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第193話 竜、人間と一緒に蹴散らす

 リーナから不審な冒険者一団の件を聞いたディランは、その夜、起きたまま警戒を続けた。

 その人間たちがディランの泊まっている宿に来ることは無く、あえて外に出たりもしたが特に動きは無かった。


「おはようございます」

「あーい♪」

「おはようさんじゃ。よく眠れたかのう」

「あ、はい。この子と一緒にお布団に入っていたらすぐ寝入って……すみません、護衛をしてもらっているのに、ぐっすり寝てしまって……」

「構わんぞい。ワシは何日か眠らずとも大丈夫じゃ」

「ドラゴンってやっぱりすごいんですね」

「あーい!」


 眠らなくても大丈夫とディランが言うと、シエラが驚いて感想を述べた。

 それにリヒトが満足げに声をあげる。お父さんが凄いというニュアンスが伝わったようだ。


「それじゃ出発するとしようかの」

「はい。早ければ今日の日が沈むころには着くと思います」

「帰りは飛んでいけばいいから今回だけじゃな」


 ディラン達はそんな話をしながら外へ出ると、そのまま御者の用意した馬車へ乗り込むとすぐに出発した。

 町の中を移動中、ガルフ達を見かけたがひとまず人目があることを考慮して目くばせだけして通り過ぎる。

 仲間だと思われないための措置だった。


「お気をつけて」

「ありがとう」


 町の門番に挨拶をして抜けると、そのあと少ししてから数台の馬車が町を出ていく。ガルフはそれを尻目にヤクトの顎を撫でる。


「うぉふ♪」

『ルミナスの尻尾もきれいになったわ!』

「わん!」

「わほぉん……」

「ダル君はいいんだ」


 ルミナスはリーナにブラッシングをしてもらいご機嫌となった。ダルはあくびをしながらリヒトを早く追おうという感じで前を向いていた。


「んじゃ、距離をとって追うぜ」

「任せるよ。もし戦いになっても、このブレイドドラゴンの牙が私の武器になるよ」

「そういやそんなのもらってたっけ」

『わたしは魔法があるから後方支援ね』

「よし、それじゃ町を出るぜ」


 そうして自身の武器を確認した後、馬車は出発する。相変わらず三頭は御者台の縁に顎を乗せて並んでおり、見る人が見たら可愛いと連呼するに違いない状態だ。


「うぉふ」


 目を細めて遠くの冒険者もどき達を見てヤクトが呟く。

 ディラン達はかなり遠くに行ってしまっていて見えないが、明らかに一定の速度を保って追いかけているような感じがあった。


「こりゃ当たりだな」

「ブライネル侯爵様は小間使いが得意なようだけど、いろいろな要因を考えるのはできなさそうだ」

「こっちの情報がどこまで伝わっているかだよな。平民の冒険者やドラゴンのおっちゃんが協力するとか思って無さそうだし」

『あいつらをコテンパンにした後はどうするんだっけ?』

「黒幕を吐けばあいつらを伴ってブライネル侯爵のところ、かな?」


 ザミールはどこまでブライネル侯爵が小間使いの冒険者に金を握らせて信用されているかが気になると口にする。

 金があっても死ぬとなれば口を割る可能性は高いと。

 金と命はどうやっても等価にはならないと、商人であるザミールは複雑な顔でそんなことを言った。


「金を積んで生き返るならいくらでも出すけど、そうはならないんだよ」

『そうだね……』


 たまたま生き返ったような形であるリーナが寂しそうな顔をするザミールに頷いていた。

 そこからしばらく進み、日が暮れだすまで動きは無くただひたすら追うだけとなる。

 一方、追われているディラン達も目的地まで魔物とも遭遇せず順調に進んでいた。

 そして次の町が見えたがそこには寄らずさらに先へ。すると少しだけ高さのある丘の上にぽつぽつと家屋があり、その中の一つに大きな屋敷が、あった。


「あそこです。街道から外れていますが、周囲が村のようになっていて盗賊たちを避けるための鉄柵も備えているんです」

「なるほどのう」


 一旦立ち止まり、丘の下から地形を説明するシエラ。

 確かに屋敷周辺に強固な鉄柵がぐるりと囲むように設置されていた。各家にも張り巡らされているので村とはいえそれなりに防衛はできているようだ。


「あー……あふ……」

「あら、ずっと起きていたからいよいよ眠くなったみたいですね」

「まあ、ちょうどよかろう。ちょっと手荒になるかもしれんしのう」

「あ……!?」


 丘の上へ行くための分帰路に差し掛かったところで単独で馬に乗った者が三人、回り込んで来た。


「この女と赤ん坊か?」

「ああ、該当するのはこいつらだけだしな」

「なんじゃ、お主らは?」

「おっさんに話すことはねえよ」


 武器は抜いていないが威圧するように視線を向けて来る。恰好は冒険者そのものだなとディランが腕を組んで見据える。そのすぐ後に馬車がやってきて止まった。


「さて、これで逃げられないぞ。悪いことは言わない、その赤ん坊をこちらへ渡してもらおうか」

「狙いは王子の赤ん坊か。その子をどうする気じゃ?」

「さあな? 俺たちは連れてくるように言われただけだ。おっと依頼主を聞くなよ? 答えることはない」

「そうか」

「……」


 後方にきた冒険者はディランを見て笑みを浮かべながら、痛い目に遭いたくなければ黙って言うことを聞けと口にする。


「一応、聞いておくがワシがドラゴンであることは知っておるのか?」

「ドラゴン? ああ、なんかそんなことを言ってた気がするな。だけどあんたはタダのおっさんだろう?」


 振り返らずに背後の冒険者へ問うディラン。

 他の者もくっくと笑いながらどこにドラゴンが居るのかと言う。


「おっさんということ。それには同意するが――」

「!?」

「ぐあ!?」

「――ドラゴンは人間の姿を取れるというのを覚えておくとええぞ」


 そこでディランはスッと素早く移動して、先に立ちはだかった冒険者三人の顔面を拳で捉えた。

 大きく吹き飛び、いつ移動したのか見えなかった彼等は動揺する。


「そして追いかけていたつもりのようじゃが、甘かったのう」

「なに……?」

「というわけで武器を捨てな。おっちゃんにゃ勝てないぜ?」

「なんだ!? どこから――」


 ちょうどその時、ガルフ達が合流して挟む形になる。


『赤ちゃんを狙うなんて許せないわね!』

「子供が生意気を言う……!」

「構うな! 今なら女がフリーだ、抑えるぞ!」

「きゃ……!?」

「愚かじゃのう。ガルフ、攻撃はせんでいい。逃がすでないぞ」

「おう!」

「ほざけ――」


 『逃がすでないぞ』と口にしたのとほぼ同時にシエラの前に立ちはだかり二人の冒険者へ拳を振るう。鎧がへこむ嫌な音がした瞬間、崩れ落ちた。


「鎧ごと!? 嘘だろ!?」

「ふん」

「ぐあ!?」


 さらに一人、襲い掛かって来た冒険者を蹴りで吹き飛ばす。

 いけるだろうと武器を抜いていないが力の差は歴然で、次々と蹴散らされていく。


「速いっ……!? ドラゴンというのは本当なのか……!?」

「少しだけ見せてやろう」

「う、腕が……!? ぐあ!?」


 複数人でかかってもまるで手に負えない状況に冒険者達も焦り出す。そこでガルフやリーナ達の方に目を付けた。


「あっちは冒険者は一人だけだ。女の子を人質に取れば……!!」

「お、こっちに来るか……!!」

『人質ねえ。私はそう簡単に捕まえられないわよ?』


 そう言ってリーナが前へ出る。

 しめたと冒険者が掴みかかろうとした瞬間、スッと精霊化し半透明になった。


「え!?」

『というわけよ。<スプレッド>!』

「ぐへ!?」

「そんじゃこっちもっと」

「「「わふ!!」」」

「なんだ!? 痛っ!?」


 残っていた冒険者はリーナに驚いている隙にガルフに殴り倒され、さらにダル達が荷台から飛び出し、足に噛みつき、体当たりをして転ばせていた。


「他愛ないのう」

「す、すごい……」

「あー……♪ すぴー……」


 そして陽が山の向こうへ隠れるころ、全てが片付くのだった。

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