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老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる  作者: 八神 凪


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第192話 竜、様子を伺う

「そろそろかのう」

「ええ、あと二日ほどで辺境の町へ到着します。その近くにある屋敷がシエラさんの帰る場所です」

「そうか。ブライネル侯爵とやらが動くとすればそこじゃろうな」

「え!?」

「あーい?」


 残り二日。

 それで目的地に到着すると御者が言う。そこでディランは顎に手を当ててから到着後に動きがありそうだと口にした。

 シエラは驚くが御者は頷いていた。


「居場所が割れているのはよろしくないですからね。待ち伏せして捕らえた方が絶対に楽です。この前、我々が街道で襲われましたが、結果的に助けてもらえたでしょう?」

「確かに……」

「あい!」

「大丈夫と言っておるようじゃな」

「ふふ、ありがとう」


 そんな調子で街道を進み、本日の宿を取るための町が見えてきた。

 昨日は町と町の間が長かったので野営としたので一日ぶりの町である。


「ガルフたちも今日はゆっくりじゃな」

「あ、後ろの冒険者さん達ですね。昨日はわんちゃん達が来て凄かったです」

「いつも一緒じゃからたまに離れると落ち着かんのかもしれん。大人になればまた変わると思うが」

「そういえば成犬と比べたら小さいですね」

「あやつらはアッシュウルフじゃからもっと大きくなるぞい」

「え、わんちゃんじゃないんですか……!? 可愛いからてっきり犬なのかと……」

「あーい♪」

「まあ分からんでもないがの」


 魔物を目にすることがないシエラにはダル達が普通の犬に見えていたらしい。

 リヒトにとってはどっちでも構わないといった感じだ。

 町だと宿にペット連れがダメだったのでダル達はガルフやザミールと一緒に馬車の荷台で過ごしていた。

 なので昨晩の野営では解放されたため、リヒトの下へ集まり一緒に寝ていたのである。


「ぶるっくしょい! ……わほぉん」

「お、なんだダル風邪か?」

『昨日はリヒト君と一緒に丸まってたから違うんじゃない?』

「どうかなあ。リヒトにうつすなよ?」

「わほぉん」

「わん」

「うぉふ」

「次は町みたいだし、残念だけどリヒト君とは遊べないねえ」


 ザミールが苦笑しながら言うと、三頭は尻尾を下げてから残念そうに項垂れていた。

 この作戦が終わるまでは遠くで見ているしかないため、お兄ちゃんだと思っている彼等は心配と遊べない寂しさがあった。


「追手なんかは来ていないけど、今の状況なら逆に来てほしい気はするね」

「だな。っと、町が見えてきたな」

『わたしも今日はダル達と一緒に居るわよ」

「わん♪」

 

 あまりにもがっかりしているのでリーナも荷台で寝ると言う。ルミナスは喜び、尻尾を振り回す。

 そんな調子で馬車を進めていると、不意にガルフが口を開いた。


「結局リヒトはどこの子だったんだろうな。たまたまディランのおっちゃん達が拾ったからいいようなものの、一歩間違えば餌だぜ」

「うぉふ」


 ヤクトが肯定するようにひと声鳴いた。

 実はリヒトが捨てられていた時、三頭は周辺をうろうろしていたりする。遠吠えは彼等であった。しかし自分たちではどうにもできないため遠巻きに見ているしかなかった。今はそんな感じだなとダル達は思う。

 

「……まあ、今さらだし追及しなくてもいいんじゃないかな? ディランさんとトワイトさんの下で元気に暮らしているし」

「まあな。忌み子ってのは気になるけど、全然そんなことないよな」

「当然だよ。もし、忌み子認定した人間が見たらリヒト君の笑顔ですぐにわかるはずだ。そんなことはないってさ」

「まったくだぜ」


 そのまま町へ入っていき、ガルフたちはディラン達と違う宿へと泊まることにした。


「さて、なんか風呂屋があるらしいぜ。交代で行くか?」

『今日はいいかな? ダル達と寝るし』

「そっか? なら俺も残るか。干し草のベッドだし」

「わほぉん……」


 厩舎に入り、馬を休ませる中、ガルフたちは荷台も専用の場所へ置いた。

 キャンプ地のような場所らしく、焚火をしてもオッケーというところだった。

 ダルは荷台から降りると背伸びをして体を掻く。ヤクトとルミナスも同じようなことをやっていると、ザミールが訝しむ。


「……妙だな」

「どうしたザミールさん?」

「いや、随分と冒険者が町に入って来たなと思ってね」

「パーティを組んでいる……にしちゃ多いか」


 厩舎の近くにある広場から通りが見えるのだが、冒険者らしき集団がたくさん闊歩しているのが見えた。途中で散開したものの、親し気に話していたので仲間だと思われる。


「ふうん、怪しいじゃねえか。明日はディランのおっちゃん達が出た後、あいつらの動きを見てから追うってのでいいか」

「それがいいと思う。勘だけど恐らくブライネル侯爵の手の者だろう」

『それじゃわたしがディランお父さんに声をかけてくるわね。透明化して空を飛んだら夜はバレないだろうし』

「頼むぜリーナ」


 ガルフは渋い顔で冒険者の一団を見ながらリーナへそう言うのだった。


◆ ◇ ◆


「あー……」

「今日は残念じゃがワシらだけじゃ」


 そしてディラン達の方は宿に入り、部屋を別々に取っていた。

 ひとまず寝るまではリヒトと同じ部屋に居ることにしているのだ。

 窓に張り付いてアッシュウルフを探しているリヒトの頭を撫でてやる。抱っこすると少々不満気にディランの頬をぺちぺちと叩いていた。


「ふふ、わんちゃん達は来れないですからね。ごめんなさいね、私達のせいでこんなことになって」

「あうー」

「ほれ、ミルクじゃ」

「あい」


 不満気ではあるものの、ディランにミルクを出されたら大人しく飲み始めた。聞き訳がいい子だとシエラが笑う。


「リヒト君、本当に泣かないですね……ユリウスはお腹がすいたり、おしめが気持ち悪くなるとすぐ泣きますから」

「リヒトは拾った時とオルドライデに会った時によく泣いておったぞい」

「あう。けぷー」

「オルドライデ様を見てですか……確かに久しぶりに会ったら険しい顔をされていましたし……」

「あーう♪」

「しかし、もうお主達が戻って来た。これからは支えてやればええ」

「はい……」


 それでも不安はあるといった感じのシエラ。

 表情を見た後、気配がしてディランが窓に目を向けた。


『ディランお父さん! なんだか不穏な人達を見つけたよ』

「なにかあったかのう。その不安を払しょくするため気合を入れるとするか」


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