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第183話 リヒト、見つける

「あーい!」

「わほぉん!」

「わんわん!」

「うぉふ♪」

「おお!? 赤ちゃんが犬に乗って駆け抜けていっただと!?」


 ダルに乗ったリヒトは大事な太鼓をカバンにしまってからしっかりと掴まっていた。もちろん落ちた時のケアはルミナスとヤクトが居るので安心である。

 狼三頭が走っていれば流石に警戒するだろうが、リヒトが乗っているため通りすがりの人はポカンとするばかりであった。

 それに加えて町の人間に活気が無いのも原因であろう。


「あうー?」

『あ、やっと止まった! リヒト君、どうしたの?』

「あー♪ あい」

「わほぉん」

「今度は空から女の子が……」


 リヒトは空から声をかけてきたリーナを見て笑顔になる。彼女が近くで浮遊しながら尋ねると、きょろきょろと辺りを見回す。


『そういえばさっきこの辺でなにか見ていたっけ? なんだろう』

「あう」

「ぴよー」


 リヒトがダルの背中をポンポンと軽く叩くと、路地の方へ歩き出す。

 ポケットからトコトが顔を出し口を開く。


「なんなんだ……?」

「可愛いけど心配ねえ……」


 町の人達はリヒトに注目していた。

 赤ちゃんが狼の背に乗っているのも不思議で、空からは可愛い女の子が降って来たのだから仕方がない。

 生気のない目をしつつも、彼等はそんなリヒト達が気になっていた。


「親はどこにいるんだ……?」

「あ、路地に入るぞ。追いかけよう」


 数人が心配でリヒト達を追う。リーナがついているのだが、彼女も小柄なので精霊だと知らない彼等は心配なのだ。

 そんな中、ディランとトワイト、ガルフとザミールも追いついていた。


「ふむ、なにかを探しているようじゃのう」

「王都に行ってもあまり他に興味を示さないんですけど珍しいですね、あなた」

「とりあえず追いかけましょう。ダル君達がいるから大丈夫とは思いますが」


 あえて遠くから見守っているディランとトワイトがそんな話をする。ザミールは目を離さないよう追いかけようと先を急ぐ。


「赤ちゃんだし、動物でもいたとか? 犬とか猫。それにリヒトは動物好きそうだし。ちなみにクリニヒトの王都だったら結構ノラが多いんだぜ」

「もしそうなら連れて帰ってもいいかもしれないわね♪」

「猫ならバランスがいいかもしれんのう」


 ゆっくりと着いていきながらガルフがリヒトの目的を口にするとディランとトワイトはそんなことを口にする。

 まだ生後そこまで日が経っていない赤ちゃんが動けることを不思議に思っていないが、ガルフはドラゴンが傍にいるから、ディランとトワイトは『ハバラとトーニャもあれくらい動いていた』と考えているので不思議に思っていない。

 ドラゴンの血を傷口から受け入れているため、身体能力が高い。

 同じような時期に産まれたであろうリコットより掴まり立ちが早いのはダル達も一役買っているがそういう事情もあった。


「あー……あい!」

「わほぉん」

『今度はあっち? ダル達、ディランお父さんに怒られない?』

「わほぉん!」

「お嬢ちゃんの弟かい?」

『え? ううん、違うけど』

「路地裏になにかあるのかねえ」

『あ、待ってリヒト君』


 念のためとついてきた大人たちがリーナに声をかけた。

 ここには何もないらしく、町の人は不思議がって周囲を見渡す。

 すると、リヒトが毛を引っ張ってまたどこかへ移動した。さらにリーナが飛びながら声をかけると、ダルは問題ないという感じで吠えた。

 そのままさらに進んでいくと、町の外に続く街門へ近づいて行った。


「おっと、さすがに外はまずいぜ」

『あ、リヒト君。そっちはダメよ!』

「あー? あーい」


 慌ててリーナがリヒトを止める。しかし、リヒトは外を指さして行くと声を出していた。


「リーナ、行かせてええぞ。ワシらもおるし」

『あ、うん』

「あー♪」

「お、なんだ親が居たのか」

「すまんのう。いつもはこんなことをしない子なんじゃが、後はワシらがなんとかするわい」

「そうかい? まあ、冒険者もいるようだけど気をつけなよ」


 建物の陰からディランがダルはまた走り出したのを追いかけ、その途中で心配でついてきてくれた町の人へ礼を言ってすれ違う。

 リヒトは両親がついてくるのがわかっていたようで喜んでいた。


 すると――


「きゃあああ!?」

「見つけた、こいつらだ!」

『馬車? ……って、なんか襲われてる!』


 ――少し先の街道で悲鳴が聞こえ、馬車がならず者らしき連中に襲われているのに気づいた。


「ああああああん!」

「あーい!」

「「「わふ!」」」

「む、赤ん坊が乗っておるのか」


 赤ちゃんの泣き声を聞いたリヒトはダルを叩いて急がせる。そしてリーナと共に到着すると、そこには赤ちゃんを抱いた女性が荷台から引きずり降ろされているところだった。

 傍には斬られた男、恐らく御者が血を流して倒れていた。


「こいつらが手中にあれば……」

「わんわん……!!」

「うお、魔物!? ぐへ!?」

「い、犬?」

「あああああん!」

「あーい!」

「え!? 赤ちゃん?!」


 ならず者が女性の腕を掴んだ瞬間、ルミナスが体当たりをしてそれを阻止する。

 吹き飛ぶならず者に驚く女性がルミナスを見て困惑し、リヒトの声で驚愕していた。


「あーい♪」

「え、どこの子なの……? スコップ?」

「ふえ……?」

『あの大丈夫ですか?』

「え、ええ……って飛んでる……」


 リヒトは満足気にスコップを取り出して女性に渡す。さらに太鼓を鳴らすと女性の赤ちゃんが泣き止んでいた。

 そこへリーナが現れて女性がさらに困惑した。


「くそ……! いぬっころが邪魔をしやがって!」

「うぉふ!」

「あ! 危ない! えい!」


 吹っ飛ばされたのとは別のならず者がショートソードをヤクトへ向ける。勇敢に吠えるヤクトが危ないと判断した女性は慌ててスコップをならず者へ投げつけた。


「ぐあ!?」

「ええ!?」

「あー!」

「ふええ……」


 そのスコップはならず者の脇腹に飛んで行ったが、鎧を貫いて深く刺さっていた。

 赤ちゃんに貸したのに投げ捨てられ、リヒトはショックを受けていた。

 

「な、なんだこの赤ん坊は……!? う――」

「そこまでじゃ。何者か知らんが女性にそういうのは許せんのう」

「い、いつの間に……」


 さらに襲い掛かろうとしていたならず者へディランが立ちはだかって止めた。

 眼を見開いて驚くならず者の剣を止めていると、トワイトが背後から声をかけて来た。


「あなた、こっちは大丈夫ですよー」

「ぐっ……この女、強い……!?」

「あーい♪」

「やれやれ、やんちゃなのも困るぜ?」

『いいじゃない。元気な方が』


 遠くではトワイトとガルフがならず者を抑えていた。


「あ、ありがとう、ございます」

「良かったわね、ウチのリヒトが飛び出したんですけど、その赤ちゃんを追っていたのかも」

「この子を……?」

「話は後だ。こいつらをギルドへ連れて行こうぜ」


 トワイトがリヒトに視線を向けて赤ちゃんのところへ来たのかと告げる。

 すると、ガルフがならず者を締め上げながら戻ろうと言う。


「そうじゃな。まったく物騒な町じゃわい。お手柄じゃのうリヒト」

「あーい?」

「きゃっきゃ♪」


 ディランはそう言って鼻を鳴らすが、当のリヒトは赤ちゃんが喜んでいることに満足そうであった。

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