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第194話 竜、脅迫してみる

「馬鹿な……」

「うおお……いてえ……」

『痛いだけで良かったわね!』

「わん!」


 冒険者達もどきのならず者達は、あっという間に一人残らず倒された。

 一か所に集めて捕縛。地面に転がった彼らは各々呻いていた。


「リーナの言う通りだぜ。まあまあ強かったけど、お前たちそれほどランクが高くねえな?」

「若造が生意気を……」

「し、しかし、確かにこの若者達は強かったぞ……」

「うぉふ」

「うお!? 顔を近づけるな!?」


 勝手にしゃべるなとヤクトが顔を近づけて一声鳴いた。

 そこへ腕組みをしたディランが見下ろしながらならず者たちへ言う。


「で、お主たちの雇い主はブライネル侯爵でいいのかのう」

「……!」

「……知らんな」

「それじゃ口を割らないと思うぜ? ギルドかオルドライデ様のところへ連れて行った方が早いんじゃないか?」


 もちろん質問に答えることなく、ディランから視線を外して悪態をつく。ガルフもこういう手合いは慣れているのか引き渡した方が早いという。

 しかしディランはガルフに手を上げて制止すると、話をつづけた。


「なら、いくらで雇われたんじゃ? 奥さんや子供はおるのか?」

「そんなことを言う必要は――」

「――まあ、ないわな。じゃが色々と話した方がいいと思うぞい? お主達に危害を加えなくてもな」

「どういう……」

「知っておると思うが赤ん坊は王子の子じゃぞ? それを誘拐しようとしたら相応の罰が下る」

『うんうん』

「それを受けるのが『自分たちとは限らん』といえば少しは解るかのう」

「……!?」


 ディランは努めて平静を装って告げる。リヒトたちを見る時とは違い、冷ややかな瞳を輝かせてつづけた。


「調べればお主達の親や妻、子を探し当てることができるじゃろう。そして見つけたら……ふむ、お主達こっちへ来るのじゃ」

「わほぉん」

「わん」

「うぉふ」

「ダル達を呼んだ……?」


 ザミールが訝しむ中、ディランはしゃがんで三頭の頭を撫でながらこしょこしょとなにかを伝えていた。


「もし、お主達の大切な者達を見つけたら、こやつらが生きたまま食らうという罰を与えるかもしれん」

「わほぉん……!」

「わんわん……!」

「うぉふ……!」

「な……!?」


 ディランが片膝をついてダルの頭に手を置くと、三頭の瞳はぎらついた光を放ち、歯をがちがちさせていた。

 普段の人の好い顔とは違い、凶悪なアッシュウルフだと一目でわかる顔立ちに変化していた。


「ひぃ!?」

「や、やめろ! 娘だけは助けてくれ……!」

「それはならん。赤ん坊を攫われていたら今のお主達の心境にきっとなっておったろう」

「そ、それは……! 仕方ないだろ! 俺たちは今の圧政で収入が少ないんだ!」

「白金貨十枚は……安定して暮らせるんだ……母さんだって……」

「残念じゃが」

「そんな……!?」


 ダル達の迫真の演技はならず者たちをびびらせた。やはり金回りはいいようで、破格な金額を提示されていたらしい。許してくれと懇願し始めたが、ディランはあっさりと首を横に振った。


 そして――


「え……!?」

「こうやってこの姿でお主達の故郷を破壊するのもアリか」

「ド、ドラゴン……」

「本物……!?」

「だからドラゴンだって言ってたろ」


 ――ディランはその場でドラゴンに変化し、冒険者達を高見から見下ろす。それも彼らの故郷を破壊するとも語った。

 そんなことは国の人間では難しいが、ドラゴンという止めることができない相手に畏怖し、そこまで考えが及ばなかった。


「もう一度聞こう、ブライネル侯爵で間違いないな?」

「……それを話したら家族は助けてくれるんだろうな」

「ドラゴンに二言は無い。どうせ金もまだもらっておらんじゃろう、ワシが出してもいいぞい」

「くっ……ははは! あはははは! 降参だ。まいった、そこまで言われて我を張るのは馬鹿らしい」

「お、おい……」

「失敗した時点で俺たちは終わったんだ。どうせ終わりなら家族に被害がいかないように善処すべきだろうぜ」


 再度、ドラゴンの姿で尋ねるとならず者の一人が大笑いをしていた。

 逆らう気が起きないほどの圧倒的な大きさを前にすると、人間は笑ってしまうものなのだ。


「俺たちはどうなってもいいが、家族に手を出さないということなら」

「まあ、なんとかなるじゃろ。ウォルモーダにはオルドライデからなにか言ってもらうとするか」

「いいのかよ……」

「まあ、ディランさんだしね」


 こっちで決めてしまっていいのかとガルフが呆れていた。ザミールは苦笑してそんなものかもと肩を竦めていた。

 

「大きな姿なのですね……」

「元に戻るわい」

「すぴー……」

「わほぉん」

「ふふ、危ないからおばさんが抱っこしておくわね」


 シエラがようやく口を開いたが、あまりの驚きにまだ固まっていた。

 そこでシエラを安心させるためか、リヒトが心配なのかダルがシエラのところへ行き前足をシエラの太ももに置いて立った。

 そんなダルにリヒトは気づくことなくぐっすり眠っている。


「ではブライネル侯爵ということで間違いないな」

「ああ。なんだかんだで王族に与する人間だ。俺たちゃ金も欲しいが逆らうのも難しいお貴族様……どうするんだ?」

「そうじゃのう……証人であるお主らを連れてオルドライデとシエラと共に行くか」

「どこへ?」

「そりゃあもちろんブライネル侯爵の下じゃ。おお、そうだ情報料をやるわい。これで足るか?」


 言質をとったのでならず者たちを連れてブライネル侯爵の下へ向かうと宣言するディラン。彼はそうだと手をポンと打ってカバンから白金貨を数十枚取り出した。


「足りるもなにも……おいおい、こっちは襲った側だぜドラゴンの旦那……」

「なあに、怪我人も出なかったしのう。これでお主らを雇うというのはどうじゃ?」

「はっ! おもしれえドラゴン様だ! 俺はのったぜ」

「ディランじゃ」

「ロッコだ。よし、お前ら今度の依頼主は絶対逆らえんぞ!」

「ま、ブライネル侯爵が力を失えば平民もまともな暮らしに戻れるかもしれませんしね」

「どういうことだ……?」

「すぐにわかるわい。ではワシの背に乗れい」


 そういってディランは再びドラゴンの姿になり、ガルフ達や馬車を乗せていく。


「うぉふ」

「大丈夫だ、なにもしねえよ。……ドラゴンの背に乗るなんて人生わからねえもんだな……」

「まったくだ。覚悟は決まった。どこにでも連れて行けってんだ」

「威勢だけはいいなあ」

「なんだと若造……!」

「まだやるか?」

「まあまあ」

「私はここに残ります。みなさん頑張ってください!」


 御者をしてくれていた男はここまでだと言い残ることになった。ディランは頷き、全員が乗ったことを確認すると音もなく月の出かかっている空へと舞い上がった。


 

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