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第184話 竜、あとは見守るしかない

「クリニヒト王国の冒険者か、ありがとう」

「まあ、この子の手柄だけどな」

「あーう?」

「坊主がか? ……アッシュウルフの背中に乗っているのか……」

「そうですよ、立派な子です!」


 一旦、その場にいた全員でギルドへ向かい縛り上げたならず者達を引き渡した。

 ガルフとトーニャ、そしてリーナが冒険者なので彼等に任せた。そこで何故かザミールがドヤ顔をしてプレゼントした太鼓を振らせていた。


「誘拐事件のみならず、他にもこいつらが関与しそうな事件がいくつかある」

「物騒じゃな」

「お恥ずかしい限りですよ。こいつらも国がまともなら……いや、それはあんた達には関係ないな」


 なにかを言いかけたが、それは口にせず他にも細かい事件に関与している可能性があるとし、その辺りを調査したいと返していた。


「誰に雇われていたか調査する必要があるな……」

「後は任せるぜ」

「ああ。ケガをした人は大丈夫だったろうか?」

「傷は浅かったから治療しておきましたよ。今頃は病院です」

「承知した。後ほど城へ報告して報酬を用意するので、また来てくれ」


 トワイトがそういうとギルドの人間は小さく頷き、報酬について話をする。

 しかしガルフはディラン達を見た後、手を振って笑う。


「いやあ、別にいいよ。たまたま遭遇しただけだし。今から城に戻るしな」

「なに? そりゃどういうこった?」

「まあ、ガルフの言う通り別に報酬はいらんじゃろ。それじゃ後は任せてワシらは戻るとするか」

「そうね。リヒト、行くわよ」

「あーう!」

「うー♪」


 ギルドの人間が『本当にいいのか?』と言い、トーニャがまだダルに乗っているリヒトへ声をかける。

 しかし椅子に座っている女性の赤ちゃんと遊ぶのがいいのか、まだダメだと口を尖らせていた。


「あらあら、お友達になって欲しいのかしら」

「ふふ……この子が嬉しそうなの、久しぶりです……」

「そういえばどうして狙われたんでしょうね?」

『おばさん、なにか心当たりはある?』


 赤ちゃんはリヒトと同じくらいの子で、金髪もよく似ていた。その子に太鼓を見せて鳴らし、二人は笑いあっていた。

 しかしどうみても普通の人で、誘拐されるようなお金持ちという感じもしなかった。


「……いえ、私にはなにも……あ、そ、そろそろ病院へ行ってから帰りますね」

「あーう」


 そういって女性が立ち上がるとリヒトが口を尖らせた。遊び足りないといった感じだ。


「リヒト、お母さん達は帰るところだったみたいだしお家を教えてもらってまたにしましょ」

「うー」

「あー」

『あはは、むくれているリヒト君と赤ちゃん、可愛い~』

「というか、君、どこかで見たことがあるな?」

「……っ。失礼します」


 ギルドの人間がカウンターから探るように目を向けると、女性は顔を隠しながらサッとギルドを出ていく。

 またなにかあっては危ないとディラン達が追いかけた。


「待つのじゃ。なにがあったかは聞かんが無事に帰れる手伝いは出来るぞい」

「そうですよ。リヒトも喜びますし」

「でも……ご迷惑になります……」

「構わないわよ。ついでってやつね!」

「わん♪」

「だぁー♪」


 ドラゴン一家はリヒトが喜ぶからと女性と先ほど病院に運び込まれた男を連れて帰ると提案した。

 赤ちゃんもルミナスを見て笑顔を見せており、女性は困惑する。


 すると――


「ああ、見つけました。急に走っていくからなにごと、か、と――」

「……!」

「だうー♪」


 ――そこへオルドライデが騎士やヴァール達と共に駆けつけて来た。


 あの後も少しウォルモーダと言い争いをしていたが、マントを引っ張られたのが気になり、客人を放置するわけにもいかないと追いかけて来たのだ。

 そして女性を見て目を見開き、言葉を失う。女性の方もどう反応していいか分からないといった感じだった。


「ご、ごめんなさい……!」

「……! 待ってくれシエラ!」


 そこでハッとした女性が駆け出そうとし、オルドライデに肩を掴んで引き留めた。


「あら、もしかして奥さん?」

「そういえば金髪の子じゃのう」

「パパとママ、呑気すぎ」

「お前もなトーニャ」

「これは良かった、のでしょうか?」

「難しいところだな……」


 ディラン達はその様子を見て一連の流れであるオルドライデの息子があの赤ちゃんであることを察して良かったと頷いていた。

 しかし、ヴァールとコレルは渋い顔をして『これは大丈夫だろうか』そんなことを口にする。両親は平民の妻は忌避しているからだ。

 ひとまず見守るかと話を聞いてみることにした。


「父上に追い出されたのだろう? もう安心だ。今後は私がしっかり守る。あの二人には手を出させない」

「それは……」

「だー」

「おお、私の子か! ああ、目元はシエラに似ているな」


 興奮気味に話すオルドライデだが、シエラの方は沈んでいる。赤ちゃんは確かに自分の子だと嬉しそうに目を細めていた。


「しかし、今までどこに……? 探してもまったく見つからなかったのに……」

「……本当はもう会うつもりは……無かったの……最後に一目、この子にお父さんを見せてあげたくて……」

「最後? どういうことだ? 一体、今までどこに――」

「オルドライデ王子」

「む、ヴァール殿なにか?」

「ここは一度お城へ戻りましょう。会食の途中でもありますし、なにより人目が多い」

「確かに」

 

 いつの間にか野次馬が増えており、周りが見えなくなっていたオルドライデをヴァールが止めに入った。

 オルドライデはその通りだと頷き、シエラを伴って歩き出す。


「あー」

「だうー」

「お、リヒト君ウチの子と遊んでくれるのかい?」


 ダルの上に乗ったままのリヒトがシエラの足元へ行き、赤ちゃんに手を振る。オルドライデが構ってくれているのかと言うと、ディランが口元を笑みを浮かべて言う。


「というか、その二人を見つけたのはある意味リヒトじゃぞ」

「え!?」

「あーい♪」

「だうー♪」


 リヒトの太鼓に赤ちゃんが反応する。それを見てトーニャが口を開いた。


「リコットちゃんと一緒に居て楽しかったから、赤ちゃんはみんなそうだと思っているのかな?」

「そうかもしれないわね♪ ペット達も友達だけど、赤ちゃんは人間のお友達って感じなのかも」

「だからリヒトは赤ちゃんに気づけたのかもしれんのう」

「さて、問題はここからですかね」

「うーむ、こればかりは口出しはできんわい」


 喜ぶオルドライデと沈むシエラの背を見ながらヴァールとディランはそんなことを話すのだった。

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