第201話 竜、王都へ遊びに行く
「今日もいい野菜と米がとれたわい」
「いいトマトですね♪ ダルが喜びますよ」
ドルコント国から戻ってひと月ほどが経った。
特に来客があることもなく、ディランは畑仕事、トワイトは縫い物をしながらリヒトを遊ばせる毎日を続けていた。
ダルが遅くまで帰ってこなかった日を境に、リヒトはアッシュウルフやひよこ、ジェニファーが近くに居ないと探すようになり、ペット達もあまり離れないようになった。
ダルも寝ていることが多いものの、みんなと遊ぶ頻度が増えたりしている。
今もディランが帰って来た遊戯室ではリヒトたちがはしゃいでいた。
「ロクローはちゃんとやっておるのかのう」
「そういえばボルカノさんとか来るって言ってましたけど、来ていないですね。ハバラも移住に来ていないような」
「じゃのう。まあ元気でやっていればワシはいいがな」
「私はリコットちゃんに会いたいですよ。ねーリヒト」
「あい?」
座って編み物をしていたトワイトがディランの言葉を聞いてリコットに会いたいと口にし、リヒトを呼ぶ。
名前を呼ばれたリヒトは太鼓をたたくのをやめてトワイトのの方へ振り返った後、とたとたと歩いてくる。
「わん」
「あい」
ひと月でリヒトも少し成長し、ある程度一人で歩けるようになってきた。
それでも前のめりにこけることがあるため、少し歩いたらアッシュウルフ達の誰かがサポートに入る。今日はルミナスの番のようだった。
リヒトは途中でルミナスの毛を掴んで歩いていき、立っているディランの足に抱き着いた。
「あーい♪」
「あら、お父さんの方に行ったのね」
「よく歩いたのう。偉いぞ」
「あー♪」
「ぴよー♪」
ディランに頭を撫でられてご満悦のリヒト。そこへ追いついてきたレイタがぴょこぴょこと飛び跳ねていた。
「あーう」
「あら、どうしたのかしら?」
足にしがみついた後、リヒトは裾を引っ張りながら外を指さしていた。どうやら外にお出かけをしたいようである。
「うぉふ!」
「こけー」
便乗してヤクトとジェニファーもやってきて鳴く。お散歩をしたいと言っているように見える。
「ふむ。リヒトも外を歩きたいか。最近、町に行ってないし久しぶりに行くか?」
「いいですね。お野菜をもってトーニャちゃん達のところへ行きましょうか」
「じゃな。ユリもダルに会いたがっているかもしれん」
「わほぉん」
最近はトーニャ達パーティもめっきり来なくなっていたので顔を合わせていない。
ダルを撫でまわすユリの姿を思い浮かべてディランが言う。
「よし、では行くか」
「あーい!」
「うふふ、なら準備しましょうね♪」
「わん♪」
ディランがリヒトを抱っこし、町へお出かけすると宣言した。それを聞いて早速トワイトが立ち上がり、準備をしようと言う。
ルミナスはブラッシング用のブラシを咥えてトワイトへ渡し、ヤクトは伸びる笛をリヒトに持ってきていた。
ジェニファーは素早くリビングに置いてあるカバンに入って首を出す。
「みんな早いのう」
「はい、リヒト。カバンと帽子よ」
「あーい♪」
リヒトもカバンを下げて太鼓と笛を入れて満足げにカバンをポンポンと叩いていた。
「わほぉん」
「あい!」
「それは町についてからじゃ。とりあえず向こうまでは飛んでいくぞい」
「お母さんが抱っこするわね」
ディランが最近作ったお手製の荷車に野菜と米を積みこんでからドラゴンに変身する。トワイトが荷台を軽々と引いてディランの背に乗る。
「あうー」
「ぴよー」
ひよこ達もリヒトの胸ポケットへ入ったのを確認すると、ディランの背へ乗った。
すでに姿を隠す必要も無いため、ドラゴンの姿でも高く浮かずにまっすぐ王都へ向かった。
「あー♪」
「うぉふ♪」
「いつもと違って低い位置だからいろいろ見えるわね」
トワイトが抱っこし、眼下を見下ろすと前は雲一色だったものが緑や家屋といったものに変わっていた。リヒトはその景色に喜び、はしゃいでいた。
もちろんサッと飛んでいくため王都にはすぐ到着する。
「うー」
「うふふ、すぐだったわね。帰りはゆっくり飛んでもらいましょうか♪」
「ぴよー」
王都近くの草原で着陸して荷台を降ろした後、変身を解いたディランが荷台を引いて街道に出た。
「みな乗ってよいぞ」
「わほぉん!」
「わん」
「うぉふ」
「こけー」
「それじゃ私たちも」
ペット達とトワイト、リヒトを乗せて歩き出す。たんまりと荷物も乗っているが、荷台を軽々と引いて門を目指す。
「お父さんは凄いわねー♪」
「あい♪」
「まだまだ若い者には負けんぞう」
「あー♪」
荷台の先頭でリヒトが鼓舞し、ディランがそれを聞いてフッと笑い速度を上げる。
すると前を移動していた馬車と並んだ。
「おお……人力で引いているのか……?」
「む。商人か?」
「こんにちは♪」
「あい♪」
「ええ、王都へ行くところです。これはご丁寧に。奥さん美人ですな」
「そうじゃろう?」
御者台にいた少し太っている人の好さそうな男が挨拶を交わす。
幌付きの荷台から覗かせている荷物がザミールを思わせ、商人かと尋ねたら肯定していた。
トワイトを褒められディランは当然だと不敵に笑っていた。
「うわっはっは! 仲が良いですな! 故郷の妻に会いたくなりましたよ」
「ちゃんと帰ってやるのじゃぞ?」
「もちろんですよ! ……というより、さすがに馬か牛が必要ではないですか……?」
「そうか? これくらいなら全然たいしたことないぞい。ほれ」
「……!?」
「あーい♪」
商人の言葉にディランが足を速めた。本当に軽々としているため目を丸くして驚いていた。荷台のリヒトは荷物の陰から後ろ見て商人に手を振っていた。
そのまま王都にたどり着き門番のチェックとなる。
「止まれー……っと、あなた方は!」
「ワシを知っておるのか」
「ふう、追いついた……」
門番がディランの顔を見るとパッと明るくなった。ちょうど商人も追いついてきた。
「もちろん、ドラゴン殿を知らぬものは王都には居ないと思いますよ! それは陛下へのお土産でしょうか?」
「今回は娘のところへいくのじゃ」
「そうでしたか……陛下もおコメが無くなったようなことを言っていたので、もしあまりがあれば売っていただけると喜ぶと思います」
「考えておくわい。通ってもええかのう」
「一応、検品を……野菜なども見えているし、問題なしですね。どうぞ!」
「ありがとうございます♪」
「わほぉん」
「うぉふ」
「わん」
「ではの。どこかでまた会ったらよろしく頼むわい」
「あ、はあ……」
門番に通ってよしと言われてディランが先ほどの商人に挨拶をして町の中へ。
段々小さくなっていく背を見て、商人が呟く。
「……彼は何者なのですか……? ドラゴンとか聞こえましたが……」
「ああ、キリマール山に住んでいるドラゴンのお触れはご存知ないですか? 彼らがそうですよ」
「そういえば国境を越える時に聞いた気が……国王様とも懇意なのですか」
「ええ。この国で最強を誇るのんびりした一家ですよ」
「へえ……」
商人は確かにフィジカルが凄いと頷く。そこで空から大きな魔物が降りてきた。
「……!? あ、あれ! 魔物じゃあないですか!?」
「え? ああ、あれは宅配キマイラですよ。先ほどのディラン殿が仲間にして連れてきたと聞いています」
「な、なんなんだこの国……」
軽く笑っている門番に商人は愛想笑いを浮かべてそう呟くのだった。
そしてトーニャのところへ行ったディラン達は――