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第187話 竜、ほんの少し滞在する

「わふ」

「だ、大丈夫よ、なにもしたりしません!」

「どうするつもりだ、カーネリア」

「王妃様……」


 王妃が孫へ近づいていくと、リヒトたちの傍に寝そべっていたルミナスが前足をサッと出して牽制する。なにもしないと言いつつ、王妃は赤ん坊を抱きあげた。


「……確かに、オルドライデの言うことはその通りなの。それでもなお、貴族主義を続けた理由はもちろんあるわ。でもあなたのため、というのも間違ってはいないのよ」

「母上? それはどういうことですか?」

「……」

「もうオルドライデも成人をしたことですし、話せとお義父様が言っているのかもしれませんね、あなた」


 王妃は眉間にしわを寄せていた表情から一転し、穏やかな表情で赤ん坊を見つめていた。カーネリアと呼ばれた王妃は先代国王に話せと言われているかも、と口を開いた。

 当然、意味がわからずオルドライデは父に顔を向ける。


「なにか複雑な事情がおありのようですね。我々は席を外しましょうか」

「そうだねザミール」

「なにかあれば部屋へ――」


 ザミールがヴァールに問うと、彼は頷いていた。そこでバーリオが部屋へ戻ると告げようとしたところで、沈黙していたウォルモーダが口を開く。


「……構わない。国の在り方、という意味ではヴァール王子には聞いてもらってもいいかもしれんのでな」

「国の在り方、ですか」

「そうだ。ちなみに……私は今、四十七歳、妻は四十三だ。そしてオルドライデは二十三歳になる」

『わたしのいなくなったお父さんより少し上かな、多分』

「歳がどうしましたか?」


 急に一家の年齢を口にし、リーナが元の父親とあまり変わらないかもと言い、ヴァールがその意図を尋ねる。

 ひとまず席に着くように示唆した後、騎士やメイドを遠巻きに配置した。

 赤ん坊はシエラに返され、またリヒトの隣へ寝かせる。

 周囲を見渡した後、ウォルモーダは話をつづけた。


「まだまだ王位を譲るほど老いてはいない。私の父と母である先王も生きているくらいの歳なのだ。だが、オルドライデが生まれたときにはすでに祖母は居なくなっていた」

「……おじい様も私が七歳くらいの時に亡くなった。その時に王位を継承したのは覚えている」

「うむ。そこから私が数年かけて政策を変えた」

「それだ。変えなくても良さそうな政策をどうして変えたのですか?」

「母が亡くなったからだ」

「……」


 ウォルモーダはまだ若く、本来であれば先王が生きていてもおかしくない年齢だと語った。しかし、自身の両親はもういない。

 そしてオルドライデが見たことのない祖母のせいで政策を変えたのだと、言う。


「おばあ様がどうして関係してくるのでしょうか?」


 トワイトの言葉にその場にいた者はもちろん頷いた。するとウォルモーダは空を仰いでから驚くべき事実を口にした。


「……母は、お前の祖母は元々、平民だった」

「「……?!」」


 ウォルモーダの母は平民だったと告げ、オルドライデとシエラが目を見開いて驚いていた。


「なんと」

「それなのにどうして」


 バーリオとトーニャがそれぞれ呟くと、首を振りながらウォルモーダはため息を吐いた。


「オルドライデは父の兄のことを知っているだろう?」

「え? あ、ああ……ブライネル侯爵がそうであるとだけは。会ったことは……一度だけあるかどうか」

「そうだ。私が会わせないようにしてきたからな。確証はないが、伯父が母を殺した可能性があったからな」

「は……!?」

「本当よ」


 カーネリアは視線を周囲に向けながらオルドライデへ言う。

 経緯として、ブライネル侯爵はウォルモーダの父の兄にあたる男で、貴族であることを誇りに思っているらしい。

 しかし、それがいつしか『貴族は偉い、平民は下である』という偏った考えになっていき、当時の王であるウォルモーダの祖父が窘めたが治らなかった。

 そこで弟である父が継いだ、という経緯を伝えた。


「でもそれだったらウォルモーダさんが迎合するのはおかしいような気がしますね」

「うむ。トワイトの言う通りじゃ。先の母がそやつに殺されたことと関係があるのか?」


 ディラン達はおかしな流れだと返す。

 自身の父親がそうであったなら話はわかるが、伯父の思想を受けることはないのではと。


「左様。父と母は優しい人であった。町には顔を出していたし、当然民から慕われるようなこともしていた。だが、私とカーネリアが婚約をしたとある日、それは起こった」


 先王は狩りに行くこともあり、妻を連れていくこともあった。しかしとある日、ならず者たちが襲ってきたとのこと。

 その際、当時の王妃は遠くから放たれた矢を受けて亡くなり、先王も負傷した。ならず者たちはその場で護衛の騎士たちが始末し、捕らえたが犯人は解らずじまい。

 ウォルモーダ達は城に居たため無事だったものの、母が亡くなったことを知った彼は酷く動揺したという。


「……身内の恥を晒すようで苦々しいが、恐らくブライネル侯爵の差し金だ。一番最初に母が狙われたのが出来すぎている。ならず者たちはついでに私の父も殺そうとしていた可能性がある。大金を積まれて命を落とす、愚かなことだ」

「犯人だと断定は……?」

「できなかった。口を割るものが居なかったからだ」

「というか弟を殺して自分が王位に、かな? とんでもねえな……」


 ウォルモーダが顔を険しくして推測を口にすると、ガルフがぽつりとつぶやく。

 いくらなんでも身内を殺そうとするのはやりすぎだと。


「そう思うだろう冒険者よ。だがな、あの男は王の椅子に興味がないのだ。裏で自分の思うようにする、そしてそうなっていれば満足なのだ」

『気持ち悪いー』

「本当に……そこでウォルモーダとわたくしはひとつ、手を打ちました。それが貴族主義を貫くこと」

「なるほど、その男が死ぬまでじゃな」

「話が早くて助かる、ドラゴンの男よ。幸いあの男には子供が居ない。思想を継いだ者も。だが、このまま黙って終わるつもりは無かったようだ」

「まさか……」

「赤ちゃんを誘拐しようとしたのは……!?」


 驚くヴァールとコレルにウォルモーダ夫妻は頷く。恐らく、オルドライデの子を育て、どこかのタイミングで出してくるつもりだったのだろうと。

 

「なら私が感じた嫌な気配は……」

「恐らく、狙われていたのは間違いなかろう。あの家から逃げたのは良し悪しだったようだが」


 結果的に見つかって良かったが、捕らえられていたらどうなっていたかわからない。


「まあ、こちらが孫を確保してお前を言う通りにさせるつもりはあったがな」

「父上……」


 今、貴族主義を辞めてしまえばブライネル侯爵は必ずなにかしら動きを見せる。

 しかし、用意が不完全なままそれをするわけにはいかない。


「お前に王位を譲る前にこれだけはケリをつけねばならん。殺された母、失意のまま心労で逝ってしまった父のためにも」

「ふむ、そういう相手じゃとなかなか大変そうじゃのう。赤ん坊のこともある。リヒトの友達の危機を解決しないと怒られそうじゃ」

「うふふ、そうですね♪ このまま帰ったらリヒトが頬を膨らませて怒りそう」

「あなた達は、一体……? ロイヤード国で会いましたが……」

「まあ、ちょっとしたボディガードじゃよ」


 ディランがそう言ってニヤリと笑うのだった。

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