第203話 竜、祝う
「あーうー♪」
「ぴーよー♪」
「リヒト君、お腹が気になっちゃったわね」
「なにか聞こえるのかしらねえ」
レイカの部屋に来てしばらく雑談をしていたのだが、リヒトとひよこ達という赤ちゃんたちがレイカのお腹から離れなくなった。
リヒトはお腹に耳を当てて目を瞑り、たまに嬉しそうな声を上げてはお腹をさすっていた。
「ごめんなさい、動きにくいわよね」
「いえ、大丈夫ですよ! リヒト君、可愛いですし」
「あい!」
リヒトは返事をした後、またお腹に耳を当てて笑っていた。その場にいた全員が苦笑する。
「今日は寝るまでこうしてそうじゃのう」
「寝たら引き取りますよ♪ どれくらいかにもよるけど、まだ体調は大丈夫みたいね。食欲はある?」
「ご飯はいくらでも食べられますよ! お腹がすぐ減って太らないか心配なくらいで……ユリも見てくれているけど、ひとりでも動けるくらいは平気です」
「まだ初期ならそれくらいかも。赤ちゃんが元気になるためいっぱい食べたほうがいいのよ」
「はい!」
「わん」
「あら、ルミナスも?」
トワイトはすでに通ったことのある道ということでなにかあれば相談して良いと手を握ってあげていた。ルミナスも雌だからか、その手に前足を乗せていた。
「ユリは依頼にいかなくても良かったのかのう」
「わたしはなにかあったときのために待機しているって感じですねー。トーニャが強いからわたしが行かなくても依頼は問題ないし」
「でも人数が増えているからお金、大変じゃない?」
「んー、屋敷があるから宿代が無くなったし、トーニャが一回で二件の依頼を受けたりしていて、実は潤っていたりします!」
「なら、ええがのう。野菜と米を分けるから持って行ってくれ」
ギルドの依頼はなんとでもなるとユリが言い、それと同時にトーニャ一人に負担がかかっているかもと悔しい顔をしていた。
「トーニャは皆と生活するのが楽しいようじゃし、パーティは家族同然。家計も依頼も一緒に、時には留守番というのもあり得るわい」
「そうかなあ。実際、トーニャが一番強いし頼っちゃうわたし達も悪いんですけどね」
「うふふ、そういう気持ちがあれば大丈夫よ。利用しようとしている人は許せないですけどね」
「うん……それは絶対にないかな! 今度トーニャと話してみるね!」
「私達は生活するために働いているってやつだものね」
一緒に住んでいる以上、お互い様ということをディランが話し、トワイトはトーニャの力を利用するような皆じゃないでしょと微笑んでいた。
もしそうであればガルフ達と初めて会った時に、もっといざこざがあったはずだとも口にした。
ユリとレイカはもちろんそんなことはないと頷く。
そんな話をしていると、玄関でまたノック音がした。
「あら、お客様ね」
「ありゃ、今日は来客が多いわね。ちょっと行ってくる」
「ごめんねユリ」
「なるほど、来訪者の声はここからじゃ聞こえないようじゃな。門からでは特にそうか」
「そうですね。あら、これはエメリさんとフレイヤさんみたい」
「わ、聞こえるんですね」
「あーう♪」
「ぴよーん♪」
ユリが席を外して来客対応へ向かうと、夫婦は耳を澄ませて誰が来たかを口にする。客人はウィズエルフとフレイヤの二人だったようだ。
そんなことはおかまいなしに、リヒトとひよこ達は段々とレイカのお腹に頭を置くのが楽しくなってきたらしく高い声を出していた。
そうしていると二人もレイカの部屋に招かれた。
「こんにちはー! 女子会に来ました!」
「竜神様が居るからな!?」
普段着を来たフレイヤが手を上げながら入ってくる。そして続けて入って来たエメリもウィズエルフの民族的な服ではなく、王都で売っているような服を着ていた。
相変わらずツッコミをしているのかとレイカが苦笑しながら部屋に入って来た二人に挨拶をする。
「こんにちは二人とも」
「エメリさん、フレイヤさんこんにちは」
「竜神様、奥方様、リヒト様ご無沙汰しております」
「あーい!」
「こんにちはディランさん、トワイトさん! わー、リヒト君にペットさん達もこんにちは!」
「わほぉん」
「うぉふ!」
「こけー!」
二人が増えてさらに部屋が賑やかになる。買い物袋を机に置いてフレイヤがしゃがんでペット達を撫でまわす。
「今日はどうしたの?」
「もちろん遊びに来たの! 昨日、二人が屋敷に居るって聞いていたからお菓子を持って女子会をしようかなって。ディランさん達一家が来ていたのは予想外だったわ!」
「うふふ、いいわねえ。お茶を持って来たから入れましょうか。竜嬉草のお茶は気を落ち着かせる効果があるから今のレイカちゃんにはいいと思うわ」
「ありがとうございます!」
「あ、キッチンへいきます?」
トワイトが持って来たお茶を煎れると言い、ユリがキッチンへ案内しようとする。
そこでディランが顎に手を当ててから口を開く。
「女子会とは女性だけで集まるお茶会かのう?」
「んー、まあそんな感じですね! でも、ディランさんが居ても全然いいですよ」
「折角じゃし、ワシは散歩にでも行こうかのう。ワシが居ると話しにくいこともあるじゃろうしの。赤子のことならトワイトに聞けば色々教えてくれるはずじゃ。ダル達はどうする?」
ディランは女性だけの方がいいこともあると散歩を提案した。リヒトを歩かせるためでもあったがたまにはトワイトを置いて散歩もいいだろうと。
「わほぉん?」
「あーう?」
「外へ行くぞい。ついてくるか?」
「あー……」
「行って来る?」
ペット達がディランの顔を見て首を傾げる。扉の方へ行く彼を見てリヒトはトワイトとレイカを見比べる。
「あい!」
「うぉふ」
レイカが笑いかけるとリヒトは太鼓を鳴らしてヤクトの背中へ乗る。するとダルも伸びをしてディランの下へ行った。
「ぴよー」
「ぴよ」
「お主達も来るか」
さらにレイタとソオンもディラン側へ来て、奇しくも男女がキレイに分かれた。
「では散歩へ行くとしよう。ルミナス、ジェニファー、トコト。トワイト達を頼むぞい」
「わん!」
「こけー!」
「ぴよぴー!」
「あーう♪」
「また後で! 今日の依頼はあまり難しくないと思うし多分、昼過ぎにはガルフ達も戻ってきますよ」
「あなた、お祝いのご飯を作りますからなにかお肉を買ってきてもらえますか?」
「あい分かった」
ディランは口元に笑みを出しながらユリ達に片手を上げて部屋を出ていく。
「さて、リヒトも散歩じゃな。お店へ行くかのう」
「あいー!」
ヤクトから降りてよちよちとリヒトが歩き出し、すぐ隣をゆっくりとディランも歩き出した。