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第197話 王、自らの手を汚す

「……」

「う、ぐ……馬鹿な……なぜ貴様がここに……」

「ち、父上……?」


 ブライネルが口から血を吐きながら冷や汗を流して口を開く。その瞬間、その場に居た全員が注目し静かになった。

 オルドライデは先ほどの剣で額に怪我をした父の姿を見て困惑する。


「私が……」

「なに……?」

「私が弱かったのだ。オルドライデほどの勇気が少しでもあれば、父が死ぬことも無かったろう」

「なにを言っているのです父上……!」


 ポツリポツリと誰に言うわけでもなく呟くウォルモーダ。オルドライデのように勇気があればと呟いたところで彼に視線を向けた。


「言葉通りだ。母が殺された時、私は父と共に塞ぎこんでいた。本当なら父を支えて今、こうしているようにこの男を裁くべきだったのだ。父を殺したのは外でもない……私だったのだ」

「父上……」


 ウォルモーダは若く、この大胆にも王妃を殺すという所業をしたブライネルが恐ろしかったと吐露する。

 婚約したばかりのカーネリアにもし同じようなことが起きたらどうする? 父親も殺される? 寄り添ったら自分も?

 そんなことばかりを考え、保身をしてしまったが故に父親である王は壊れてしまった。

 ブライネルを恐れていることを見透かされ、この時まで傀儡となってしまったと口にする。


「く……くく……私の言うことをなんでも聞いていたお前が……こ、こんなことをするとはな……」

「そうだ。私が臆病だっただけの話。そこのドラゴンに分からされたというべきか。どんなに威圧的に、恐ろしいことを口にしたとしても信念が、自信があればやれぬことはないということだ!」

「ぐあ……!?」

「オルドライデ達に手出しをさせるわけにはいかんのでな! ここで果ててもらう!」


 ウォルモーダは後悔を口にしながら小剣をブライネルの腹に突き刺した。

 すると黒装束の男達がハッとして動き出す。


「父様……!」

「行かせられないな! お前達も死にたくなければ動くな」

「……!」

「くっ……!」


 オルドライデの忠告は聞かず、剣を振ってくる。仕方なく斬り伏せると、場が再び騒然となった。


「王にもならず貴族を貴族たらしめんために存続させ続けるためだけの人生か。愚かなことじゃ」

「わ、私を侮辱する……つもりか……」

「どうかのう。どちらかと言えば長生きしておるワシも似たようなことがあったなと思っただけじゃ」

「強者のドラゴン……が……」

「畏怖させるだけでは誰も着いて来ないものじゃ。お主の施策もいつか瓦解していたであろうな」

「そ、んな……はずは……何十年もやってきた……のに……か」

「ワシは二千五百は生きておる。何百、何千と色々な種族を見てきたから分かるわい」

「貴族は……きぞくであらねば……舐められては……いか、ん……の……だ……」

「さらばだ、ブライネル」

「くく……し、しかし、好都合だ……今ごろ貴様の妻は――」


 自分の人生を振り返らせ、驚愕した瞬間にウォルモーダは倒れたブライネルの頭を刺した。

 眼を見開いて彼を見た後、がくりと首が横になり絶命を告げた。


「と、父様……」

「主は死んだ! 大人しくしろ」

「……」


 手練れではあったが騎士とならず者の数が多く、ブライネルを助けることは出来なかった。戦いの中、一瞬の隙を縫ってブライネルへ肉薄したウォルモーダが一枚上手だったのだ。

 父と崇めていた人間が居なくなり、黒装束の者達は呆然として大人しく武器を捨てた。


 しかし――


「うあああああああああああああ!!」

「……」

「父上!」


 ――その内の一人が狂ったように叫びながら剣を振りまわした。標的はウォルモーダで、止めようとした騎士を引きずりながら迫っていく。

 その黒装束をチラリと見たまま動こうとしなかった。

 そこへオルドライデが間に入り、黒装束の男の剣を弾いて落とし首筋に刃を突き立てた。


「……!」

「……オルドライデ」

「なにをしているんだ……! 死ぬつもりか!」

「ふん、そんなはずがないだろう。私にはまだやることがある。まさかまだ間者が居たとは……カーネリアが危ない」


 父に激昂するオルドライデだが、妻のことを案じて死ぬつもりはないと口にする。

 そこでリーナが慌てた様子で口を開く。


『悪態ついている場合じゃないよ!? 早く戻らないと!』

「そ、そうですよ! 王妃様が!」

「だー」


 シエラも慌ててそう口にする。

 しかし、トワイトがにっこりと微笑んでから口を開いた。


「大丈夫よ♪ あっちの対策はちゃんとしてきたから」

「トワイトさん一体何を……?」


 オルドライデが早く戻りたいと言うがトワイトが問題ないと語る。

 

 そんな王都では――


「……カーネリア王妃、夜分失礼します」

「あら、なにかしら?」


 ――オルドライデ付きの官僚がカーネリアの部屋を訪ねていた。用件を聞いてみるも、やんわりとした表情をした彼が部屋へ入ってきた。


「勝手に入ってくるなど無礼――」

「まあ、これで終わりですから」


 勝手に入って来たことにお付きのメイドが口を尖らせた。しかし、すぐに黙り込んでしまう。何故ならその官僚は笑顔で剣を握っていたからである。


「ひっ……!?」

「……ダルボではなく、あなたが本当の裏切り者ですか」

「まあ……ああいう小物を泳がせておいた方が隠れ蓑にしやすいでしょう? オルドライデ王子に信用されるように努力したかいがありました。いや、あなた達両親と喧嘩をしているからやりやすかったですが」


 官僚は笑いながらそう口にし、剣をとんとんと手に乗せながら一歩前へ。


「……! 誰か! 賊です!」

「誰も来ないよ。朝までぐっすりだ。いや、もう目を覚まさない人間もいるかも?」

「目的はわたくしの命ですか」

「本当ならオルドライデ王子が騎士と出ていったあと、陛下共々……というシナリオだったのですがね?」


 一緒に出ているとは思わなかったと首を振る。

 ブライネルの粛清が始まった時点で以前からこの形になるのは決まっていた。オルドライデが騎士と共に出て行った隙を狙いウォルモーダ達を殺すつもりだったと。

 ブライネルは逃げ切れる算段があったし、カウンターでオルドライデが戻った時に両親が死んでいたら動揺するに違いない。そこをつけいるつもりだった。


「まあ、あなただけでも十分か」

「……オルドライデが信頼していたのに」

「全部ブライネル様のためですよ。赤ん坊について言及し不安を煽るだけで――」

「――だけでやつれていったって? だけだと思えないわよ。嫌ねえ、信頼してくれる人を裏切る奴なんてさ」

「……!」


 へらへらと笑い、計画を喋る官僚に続き、別の声が呆れた声で返す。

 そして彼が入って来た扉がゆっくりと閉じる。

 その裏には、父の癖である腕組みをしたトーニャが、壁を背にして立っていた。

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