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第180話 竜、王子の話を聞く

「お前はダルボか? それに騎士団が揃ってなにをしている」

「オ、オルドライデ王子……」

「なにをしているのかと聞いている」


 ざっと見た感じ自分の近衛騎士ではないことに気づいたオルドライデが語気を強くして問いただす。

 どう説明するかと思案していたダルボの前に、ヴァールが口を開く。


「ごきげんようオルドライデ王子」

「……! よく見ればヴァール王子! 平民の服を着ていたからわからなかった。ロイヤード国の祭り以来かな」

「ええ」

「よく見ればクリニヒト王国の騎士も……これはどういうことなのですか?」


 オルドライデ王子がヴァールと握手を交わし、そばにいるバーリオや騎士たちを見て訝しむ。平民の服を着ているのも妙で、こんな街道沿いで話をしているのもおかしいと思ったからだ。


「それがじゃな」

「あ、ま、待つのだ!」

「……構わない、話を」

 

 そこディランが事情を説明するため前へ出た。ダルボは慌てるが、王子が現れたのでもうすでにそんな状況ではなかった。

 そのままディランがオルドライデへ話をすると、端正な顔の眉間にしわが出来てきた。


「父上の仕業か!」

「うひぃ……!? そ、そうです……!」

「シエラと息子を追い出しておいてよくも孫などとと言えたものだ……!」

「まあ、そっちの事情はともかくウチの子がお主の子であるか確認をしてもらえんじゃろうか」

「え? ええ、わ、分かりました」

「ふえ……」

「ありゃ? どうしたリヒト?」

「代わるわねガルフ君」

「きゅーん……」


 ガルフが抱っこして連れてきたところ、リヒトがぐずり始めた。トワイトがすぐに交代すると、アッシュウルフ達が不安げに見上げていた。

 そしてオルドライデの前へ連れて行くと――


「あああああん!」

「うわあ!? 泣き出した!?」

「前と同じねえ。どうかしら? 最初、貴族のような服を着ていたのだけど」

「す、すみません……私と同じ金髪だな……数回しか見たことがないが……」

「あああああああああ!」

『顔を覚えていて、実のお父さんに捨てられたから泣いている、とか?』


 オルドライデを見るとやはり泣いてしまうリヒトであった。リーナが困惑してそんなことを言う。

 顔を見ようとすると、リヒトは手をオルドライデの頬をぺちぺちと叩いていた。


「ちなみに手紙には忌み子であるから捨てると書いてあったわい」

「忌み子……両親にとってはそうかもしれないがシエラ、私の妻がそんなことを書くとは思えないのだ。ほら、泣き止んでくれ」

「あああう……ぐす……」


 オルドライデがぎこちない笑いを見せると、リヒトがようやく落ち着いた。

 

「ふ、ふう……赤ちゃんとはなかなか大変だ……ほかに何かめぼしい持ち物などなかっただろうか?」

「持ち物は手紙と服くらいだったわ。あ、そういえば」

「?」

「あー……」


 トワイトが思い出したように閃くと、リヒトの服にあるボタンを外していく。

 そして首筋にある痣をオルドライデへと見せた。


「これは……痣、か」

「ええ。最初からあった痣で、どこかで打ったのかと思ったんですけど消えないの。あなたが見た赤ちゃんにはあったかしら」

「いや……このような痣は無かったと記憶している。そろそろ疾走して一年ほどだが、お産には立ち会ったしその時に抱いている。間違いなく、この子は違う」

「ふむ」

「くっ……」

「どうやら違うようじゃな。お主らの目論見は潰えたというわけじゃ」


 オルドライデがリヒトについてそう断言した。

 ディランが頷き、ダルボは忌々しいとばかりにリヒトを見ていた。

 ここで違うと言って後から実は……という可能性も考えたが、オルドライデの様子を見るに違うだろうと判断する。


「済まなかったな。私のせいでこんなところまで引っ張りだされて。私の子でなかったのは少し残念だが……」

「あーい」


 寂しそうに笑ってリヒトの頭に手を乗せるオルドライデ。すると泣き止んだリヒトがその手をよしよしと撫でていた。


『あ、泣き止んだ。なんで泣いてたのかな? いつも笑っているのに』

「確証はないけれど、多分リヒトは周りの人の空気を察知するのかもしれないわね」


 リーナの疑問にトワイトが答える。

 オルドライデの目にはクマがあり、ロイヤード国の時も先ほども苛立ちや焦燥といった気配を出していた。故にリヒトは怯えて泣いたのではないかと推測していた。


「確かに、オルドライデ様は先ほどより穏やかな顔になられた」

「バーリオ殿、でしたか? お恥ずかしながら、赤ん坊に叱られたようで」


 バーリオもロイヤードで顔を合わせているので会釈をする。オルドライデは苦笑しながら頭を振ってこたえていた。


「やはりクリニヒト王国で捨てられていたので違うと思いましたよ!」

「ザミールさん、勘が当たったからって喜んでもいられねえだろ。王子様の嫁さんと子供はまだ行方が分からないわけだし」

「そ、そうだね……」


 背後ではザミールがそれみたことかと口にするが、ガルフに不謹慎だと呆れられる。


「ともかく、他国の王子をこのままにしておくのは我が国の恥だ。私と共に城まで来てくれないだろうか」

「もう行ってきたぞい。お主の両親と話をして……ああ、謁見の間とやらを壊したわい。すまん」

「ええ……? と、とりあえず謝罪を含めて招きたい」

「そうねえ。ウチとしてはリヒトに危害がなければ別に構わないですよ♪」

「あー♪」

『せっかくだし行ってみる?』


 オルドライデはお話もしたいと言い、ディラン達を招くことにした。リヒトの疑いが無くなれば別に構わないということで移動することになった。


「ダルボ達も来るのだ。父上と共に詰めてやるからな? 先に戻って父上に報告でもすることだ」

「くう……」


 オルドライデはダルボ達を一瞥するとそう告げて先に戻るように促した。バツが悪そうにしている騎士たちと共に踵を返して街道を戻っていった。


「準備が出来たら行きましょう」

「うむ。そういえばお主はお産に立ち会ったと言っていたが、どこでじゃ?」

「え? 町の病院ですね。私の妻になる予定の女性は平民でして……」

「なるほどのう。そしてどこから聞きつけたのか父の手の者が攫っていったらしい、と」

「はい。紹介はしていなかったのですが……護衛の者をつけていましたが、逆に良くなかったのかもしれません」


 自身は仕事があるため毎日通ってはいたが彼女の家に常駐はできなかったことを悔やんでいた。


「きっと大丈夫ですよ。リヒトもこうやって拾われて元気で生きていますし、あなたのお子さんもどこかで無事に生きています」

「あい!」

「そう、ですね。それを願うばかりです」


 トワイトとリヒトに励まされて泣きそうになるのをこらえて、オルドライデはそう返していた。


「準備が出来ました!」

「あ、ああ、では王都へいらしてください!」

『おー!』

「ぴよー♪」


 そしてクリニヒト王国一行も王都へ向けて歩みを進めるのだった。

 町へ入り、大通りを城に向かい歩いていく。


「……」


「わほぉん?」

「うぉふ?」

「わん?」

「あーう?」

「どうしたの? ダルの背中に乗りたいの?」

「あー」


 不意にダル達が立ち止まり、リヒトが声を上げた。ダルに乗りたいのかと思いトワイトが声をかけると、リヒトはどこかに指を向けて声を出す。


「どうしたんだいトワイトさん? みんな行っているぜ」

「そうね。後でお散歩しましょうね♪」

「うー」

「うーんなにも無いけれど……?」


 リヒトは指をさしていた狭い通路を見て唸る。しかし、そこにはなにも無くトワイトはみんなの後を追うのだった。

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