第195話 人、断罪のため行く
「こ、こいつらが誘拐を……」
「申し訳ありません王子。金に目がくらんだのは事実です。この事態が終わったら、処罰は受けます」
「そ、そうか? いや、聞き分けがいいな……」
「ディランのおっちゃんにボコられたんですよ」
ディランが飛行をすると、あっ! という間にドルコント国の王都まで到着した。城へは行かず、また町の外でオルドライデ達と顔合わせをすることとなった。
ならず者たちはディランに言ったときと同じく、罰は自分にと口にしていた。
ディランに雇われなおされたとはいえ、ろくでもないことをしたと真面目な顔で伝える。
「ひとまずは保留だ。ディラン殿、申し訳ありませんでした」
「構わん。ワシが言い出したことじゃしな」
オルドライデはならず者たちを見渡した後、深呼吸をしてからことが済むまで保留とした。まだドラゴンの姿のディランへ謝罪を口にすると気にするなと答えた。
その足元ではトワイトとシエラが赤ちゃんを交換していた。
「はい、ユリウス君お母さんですよー♪」
「だー♪」
「ありがとうございましたトワイト様」
「畏まらなくていいわ♪ リヒトはよく寝ているわね。ユリウス君はお昼寝をしていたからしばらく起きているかも」
「わん」
「だーう!」
「あら、わんちゃんに興味があるの? それにひよこちゃんも怖がらないわね」
「ぴよ」
「一緒に遊んで慣れたのよ♪」
足元でリヒトを見上げていたルミナスが無くと、ユリウスが興味津々で見つめていた。よく見ればソオンがユリウスの肩に乗っており、シエラが驚いていた。
「それじゃあソオン、行きますよ」
「ぴ」
「だうー……」
「また遊んでもらいましょうね」
「ふむ、なにかペットを飼うか……?」
「それよりも先に、やることがあるじゃろう」
トワイトがソオンを回収し、ユリウスが残念そうにしているのを見てシエラが苦笑する。
そこでオルドライデが顎に手を当ててなにやら呟くが、ディランは後にしろと話しかけた。
「確かに。では私は今から騎士を連れてくる。父上にも報告だ。シエラはここで待っていてくれ。まだ父も母も完全に信用したわけではないからな」
「わかりました」
「だーう」
「すぐ戻る!」
オルドライデは颯爽と馬に乗って城へ戻っていく。ユリウスも数日一緒に居たため父親として認識しているようだった。
「ド、ドラゴンだ!」
「見間違いじゃなかったろ!」
「金色とは……めでたいのう……」
「拝んどけ、拝んどけ。この国が良くなりますように……」
「あら、人がたくさん」
「むう」
オルドライデを待っていると入れ替わりにぞろぞろと町の人が出てきた。
外壁から少し頭を覗かせているのと、飛んで来た時に見えていた人がいたようである。
月に照らされて光っているため、大変神々しい感じなっているディランが拝まれていた。
「夜は危ないぞ、町へ戻らんか」
「おう!? しゃべった!? あんたは良いドラゴンか?」
「……どうかのう」
町の男が驚き、恐る恐る尋ねた。ディランは少し考えてからそう答えた。
すると杖をついた老人がくっくと笑いながら見上げて言う。
「そういうことを言うやつはだいたいいいやつじゃ。金色のドラゴンとはいいもんを見れたわい、久しぶりに酒場へ行くか」
「付き合うぜ爺さん! 金はねえが、たまにはいいだろ」
「どこか行くみたいだけど気をつけてなー」
『ありがとうー』
「だうー」
なんだか元気になった町の人間がぞろぞろと来た道を戻り、リーナが手を振りながら見送っていた。ユリウスも真似をして手を振る。
「神々しいですって、あなた」
「ははは、確かに光ってかっこいいよな」
「からかうなガルフ」
「わほぉん♪」
「うぉふ♪」
「わん♪」
「ぴよ!」
「こけー」
「ええい、足にのぼるでないわい」
「怒らないですからねえディランさん」
リヒトを抱っこしたトワイトが楽しそうに笑うと、ガルフがからかうように笑っていた。ペット達はそんなディランの足を囲んで嬉しそうに鳴く。
ザミールも肩を竦めて笑っていた。
『あ、帰って来たよ』
「では行くとしようか」
空を飛んでディランの鼻先にいたリーナが騎士団を引き連れたオルドライデを確認した。すぐに背中を預けると、トワイトやガルフ、リーナにシエラとオルドライデがまず乗る。続けて全身鎧を着た総勢二十名ほどが乗り込んだ。
残りは十名の騎士とならず者達がいたが馬車の荷台に乗り、それをディランが両手で持つ形となった。
連れてきた馬は残った兵士に任せたので後は屋敷へ向かうだけとなる。
「さすがに多いわね。私も変身しましょうか?」
「まあ、落ちることはないじゃろ。では、行くぞい」
「お願いします……!」
「……」
騎士たちは黙って背に座る。
フルフェースヘルムなので表情は伺えないが、迫力があった。
もちろん、それほど時間はかからずに該当の屋敷へすぐ到着する――
◆ ◇ ◆
「上手くいくと思うか?」
「ええ……誘拐するなら夕方から夜。それを計画に組み込むように伝えています」
「まあ、相手がドラゴンだろうが赤ん坊さえ確保できれば手出しはできまい。オルドライデめ、私を嵌めたつもりだろうがそうはいかん。平民が王族になるのは、間違いなのだ……!」
「は、はは……」
ブライネルはダルボに進捗を確認し、近日中にカタがつくであろうことを伝えていた。どうにか赤ん坊を手に入れれば誘拐後、ダルボは有利な状況で城に戻れる。
ブライネル侯爵にとっては自分の保身の切り札を手に入れることに繋がるので、これが成功すれば死ぬまで安泰になると考えていた。
「これで貴族は安泰……オルドライデ様は解っておられない。金が無くなれば貴族とは言えない」
「ふん、金? お前こそ解っておらんな。金ではない血だ」
「は……?」
「血統というのが大事なのだ、貴族とは血だ、高貴な血筋を残すのが義務なのだ! 貴様とて貴族でなければここに居ることすらできんのだぞ? 男爵だったか」
「そ、そうでございます……しかし、血ですか……」
「そうだ。きれいな水にひとつまみでも泥を入れるのを想像してみろ。それだけでもう飲めなくなる。血も同じだ。平民が入ると同じ者が勘違いをする。我が愚かな弟が妻に迎え入れた時ははらわたが煮えくり返ったわ。王位をくれてやってアレとは。妻が死んだときの奴の顔、笑わせてもらったわ」
「……」
持論を口にし、ブライネルはワインを傾ける。
ダルボはブライネルの狂気じみた顔を見て喉を鳴らしていた。
「し、しかし赤ん坊は平民の血が……」
「そうだな。まあ使うだけ使ったら始末すればいい。この屋敷の警備は厳重だ。ウォルモーダが手を出せないのもそれがあって――」
「お、こやつじゃないか?」
「な、なんだ!? 目……!?」
そこで窓の外にディランの顔が現れた。




