得意げに話していた。
するとダルやルミナスがディランとトワイトの足元へやって来た。
「わほぉん」
「わんわん」
「なんじゃ?」
ダルは前足を伸ばしてブルグを指す。自分たちにも教えて欲しいという感じにも見える。
「まだお主らは小さいから無理じゃ。ただ、わしらの眷属となっておるからそのうち話せるようになるかもしれんのう。人化はそれこそ百年とか必要じゃが」
「わほぉん」
ダルはこくこくと頷いた後、尻尾を立ててリヒトの下へ戻った。ルミナスもなんとなく満足げに歩いていく。
「なんだったんじゃ? まあ、出会えてよかったわい」
「というかお主はなにをしに来たんじゃ?」
「おお、そうじゃロクローに話があってな」
再会を喜んでいたが、目的は違うと手をポンと打ったディラン。
そこで改めてロクローへ話をする。
「ほう、国が受け入れてくれると」
「うむ。それで数人連れてきて欲しいのじゃが頼めるか?」
「お前がいけばええじゃろ」
「里に行くと喧嘩をしそうでな。頼むわい」
「仕方ないのう」
ディランが頼み込むとロクローは肩を竦めて了承するのだった。