第178話 竜、全員で相対することにした
「トーニャ」
「あ、パパ! 良かった、すぐ会えたわね」
「あーい♪」
「リヒトー♪」
「おお、元気そうだな」
『良かったぁ。もう取られちゃったかと思った……』
集合しているメンバーの下へと到着したディランは早速声をかけた。
リヒトは久しぶりに会う姉に喜び、抱っこされた。ガルフとリーナはホッとした様子でその光景を見守る。
そこでヴァールがディランとトワイトへ声をかけた。
「お話は父から聞きました。まさか先にディランさんへ声をかけて自国へ連れて行くとは思わなかったと言っていましたよ」
「おお、わざわざすまぬのう。追いかけてくれたとは」
「謁見をした時点で国が関わっていますからね。これが父と会わずに直接山へ行ってディランさんを連れ出したのであれば、また話は変わっていたと考えます」
ヴァールに感謝を述べると、彼は一連の流れならここへ自分なりモルゲンロートが来るなりは必ずあったと語った。
そもそも、クリニヒト王国側からディランを説得して連れて行くと言ったにも関わらず強行したことが、トーニャを使ってでも追いかけるという事態に拍車をかけた。
「王族同士ならともかく、その使者が独断でことを進めるのはかなり愚策だと思う」
「ほう、貴族なら平民を連れて行くのは構わないと言いそうじゃったがのう」
「う、うるさい! 貴族のために平民は働くのは構わないが虐げていいわけじゃないからな!」
「ふっふっふ、お主はまだ大丈夫かのう」
「からかったのか……!?」
ディランにからかわれたと思ったコレルが食って掛かるが、ヴァールに苦笑されながら止められていた。
「ガルフ君とリーナちゃんも来てくれたのね」
「護衛……っつっても騎士さんたちが居るからそこまで戦力にはならねえけど、トーニャとは仲間だからな!」
『リヒト君をどうするつもりか知らないけど、許せないわ』
「うふふ、ありがとうね」
トワイトがリーナの頭を撫で、騎士たちへ視線を向けると彼等も笑顔で頷いていた。頼もしいと頷き返す。
「とりあえず城には行っていたみたいですが、なにか話はありましたか?」
「話はあったが、話にならんといったところじゃ」
「こけ!」
「ジェニファーも怒っているね?」
「というかザミールもおるのか」
ヴァールの言葉にディランが肩を竦めていると、カバンから顔を出したジェニファーが憤慨した声を上げた。
ザミールが目を丸くしてジェニファーに驚いていたところ、ディランも驚いていた。
「ちょうどお屋敷に行ったところでお話を聞き、リヒト君が心配で連れてきてもらいました。しがない商人ですが、各国を回っているのでなにか意見が思いつくかもと。それとリヒト君へお土産もあったんですよ」
「あーい♪」
「あら、新しいおもちゃね」
リヒトが自分のカバンから笛を取り出してピーっと伸ばすと、トーニャがほほ笑んでいた。プレゼントしたザミールもにっこりである。
「まあ、とにかくリヒトが王子の息子である証拠を提示できん以上、話し合いは無理だと判断した。別の思惑がありそうな感じもしたので、王子を待つということにしておる」
「なるほど……オルドライデ王子は王や貴族のふるまいや政治に関する件について思うところがあるようなのです。簡単にいえばウチのように平民を軽視しない、圧政をしかないといったことを是正しようとしているとか」
「……難しいと思うが」
「なるほど。国王の態度から察するにそれを阻止したいと言ったところかのう」
「王子ではなく、国王夫妻が先に会うと言った理由が分かった気がしますね」
ヴァールの知っている話を聞くに、息子の子である孫を押さえておけばオルドライデが動けなくなる状況が作れる。
そのため王子に知らせることなく、確保しようとしたのだろうと推測した。
「となると、我々も訪問しようと思いましたが止めておいた方が良さそうですね」
「どうしてだヴァール王子?」
「ドラゴン相手に拘束は無理だけど、私たちは人質にされる可能性が高い。交換でリヒト君を渡せという強硬策を取ってくるかもしれないだろう? そういうことだよコレル」
「ふむ……他国の王子にやるだろうか?」
「まあ、一例だよ。ガルフ君やリーナちゃんもいるしね」
ヴァールは話をしに来たものの、ディラン達の話と状況を考えて様子見をすることにした。戦争に近い状態になるとしてもやるだろうかとコレルは眉を顰めるが、自分じゃなくても何かしらを盾にする可能性があると返していた。
「私たちもオルドライデ王子を待たせてもらおう」
「では町の宿へ?」
「このまま野営でいいさ。帰ってきたら呼んでくれるらしいし」
「魔物はどうせ近寄ってこないから、ゆっくりしましょうか。食料とかはどうします?」
「一応、二日分はあります」
「なら料理は私がやりますね。ミルクはいつも持ち歩いているからリヒトは大丈夫よ♪」
「あーい♪」
トワイトが頬をくっつけると大喜びで笛を吹いていた。
ひとまず指針が決まったのでクリニヒト王国陣営は野営をして次に備えることにした。
幸い、町からほどほどの距離にある街道なのですぐにわかるだろうと考えていた。
「どう決断するかのう。愚かなことを考えなければよいが」
◆ ◇ ◆
「まったく……貴族が偉いのは責任があるからなのだと何故わからんのか」
「お父上の体制になってから三十年は貴族たちに莫大な利益がありましたからね。今さら捨てるのは惜しいのでしょう」
「元々はそうでなかったのだ。それに政策が変わることなどいくらでもある」
一方そのころ、オルドライデは自身の両親がとんでもないことをしていたことを知らずにとある領地から戻るところだった。
貴族たちに政策を変えたいと打診の通知をして回るというのも幾分慣れてきたと、馬車の窓から外を見て思う。
「味方になってくれる貴族が多いのはありがたいことかもしれませんね」
「民が居なければ自分たちの食事が無くなる可能性を考慮すれば当然だろう。まあ、父上を説得できるかどうかによるとは言われているが……」
「どうですかね。まだ退位する気はないと思いますが」
「正攻法で行かなければ向こうも何をしてくるかわかりませんからな」
同行しているお付きの騎士と自分よりの官職がオルドライデの言葉に感想を告げる。すべては国王である父親をなんとかする策を練らねばならない。
「……シエラの行方は?」
「まだなにも。一年近く探していますが、これだけわからないとなれば他国へ行ったかあるいは……」
「死んでいるとは思えない。いや、思いたくないと言った方がいいか」
「いい子、でしたからね……」
「さすがに殺してはいないと思いますが、魔物にやられることは考慮しないといけません」
「わかっている」
暗に諦めも必要だと官職が言う。
それは『今後、国を治めるにあたって必要なことだ』というのもオルドライデは解っていた。
「陛下にとっても孫ですし、一目見れば考えが変わるかもしれません。必ず見つけましょう」
「頼む」
オルドライデは頭を下げてそういうと再び窓の外へ目を向ける。
「(父上の考えは解る。しかし、それは誰も幸せになれない。どう、話したものか――)」




