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第212話 人、森のくまさんと出会う

「うわあ、凄いねえ」

「森は静かでいいわい。しかしギルファのような子供だと魔物が怖い。一人では絶対に来てはならんぞ」

「はーい! でもロクローさんの装備があれば大丈夫かも?」

「装備は戦い方を知ってようやく意味を成す。逃げに徹するのがいいぞい」

「その通りだな。一人で抜け出したりしたらダメだからな?」


 初めて森へ来たギルファは目を輝かせて周囲を見渡していた。そこでロクローがここは危険であること、騎士や自分、父親が居るから大丈夫であることを告げた。

 ギリアムもそれに同意し、頭をくしゃりと撫でながら言いつけていた。


「うん、わかったよ! それで狩りってなにをするの?」

「とりあえず動物を狩る。魔物に出会ったらそっちになるな」

「そっか……動物もだね」

「ああ。お前の食べている肉なんかはこうやって手に入れる。お気に入りのヤクトなんかも毛皮が貴重だし、寒くなれば狙われる」

「あー……」


 ディランのところに居るペット達はたまたま、ああいう形になっているが、本来であれば狩猟対象にも成り得ると説明した。

 その瞬間、ギルファは悲しそうな顔をする。


「だが、むやみに殺してはならん。狩りも構わないと思うが、やりすぎないのが寛容じゃ」

「うん」

「例えばわしがここで暴れたら恐らくここにいる者どころか森が消える。食べるためとはいえそこまではできんとわかるじゃろう」

「そうだね!」

「わしらには知恵がある。都度、考えることじゃ」


 狩った獲物には感謝をもつなどもその一つだとロクローは口元に笑みを浮かべてそう言っていた。

 ギルファは勉強はできるがこういった自然の関わりは初めてなのでなるほどと自分なりに考えていた。


「僕達は食べないと生きていけないもんね。可哀想だけど、そうしないと僕達が死んじゃうから……」

「そうだな。それが人間ってもんだ。魔物や動物も狩りをして食う個体が居る。だからそういうもんだと割り切りも大事だ」

「わかったよ父上」


 ギルファは力強く頷いた。

 狩りをするということがどういうことか少し理解できたと語った。


「陛下、鹿が」

「お、早速か。いいか、ギルファ。今は娯楽で狩りをしているが、時には向こうから襲ってくることもある。その時は迷いなく倒せよ」

「……!」


 ギリアムがそう言うが早いか、弓を手にしたギリアムが矢を放つと、あっという間に鹿の眉間に刺さり絶命した。

 

「お見事!」

「今日のディナーになるか」

「うう、ごめんよ……」

「ふぁっふぁ! まあ、まだギルファには刺激が強いかのう。後は解体か」


 ギルファが顔を青くしているとロクローが笑いながら慣れるだろうと言う。そのまま解体をする騎士達。

 ギルファは目を逸らさずに、その様子を眺めていた。


「無理しなくていいんだぜ?」

「ううん。今日のお肉になるんだから感謝しないと」


 子供ながらに思うところはあったようで、ギリアムが苦笑しながらギルファの頭に手を乗せて解体を見守る。

 そこからはジャイアントワスプやソー・アントといった素材の使える昆虫を倒しながら森を徘徊する。

 

「昆虫は倒してもあまり気にならないのはなんでだろうね」

「見た目とかじゃろうなあ。ゴキブリとかだと殺すのを躊躇わないのと同じかもしれん」

「ゴキブリ……?」

「知らんのか」


 皆が恐れる昆虫の名をロクローが口にするが、ギルファは分らなかったようだ。

 どこにでもいるためロクローが不思議がるが、ギリアムがその答えを話した。


「城には出ないからなあ。キッチンなんかはかなり清潔に保っているぜ。町もちゃんと清潔にするよう飲食関連は厳しくしている」

「苦手か」

「ああ」


 苦手かと問われ、ギリアムはハッキリと不快感を露わにして答えた。それもそうだろう。知る者が見ればアレが動いている現場を発見したらまず動きが止まる。


「ドラゴンより厄介だぜ、俺的にはな」

「わかるがの」


 ロクローは笑いながらそう返していた。ギルファは分らず首を傾げていた。

 

 すると――


「ん?」

「どうした」

「えっと、お守りが……」

「そりゃディランが作ったやつか? 相変わらず下手じゃのう」

「そう? 僕は可愛いと思ったけど! というかなんか震えている気がするんだけど……」

「確かに……?」


 カバンに入れていた木彫りが震え出した。取り出すと確かにカタカタと震えている感じがあった。


「なんだろう、なにかを呼んでいるような……」

「陛下、お気を付けください!」

「何だ? ……うお!?」


 騎士達が武器を構えてギリアム達を守るように動くと、正面を見据える。そこには巨大な熊が立っていた。


「こいつは……ブラッドリーベアか」

「強力なやつじゃねえか……!? なんでこんなところに……まあいい、倒すしかあるまい」


 ロクローが目を細めて巨大熊を認識すると、ギリアム達はぎょっとして冷や汗を流す。

 立ち尽くすブラッドリーベアにいつ仕掛けるか? もしくはいつ来るか? そう思いながら武器を握る手に力を入れる。

 するとそこでガサガサと茂みが揺れた。


「まだ居るのか……!」

「きゅーん……」

「あれ!?」


 茂みから出てきたのは小さな熊だった。弱々しい鳴き声をしながら大きな熊の前に倒れ込む。


「ぐおおお……」

「……!」


 その瞬間、大きな熊は小さい熊を庇うように四つん這いになった。困惑する騎士達の前へロクローが歩み出た。


「ふむ、親子か? アッシュウルフやブラッドリーベアは子を作ることはあるが……」

「う、ぐ……ド、ドラゴン……か……なにかに呼ばれたような気がしたので来てみれば……運の、ない……」

「しゃべった!? 魔物なのに……!」

「上位個体じゃな。わしらに近いのじゃろう……む、こやつ怪我をしておる。治療してやってくれんか」

「あ、はい……!」

「きゅーん……」


 見れば大きな熊は背中に傷を負っていた。

 それでも子を庇おうとする様子に、子熊は心配そうに鳴いていた。


「大丈夫だよ! きっと治る!」

「きゅーん」


 そんな心細い子熊を、ギルファは背中を撫でて安心させるのだった。


「……ふん、この傷、一体何者じゃ?」

「ロクロー殿、なにか?」

「こやつの毛と肉は硬い。それを引き裂く相手がこの近くに居る可能性がある。薬を塗ったらここを立ち去るぞ」

「あー、そうだな」


 ロクローが神妙な顔でそう言うと、ギリアムは理解して頷いた。

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