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第179話 竜、息子のために頑固を通す

「特に進捗は無さそうじゃのう」

「王子が帰ってくる気配がないみたいですからね。それにしても、活気が無い町でした」

「じゃろう? ……あれを見たから国王は信用できかねると判断したのじゃよ」

「……」


 ――翌日の昼前


 ザミールやコレルと共に変装して町へ行ったヴァールがディランへ現状を話していた。オルドライデが戻ってきた気配は無く、感想も活気が無いというものだった。

 ディランはそうだろうと頷き、コレルは渋い顔をしていた。


「ギルドやあちこちのお店に聞き込みをしてみたのですが、王子に息子が居るという話は町の人達へ知らされてはいないようですね。本当に生まれてからすぐにいざこざがあったという感じでしょうか」

「リヒトは何歳かわからないけれど1歳くらい。彼らも赤ん坊と言っていたから確かにリヒトに近い姿だと思うわ」


 ザミールは商人の証を持っているので、カバンから適当な品を見せつつ話を聞いてみたところ生まれたことすら知らないとのこと。

 もちろん結婚式なども無く、なにを言っているんだという顔をされたそうだ。


「ただ、王子に関しては国王様よりも話してくれる傾向にありました。昔のようにしてくれるのはオルドライデ様だ、と」

「昔……なんかあったのかな?」

『よくわからないけど、王様はひどい人なのかしら』

「父上なら知っているかもしれない。他国の事情はあまり古いと情報がなかったりするんだよね」

『王子様なのに知らないの?』

「例えばクリニヒト王国全体に影響を及ぼす……内乱があったとかであれば記録に残るけど、王位が変わったとかは他国にはそこまで影響がないからさ」


 ヴァールが困った顔でリーナに返す。

 実際、王子に息子が出来ていたことを町の人が知らないように、他国の自分たちが知るのは不可能に近いと納得する一同。


「リヒトが王族ねえ」

「あーう?」

「おう、びっくりするだろ!?」

「あー♪」

「わほぉん」


 ヤクトに掴まり立ちしているリヒトにガルフが腰をかがめて目線を合わせると、ピーっと笛を吹いて彼の顎にヒットした。

 ガルフがしりもちをつくのを見て喜ぶリヒト。そんなガルフの横にダルがサッと現れて頷く。いつもびっくりさせられているので『驚くよね』と言っているかのようだった。


「ん? ヴァール様。あれを」

「おや、物々しい一団が来たね」

『力づくなら相手になるよ……!』

「まあまあ、そこは私がやるから大丈夫よ♪」

『さすがトワイトお母さん!』

「あい♪」

「わん!」


 コレルが発見した一団は明らかにドルコント国の騎士たちだった。中にはクリニヒト王国へ来ていた者もおり、使者のダルボの姿も見えた。

 ディランとトワイトを始め、ヴァールやバーリオが彼らの到着を待つ。

 リヒトはガルフとリーナ、それとペット達と一緒に後ろに下げた。


「こんにちは。私はクリニヒト王国、王子のヴァールと申します」

「……! これは失礼いたしました。私はダルボ。ドルコント国の上級官をやっております。雑務ばかりですが、お見知りおきを」


 開口一番、話し出したのはヴァールだった。

 先に自己紹介をすると、少し驚いたような表情をした後でダルボが握手を求めた。


「ご丁寧にありがとうございます。こっちが剣術指南役のバーリオと、私の側近であるコレルです」

「よろしくお願いいたします」

「初めまして、バーリオです」


 握手を交わした後、一旦間を置いてからダルボが話し出した。


「それにしてもまさか王子とは。どうしてそのような平民じみた格好を……?」

「ああ、これは先ほど町へ行ってきたからだね。最近は市政の観察として自国でも町を歩いているんだ」

「……王族がそのようなことを」

「そのような、とはご挨拶だね? 町の人たちが気を使わないようにするのは当然だと思うよ。もちろん、相応の場ではしないけど」


 ダルボが真顔で信じられないといった感じの言葉を口にし、ヴァールはほほ笑みながら意図を返す。


「左様でございましたか。いえ、わが国では貴族と平民が肩を並べることがないもので」

「まあ、それは国の特徴か特色というところだろうからいいと思います。それで、騎士たちと一緒にここまで来られたのはどういった用件でしょうか」


 ヴァールは下卑た発言をスルーして用件はなにかと告げる。するとダルボは小さく頷いてから、ディランとトワイトに視線を向けてから答えた。


「もちろん、そのドラゴンの連れている赤ん坊です」

「渡さないと言ったはずじゃがな。王子はどうした? 戻ったのか」

「いえ、戻られてはおりません。一つ提案をしたいと思いまして」

「提案ですって?」


 ダルボは目を細めてにやりと笑みを浮かべると、すぐに驚くべきことを口にする。


「その赤ん坊は拾ったとおっしゃられていたと思います。そして王子のお子かはわからない。そこで考えたのです。ひとまずわが国で保護させてもらおうと」

「保護?」

「はい。その子がもし王子の子で無かったとしても、しっかり育ててあげるということです。王子の子なら尚いいのですが、違ったとしても大きくなるまでの面倒は国で見る、ということです」

「……!」


 提案内容はリヒトをどうあっても引き取るというものだった。もし王子に見せて違ったとしても育てると言い放つ。


「なんだって……?」

『それって、ディランお父さん達からリヒト君を貰うってこと!?』

「……穏やかじゃありませんね。どうしてオルドライデ様を待たずに話を進めようとするのです? リヒト君は別の国で拾われたのだから、私は王子の子ではないと思いますがね」


 その言葉にガルフが珍しく不快を示し、リーナがハッキリと驚きを口にした。

 さらにザミールも苛立ちを隠さずに状況から違うであろうことを告げる。


「その風貌、お前たちはクリニヒト王国の冒険者に商人といったところか。ふん、平民の意見は聞いてはいない。さて、ドラゴンのディラン殿、どうですかな? もちろん相応の報酬は払います。手のかかる赤子を手放しては――」

「ワシらは――」


「わほぉん!」

「わんわん!」

「うぉおふ!」

「こけー!」

「「「ぴよーーー!」」」

「うわ、な、なんだ!?」


 ダルボの言葉へディランが返事をしようとしたところ、それまでおとなしくしていたペット達がディランのところまで来て一斉に吠えた。

 いつもは気だるい感じで鳴くダルですら大きな声で吠えたて、場は騒然となる。

 当然、リヒトを取り上げようとする輩を追い払うためだ。


「あーう?」

「ま、そりゃ吠えられるだろうぜ」

『当然よ!』


 掴まり立ちをしていたところで急にヤクトが居なくなったため、リーナのスカートに掴まったリヒトが首をかしげていた。

 自分もペット達の下へ行きたいが走れないのでそのままである。

 

「そうですね。人の子をなんだと思っているのでしょうか? 私たちはリヒトを手放すようなことはしませんよ? 再三申し上げている通り、リヒトが王子の子であるか確認が取れるまで交渉には応じません」

「まあ、そうだとしても引き渡すかどうかはまた別じゃがな」

「な……!? 貴様ら国を敵に回したいのか……!?」


 いよいよ怒りをあらわにしてトワイトが口を開き、ディランも冷たい目でダルボを見る。ドルコント国を敵に回すのかと言われたところで、ディランが口を尖らせる。


「あんまり言いたくないが、お主らはドラゴンを敵に回したいのかのう。城を破壊したのを忘れたとは言わせんぞ。その気になればここから城ごと吹き飛ばせる、ということは覚えておくのじゃな」

「ぐぬ……言わせておけば……」

「大人しく帰ることじゃな」

「ぐっ……」


 リヒトを捕まえようとしたのか、妙な動きをしようとした騎士たちに向けてにらみを利かせると、金縛りを受けたように固まる。

 ガルフがサッとリヒトを抱っこして庇う姿勢になった。


「う、動けない……!?」

「リヒトには近づけさせんぞい」

「ダ、ダルボ様……ここは……」

「くっ……」


 さすがの騎士もとんでもない威圧に不味いとようやく判断できたようだ。

 ダルボは真っ青になったり顔を赤くしたりして歯噛みをしていた。


 すると――


「待て! 王都の近くでなにをしているのだ!」

「む?」

「あ!? オ、オルドライデ王子……!」

「あら」


 ――そこへオルドライデ王子が、やってきた。

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