第202話 人、めでたい雰囲気になる
「来たぞい」
「あーい!」
「出かけていたらあとからにしましょうか」
一家はトーニャ達の屋敷へ到着し、鉄柵の門の前で声をかける。
時間的に依頼を受けに行っている可能性があるため、トワイトは少し待って出なかったら出直そうという。
「あらあら、お久しぶりねえ」
「え? ああ、ご無沙汰しております」
そこでご近所の奥さんが声をかけてきた。
以前、屋敷を購入した際に気さくに話しかけてきた夫人だとすぐにわかりトワイトが挨拶を返す。
「娘さんに? まあまあ、荷台にワンちゃん達が乗っているのね! 触っても大丈夫かしら?」
「大丈夫じゃ。なあ?」
「わん!」
にこにこと笑顔で荷台にお座りしているダル達に近づいていく夫人。ディランが撫でても大丈夫かと尋ねると、ルミナスが快く承諾した。
「お手入れされているわね。ふかふかだわ」
「わん♪」
「毎日ブラッシングをねだるんですよ。その子は特に好きで」
「いいわねえ。ウチの主人は動物嫌いなの。お庭は広いのだけど残念だわ。ああ、それにしても本当にいい毛並み。ウチにある毛皮のコートみたいね」
「わん!?」
「あ」
「うぉふ……」
「わほぉん……」
「あーう!」
毛皮のコートと聞いてからルミナスは慌ててその場を離れ、ダルとヤクトもルミナスと一緒に固まって丸まった。リヒトはアッシュウルフ達をいじめられたと思い、彼らの前に立ちはだかり声を上げていた。
「ごめんなさい、あなたたちをコートにするわけじゃないのよ!」
「大丈夫よみんな。寒くなったらリヒトや私たちと一緒に寝ましょうね♪」
「わほぉん」
「あーい♪」
トワイトがほほ笑みながら言うとダルが尻尾でリヒトの身体ををくるんと巻いた。
「まあまあ、仲がいいわね。あ、この屋敷の女の子、最近調子が悪そうだったからワンちゃん達を見て元気になるかもしれないわね。多分居るはずよ? あ、引き止めちゃったわねごめんなさい、またね」
「ごきげんよう」
と、夫人は嵐のように話して立ち去って行った。
気になるのは調子が悪いと言われた女の子という部分だろう。四人いるため一体誰なのかと顔を見合わせる。
「トーニャとリーナちゃんは病気になりにくいし、レイカちゃんかユリちゃんよねえ」
「なんにせよ居るとしても寝ておるかもしれんのう。看病で誰か残っているとええが。おーい、ディランじゃ。誰かおるかのう」
看病している者が居れば気づいて欲しい。一人にしているならそれはそれで心配だとディランはもう一度、今度は少し大きい声で尋ねてみた。
「ふむ、玄関まで行くか。一応、ワシらが買った物件じゃし大丈夫じゃろ」
「そうですね」
「あーい」
「うぉふ」
「こけー」
キィっと鉄の軋む音をさせながら門を開けて玄関へ。リヒトがヤクトに乗って荷台を降りると、ジェニファーも羽を使って降り、庭へ走っていった。
「庭なら大丈夫かのう」
「誰かいないかしら?」
早速庭ではしゃぎ始めたペット達をよそに、トワイトが玄関のノックを叩きながら首をかしげる。すると玄関に誰かが来る気配がした。
「ごめんなさい、どちら様ですか?」
「ワシじゃ、ディランじゃ。それとトワイトもおる」
「あー! ディランさん!」
声の主はユリで、ディランの声を聞いた瞬間、玄関が開いた。
「こんにちは♪」
「トワイトさん、こんにちは♪ あれ? リヒト君は?」
「あそこじゃ」
「あー、元気そう! 今日はどうしたんですか? あ、入って入って! リヒト君ー、みんなーおいでー! 中に入るよー」
「うぉふ?」
「あーい♪」
「ぴよー!」
「ワシは荷台を動かしておくわい」
ユリが手を振って呼ぶと一斉に集まって来た。ユリがみんなを迎え入れると、ディランは荷台を日陰に移動させに行った。
「ユリちゃんは元気そうね? 体調が悪いのはレイカちゃんかしら」
「知っているんですか?」
「ご近所の方がそう言っていて。大丈夫なの?」
「まあ、病気ではないというか……」
「?」
「わほぉん?」
ユリがダルを抱っこして顔を合わせる。なんのことかわからないとダルはユリの鼻先をぺろりと舐めていた。
「会ったらわかりますよ!」
そういうユリについていくことに。ダルは小脇に抱えられてだらんと四肢を伸ばしてくつろいでいた。
そして『ガルフとレイカの部屋』という札の下がった部屋へ到着する。
「レイカ、ディランさんとトワイトさん、リヒト君が来たよー」
「え、本当? どうぞ!」
「お邪魔します」
「あーい!」
「うぉふ!」
「わん!」
「ぴよー」
ユリが扉を開けてトワイト達が中へ入る。一気に騒々しい感じになった部屋のベッドでレイカが上半身を起こしていた。
「あはは、みんな元気だ」
「わん♪」
「ぴよ!」
「あーい♪」
ベッドのへりにずらりとアッシュウルフ達が並び、レイカがほほ笑みながら頭を撫でる。リヒトはベッドによじ登りレイカの前へ行った。
「わ、リヒト君こんなに動けるようになったんだ……」
「あーい!」
「最近、ダルと喧嘩したりしてたんだけどそれからちょっとずつ歩くようになってきたの♪」
「へー、ダルあんたなにしたのよ」
「わほぉん」
リヒトがベッドの上でお座りをするのを見て驚くレイカ。説明を聞いたユリはダルの頭に手を置いてにやりと笑う。しかしダルは目を合わせようとしない。
「でもレイカちゃん、どこか具合でも悪いの? 体調はいいとユリちゃんは言っていたけど」
「えーっと……それを話すならディランさんも一緒がいいかな?」
「そうなの? すぐ来ると思うけど……」
「あ、わたし迎えに行くね。部屋が分からないかもだし」
そういってユリが出ていき、少し待っているとディランがやってきた。
「なんじゃワシらに話があるとか?」
「あ、こんにちはディランさん! そうなんです……体調はいいんですけど寝ている理由は……その、赤ちゃんができまして……」
「なんと」
「まあ!」
「あーう?」
「こけー?」
レイカが苦笑しながらそんなことを言い、ディランとトワイトが驚いていた。両親の驚きが分からずリヒトはジェニファーと首をかしげていた。
「そうなんです。だから安静にしないといけなくて」
「わかったのはちょっと前なんですけどね。それで遊びにもいけなかったんです」
「そうだったのね♪ ガルフ君と結婚するのね!」
「はい! というか、式は挙げてないけど夫婦にはなりました」
「ほおう、やりおるのうガルフめ」
「ねー」
「あーう?」
「さすがにリヒト君にはわからないかな」
おめでたいとそれぞれ口にするなか、リヒトはレイカにハイハイで近づいていく。そこでトワイトがほほ笑んだ。
「お腹にリヒトみたいな赤ちゃんがいるのよ。ほら撫でてあげましょう」
「あう? ……あい!」
「ふふ、ありがとうリヒト君」
「あーい♪」
そこでリヒトはカバンからでんでん太鼓を取り出し、ポコポコと音を鳴らしながらお腹を撫でだす。
「まだどっちかわからないけど、男の子だったらリヒト君みたいに元気な子がいいなあ」
「うふふ、女の子でも二人の子ならきっと元気で可愛いわよ♪」
「うーん、わたしも彼氏欲しいかも? ねえダル、誰かいない?」
「わほぉん」
「あ、また顔を逸らす。こっちをみ・な・さ・い!」
「わほぉぉん……」
「やれやれ、ユリはまだまだかもしれんのう」
おめでたい雰囲気の中、ユリとダルが遊んでいるのを見てディランは肩を竦めるのだった。