第191話 竜、お世話をする
ディランがシエラとリヒトと一緒に旅をする中、城に残ったトワイトはユリウスのお世話をしていた。
「はい、ポコポコポコー♪」
「だー♪」
「ぴよー♪」
「凄く嬉しそうだ……わ、私にもやらせてくれ……!」
「ええ♪」
ユリウス用にあつらえた大きな部屋でトワイトやひよこ、ジェニファー達と一緒に暮らしていた。
オルドライデは今度こそ他に取られたりしないよう離れることはしなかった。
お座りがかろうじて出来るユリウスの周りにペット達が集まり賑やかにしているので寂しくは無さそうだ。
「ほら、タイコだぞー」
「だーう♪」
「こけー♪」
オルドライデはリヒトが残したおもちゃを使ってユリウスと遊ぶことで、親子の時間を取り戻していた。
「……すぴー」
「寝てしまったか……ここにシエラが居れば一番いいんだが……」
「そうですねえ。やっぱりお母さんが居た方がいいのは間違いないです」
「ぴよー」
「はは、心配してくれるのか? ユリウスのところへ居てくれ」
「ぴ!」
ベッドに寝かしつけた後、困った顔でオルドライデはシエラが居ればと呟く。
お腹を優しく撫でるトワイトがその通りだと口にする。
ある程度、解決のめどが立ったとはいえ終わりを告げるにはもう少し時間が必要だ。
困るオルドライデにレイタが首を傾げると、彼はそっと持ち上げてユリウスの枕元へ置いた。
「ふう、それにしても父の思惑に巻き込んでしまって申し訳ありません」
「リヒトが向こうへ行ったのは残念ですけど、ユリウス君というお友達が増えて良かったです♪」
「そういえばリヒト君が二人を見つけてくれたとか……どういう子なんです? ドラゴンの子ではないと?」
「拾った子ですよ。だから人間の子です。でも、ウチの子で間違いありませんからね?」
「……!」
ハッキリと自身の子と言い切ったトワイトに目を見張る。飛んでいったピンク色のドラゴン、トーニャは自分の娘だと聞いていた。
「ドラゴンが、その……脆弱な人の子を育てることに驚きましたね」
「うふふ、そうですか? 目の前で泣いている子がいたら手を差し伸べるのが人間、と思っていましたけど」
「そう、ですね。すみません。しかし、ドラゴンという種族自体珍しく情報が殆どないのです。どういった種族なのですか?」
「あまり変わらないと思いますよ? ただ、強い。それだけが良くも悪くも私達を決定づけているくらいかしら?」
「強い……そうですね、あの大きさを見れば――」
「そうじゃないのよ♪ ドラゴンがドラゴンである所以は力だけじゃないの。長命になるとね、生き物の生命に関わることが多いわ。特に多いのが別れ……何百、何千という人間や亜人と会ったけど、みんな私達より先に逝ってしまったわ」
「……」
少し寂しそうに言うトワイトに、オルドライデは精神面の強さが一番なのかと直感した。
仲の良い者が亡くなっていく。自分なら両親にシエラ、そしてユリウス。自分だけが残されるというのは心苦しい。それを何千と繰り返しているのかと喉を鳴らした。
「私達は長く生きるだけ寂しいの。いえ、寂しいと気づいたといった方がいいかしらね? だから里を作った」
「寂しいと気づいた、ですか」
「うふふ、そういうこと。まあ、一人や家族とだけ暮らすドラゴンも居るから全部と言うわけでも無いけれど」
「ふむ……過去になにか大きな事件があった、とか?」
分かったようなわからないような答えを貰いオルドライデは頭を掻いていた。
自分の父と同様『なにかあったからそうなった』というのが間違いなくあるはずだと尋ねてみる。
「そうですねえ。恥ずかしいからこれは内緒にしておきますよ♪」
「……」
ウインクをしながら唇に人差し指を当てて笑い、トワイトはそれ以上は語らなかった。
「ならディラン殿とはどのようにして出会ったのです? 私はシエラとは町で会いましたが、ドラゴンの出会いは気になりますね」
「出会い、ですか? うーん……」
「あ、言いたくなければ無理には聞きませんよ」
「いえいえ、あの人とのことだから言いたいんですけど……覚えていないんです」
「え?」
「気づいたら一緒だったって感じですね♪」
「あ、ああ、そういう……」
オルドライデは幼馴染でいつも一緒に居たのだろう解釈した。ドラゴンの里というものがあったというのを聞いているのでその繋がりだろうと思った。
「我々と同じ姿をしていたら分かりませんし、やはり強いという一点は唯一無二という気がします」
「うふふ、人間も凄いですけどね。さて、今の内にご飯を食べてきたらどうですか?」
「そうさせてもらいます」
「オルドライデ、いますか?」
「母上?」
ドラゴンの話をしていたが、そろそろお昼ということに気づきトワイトがオルドライデへ食べてくるように言う。
そこで王妃のカーネリアがユリウスの寝室を訪問してきた。
「まあ、カーネリアさん。残念ですけどユリウス君はおねむの時間です」
「そうなのね……」
「まったく。平民の子はダメだとか言っていたくせに……」
「おだまりなさいオルドライデ。わたくしにとっては孫ですからね。大切に扱うのは当たり前です」
「うふふ」
カーネリアは来客を構うという扱いで度々ここへ出入りしている。赤ちゃんを入れ替えているため、事情を知る者は少ないので、みなリヒトだと思っていたりする。
オルドライデは隣の部屋なのであまり怪しまれない。というより見ている者が少ないのだ。
「今日はおもちゃを持って来たのに残念ですね……」
「少ししたらミルクを欲しがると思うので待っていてください♪」
「そう? ならそうしようかしら。ひよこに囲まれて可愛らしいわね」
「ウチのペット達はいつも可愛いですよ♪」
「それじゃ私はお昼を食べて来るよ。トワイトさん、申し訳ないが母の相手をしていただけると」
「はい♪」
「それじゃ少しお話しましょうか。……ドラゴンはどういう感じなの?」
「あら? 親子ですねえ♪」
「どういうことかしら?」
ひとまずユリウスが目を覚ますまで話をしようとカーネリアが微笑み、オルドライデと同じようなことを聞こうとしていた。
トワイトは不思議がるカーネリアに微笑みかけるのだった。
そんな調子で一日が過ぎていき、そのまま八日ほどが過ぎた。ディラン達はシエラの住んでいる家へ後少しというところまで来ていた。




