第169話 竜、職人さんと出会う
「ごちそうさまでした♪」
「あーい♪」
「「「わふ♪」」」
「「「ぴよー♪」」」
ウェリス達が立ち去ってからしばらくおしゃべりしながらお茶をしていたが、程なくして食べ終わる。
リヒトとペット達も満足したのか満面の笑みで鳴いていた。
「あら、全部食べなかったのね」
「ぴよ」
「あーう?」
そこでテーブルの上にまだ豆が残っていることにトワイトが頬に手を当てて言う。
するとひよこ達は豆をくちばしに挟んでからリヒトのポケットへ入れていく。
リヒトが首を傾げていると、トワイトが手を合わせてから微笑む。
「ああ、ジェニファーにお土産をしようとしているのね! うふふ、偉いわみんな」」「ぴよー♪」
「あー! あう」
「そうね、お父さんにもなにか買っていってあげましょうか」
「わほぉんー」
リヒトが意図に気づいたようでディランになにか買いたいというような素振りを見せていた。トワイトがいい案だと笑うと、ダルがウェイトレスか先ほどの男性従業員を呼びに入口で鳴いた。
「賢いなあ、ひよこちゃん達。あ、ウルフ君達も」
「やはり竜神様達の傍にいるからだろうか? いや、それにしても美味しかった。ありがとうフレイヤ」
「良かったぁー! エメリ達ウィズエルフとは今後も接触する機会も多くなると思いますし、喜んで欲しかったの」
「なるほど。では、フレイヤは私がここに来た時には必ず案内を頼むことにしよう」
「うん!」
「だからくっつくな!?」
「あーい♪」
「ぴよー!」
フレイヤは強引なノリで引っ張ってきたが、今後のことを考えてのことだと口にする。それを聞いたエメリは腕組みをして不敵な笑みを浮かべながら返す。
歩み寄れたと感じたフレイヤはまたエメリに抱き着いていた。リヒトは仲が良い様子にポコポコと太鼓を鳴らす。
お持ち帰りのケーキを待っていると、通りにまた見知った顔が現れた。
「あ、ザミールさん!」
「ん? ああ、皆さん! おや、ディランさんはいらっしゃらないんですね」
「ザミールさんを待っていますよ。私達はエメリの歓迎のひとつとしてここでお茶をしていました!」
「なるほど。では一緒に戻り――」
それはザミールだった。
慌ただしく早歩きでディラン達のところへ戻ろうとしているところである。
こちらの状況を伝えると、ザミールは笑顔で一緒に戻ろうかと言おうとし、途中で阻まれた。
「なんだ、えらい可愛い子ばかりが集まっているじゃねえか。誰がザミールの彼女なんだ?」
「ち、違いますよ!?」
「そちらは?」
「木材職人のゼクウさんです。はは、寝ていたので起こすのに時間がかかってしまいました」
「急だから仕方ねえだろー」
「あーい!」
「お、赤ちゃんが居るのか。なら一人は候補から外れたな。騎士の姉ちゃんとか、いいじゃねえか」
ゼクウはくっくと笑いながらザミールの背を叩きながらそんなことを言う。
ザミールは顔を顰めてからゼクウに口を尖らせる。
「はあ、私みたいなのに嫁ぎたいなんて人は中々いませんよ。さ、行きましょう」
「なんでえ。お前もいい歳だろうによ」
「あはは、忙しいそうですもんねザミールさん。それじゃ支払ってきますから先に行っててください!」
「ありがとう、後でお金を渡すわね」
「お気になさらずー!」
ひとまずフレイヤが支払いに行き、ついでにディラン達のケーキも取ってきてくれると店内へ。
「おいでみんな」
「あーい!」
「「「ぴよっ」」」
「うぉふ」
「ほう、こりゃアッシュウルフか? 随分と大人しいな」
「ウチの家族なんです♪」
「はは、いいじゃないか。お前達、良かったなあいいご主人みたいで」
「うぉふ♪」
ゼクウはルミナスの頭を撫でながらいい家だと口にする。懐き方できちんと暮らさせてもらっているんだろうなと彼は笑う。
「では、行きましょう奥方様」
「そうね。うふふ」
「な、なんですか?」
「あー♪」
エメリが先を行こうと口にするが、トワイトにぴったりくっついていた。フレイヤが居なくなったので少々不安になったらしい。
リヒトはそんなエメリの頭を撫でていた。
そのまま歩き出してディラン達の待つ王都の外へ向かった。すぐにガシャガシャと鎧の音を響かせながらフレイヤが追い付いてくる。
「それにしてもネクターリンの木ねえ。殆ど取れない伝説に近い木なんだよなあ」
「そうですねえ。マイティオークは山にも居ましたけど」
「ああ、あれはいい素材だな。でもあれは魔物だ。純粋な木って意味じゃネクターリンの木は貴重だぜ」
そう言いながら街門を抜けた直後、ゼクウは煙草に火をつけて今から見る木について語り出した。
前にディラン達も言っていたが高山にしかない木なので市場に出回ることはまずない。そのため扱いが非常に難しいだろうというのだ。
「お家とかに使うとか?」
「グリップにはいいかもとザミールから聞いているくらいかねえ。後は見てみないとわからんが……腐りにくいって話を考えると、風呂桶や小屋なんかにはいいかもしれねえ」
「お父さんはなんでも使うからねえ?」
「あーい」
「旦那さん、大工かい?」
「ドラゴンです」
「んー……?」
マイティオークがいいと知っているディランも適当な木で色々と作るため素材の良し悪しで作る者が変わるのだろうかとトワイトは考えていた。
そしてディラン達と合流をする。
「お、帰って来たか」
「あー♪」
「わほぉん」
ディランがトワイト達に気づき、片手を上げて声をかける。するとリヒトが両手を上げて声を出し、ダル達もディランの足元へ移動していた。
「ただいま、あなた。はい、お土産」
「む、なんじゃ? 菓子か」
「あい」
「こけー?」
「「「ぴよー♪」」」
ディランへはトワイトからケーキを渡し、リヒトは地面に降ろしてもらうとポケットに手を突っ込んで豆を握りしめてからジェニファーに差し出す。
ひよこ達からのプレゼントだと気づいたジェニファーは羽を広げて喜んだ。
「こけ♪」
「良かったのう。さて、ケーキは後でいただくとして、そちらが職人さんかのう」
「おう、あんたが噂のドラゴンさんかい! 俺はゼクウだ、よろしくな。で、あれがネクターリンの木か」
「うむ、ディランじゃ。よろしく頼む」
「ではこちらへ――」
「竜神様、行ってきます」
ディランと握手を交わした後、ザミールとバーリオ達に連れられて材木のところへ行く。エメリも実際の商談となるためフレイヤと一緒にあとをついていく。
特にディランがやることは無いためリヒトをトワイトから預かっていた。
「楽しかったかリヒトよ」
「あーい♪」
「うふふ、さっきあなたに突っかかってきた冒険者さんに怒ってましたよ」
お父さんに抱っこされて立派な顎髭を撫でながらリヒトが喜ぶ。そこでトワイトがさっきの話を語る。
「おお、あやつらか。デランザを見て戦いたいとか言っておったな。相変わらずじゃわい。リヒトが怒ってくれたのか」
「あい!」
「でも、お父さんをもう攻撃しないと言っていましたよ」
「なるほどのう。強者を求めて倒すのが生きがい、か。相手を殺せば人間同士だろうが魔物だろうが命を奪うことには代わりはない。責任が伴うんじゃがのう」
「気づいてくれるといいですね。こういうのは人に言われただけでは気づきにくいですし」
そんな話をしながら夫婦は木材の選定を見守るのだった。




