第213話 竜、知り合いのくまに会う
「大丈夫?」
「ああ、王子。大丈夫ですよ。回復魔法を使っていますから時期に目を覚ますでしょう」
「良かったあ。君の父上は大丈夫だって」
「きゅーん」
「ロクロー爺さんすまないな」
「なに、これくらい大したことはないわ」
ロクローがガラガラと獲物を載せるために持ってきた荷台に大きなブラッドリィベアを寝かせて運んでいた。
その様子を見てギルファがケガの具合を尋ねると、騎士が大丈夫だと返す。
荷台から顔を覗かせている小熊に笑いかけると、小さく鳴いてサッと顔を隠した。
「それにしても喋るとは驚いた」
「魔物も教えれば話せるようになるやつもおるからのう。子供は小さいが、割と古い個体じゃぞこやつ。歴戦の傷をもっておるわ」
「結構、いやかなり強いってことか。そいつを傷つけるとはな。戻ったら警戒態勢だ。ギルドにも連絡」
「ハッ!」
ギリアムはロクローの言葉にうなずき、てきぱきと次の指示を出していた。国王にとって一番痛いのは民が被害に遭うことだ。
警戒を促して損をすることはないため、すぐに伝令を出すことに決めた。
「きゅーん……」
「大丈夫、ウチの騎士さん達はみんな凄いからね! ほら、僕と仲良くしよう?」
「危ないですよ王子」
馬に乗ったまま身を乗り出して小熊に構おうとするギルファに、一緒に乗っている騎士が苦笑する。
「そうかなあ? ヤクト達は大丈夫だったし……」
「わしが話をしてみるか。小さいの、この子は大丈夫じゃ。いじめたりせんぞ」
「きゅーん?」
「そうじゃ」
「きゅん」
「わ」
ロクローが小熊の頭を撫でてギルファを指すと、荷台から乗り出して手を伸ばした。ギルファはそれを見て手を出すと、小熊は大人しく抱っこされた。
「きゅーん!」
「よしよし、大丈夫だからね。あ、ヤクトと違って毛が硬いね」
「噛まれるなよ?」
「子供はどの生き物でもだいたい可愛いものですが、この子はかなり可愛いですね」
「うん。コロコロしていて可愛いね! お姉ちゃんもきっと好きだと思う!」
「きゅ~ん」
ロクローのおかげで少し慣れたのか、小熊は甘えた声を出して背中を撫でるギルファに頭を擦り付けていた。
そんな調子でギリアム達は狩りを終えて城へと帰りつく。
「陛下!」
「戻ったぞ。どうした?」
ホールに入った瞬間、大臣が待っていた感じで声をかけてきた。そんなに慌てるようなことがあったのかと訝しむ。
「ディラン殿が参られております。なにかお話があるとかで」
「お、マジか。ロクロー爺さんも居た方がいいかな。よし、とりあえず庭へ案内してくれ。でかい熊が寝ているはずだ。その間に着替えてくる」
「は? か、かしこまりました」
ギリアムは他の騎士へも告知を出すように指示を飛ばしてから部屋へ戻る。
そして大臣はディラン達を庭へ案内するため、応接間へと走った。
「ギリアム様がお戻りになりました。しかし、なにかトラブルがあったようで庭に行くようにと。ロクロー殿もいらっしゃるようです。こちらへ」
「わかった。助かるわい」
「ありがとうございます」
「あーい!」
応接間でくつろいでいた一家は腰を上げて大臣についていく。階段などがあるためリヒトはトワイトが抱っこしての移動となる。
「お庭ですって。遊べるかしら? ギルファ君もいるといいわね」
「あー♪」
「ぴよ!」
「こけ!」
「ギリアム殿次第じゃな。まあ、少しくらいならええと思うが。それにしてもトラブルとはなんじゃ?」
話もしたいが遊ばせたいとトワイトが笑う。ディランは少しならと答え、そのまま大臣に質問を投げかけた。
「私も言われた通りにディラン殿の下へ行ったので詳しくは……あ!?」
「ほう」
「なるほどね」
程なくして庭へ出ると、大臣は小さく呻いた。
それもそのはずで、大きな熊が庭に寝そべっていたからである。
しかしディラン達は特に気にすることもなく近づいていく。そこにはロクローとギルファ、そして騎士たちが立っていた。
「よう、ここにおったかロクロー」
「おお、ディランじゃないか! トワイトちゃんも!」
「あーい!」
「リヒト君こんにちは!」
「うぉふ!」
「ヤクトー!」
ひとまず顔を合わせると片手を上げてディランとロクローが挨拶を交わした。
リヒトも真似をして手を上げると、こちらはギルファが気づき、近づいてくる。
ヤクトが久しぶりだと一声鳴くと、ダルとルミナスがギルファの腕に居る小熊を見て首を傾げた。
「わほぉん?」
「わん」
「おや、ブラッドリィベアの子供ね? どうしたの?」
「こけー!」
「きゅん!?」
「怖がらせてはいかんぞジェニファー」
「それが――」
そこでギルファがここまでの経緯を話した。
狩りに行きディランの作った木彫りが震えたと思った瞬間、寝ている大きなブラッドリィベアがやってきたことを。
そして大きい方は喋ることができたものの、怪我のせいで倒れてしまったと語る。
「喋るブラッドリィベア……ふむ」
「あなた、まさかこの子……」
「どうしたディラン?」
話を聞いてディランが顎に手を当ててから大きなブラッドリィベアへ近づいていく。荷台に乗せたままなので少し高い位置にいるため目線がちょうどいい。
そこでディランが右耳の後ろの毛をサッと広げて確認する。
「む、やはりか。こやつはわしが会ったことがある個体じゃ」
「ほう、そうなのか」
「うむ。耳の後ろを怪我しておってな、治療をしてやった。名をつけてやったのもわしでブルグという。大きくなったのう」
「ああ、やっぱり♪ 賢い子でしたものね」
ディランはこの熊を知っていたようで、トワイトも笑顔で顔を覗き込む。
「知っているの?」
「うむ。百五十年くらい前に東の方で親とはぐれたこやつを拾ったのじゃ」
「百五十年前じゃと確か、お主らどこかへ出かけておったのう」
「そうですそうです」
「ん……む……今の声は――」
経緯を話していると、大きな熊であるブルグが目を覚ました。




