第167話 竜、人間とエルフを見守る
「あーい」
「ぴよー♪」
「リヒト様は元気ですね……」
「めちゃくちゃ可愛いですよねリヒト君!」
町へ入ったトワイト達一行。
エメリはリヒトが伸ばした手を掴んで周囲を警戒していた。
フレイヤは、でんでん太鼓とぬいぐるみをポケットに入れ、ひよこ達が頭や肩に乗っているリヒトを見て目を細めていた。
「それでもお父さんが居ないから元気がない方なのよ。あんまり離れたことがないからと思うけど」
「そういえば初めてウチの集落に来た時はリヒト様は居ませんでしたね」
「あー♪」
「二回目の時には行ったでしょう? あれもリヒトがお父さんにせがんだの。私は行かなかったけど、リコットちゃんが居たからまだ良かったわね」
小さな手を上下に動かしてエメリと握手しているリヒトが喜ぶ。それでもお父さんが居た方が活発になるとトワイトは言う。
「ディランさんの方がお出かけすることが多いんじゃないですか? だから一緒に居たいのかも」
「そうかもしれないわね。畑仕事をしている時はジェニファーとひよこ達しかお父さんのところに居ないものね。この子達と遊んでいるから」
「うぉふ!」
「わん!」
「なるほどー!」
フレイヤの質問にトワイトは朝の光景を思い返して答えた。フレイヤは納得し、しゃがんでからアッシュウルフ達を撫でていた。
「それで、その『すいーつ』の店とはどこなのだ?」
「えー、言葉遣いが固いよ? まあいいけど♪」
「ああ!? 引っ張るんじゃない……! リヒト様っ!」
「あうー」
鼻歌混じりにエメリと腕を組んで町を歩いていくフレイヤ。リヒトに助けを求めるが、いつもアッシュウルフ達の前足にぎゅっとされるリヒトは二人を仲良しさんだと思い、バイバイと手を振っていた。
「美味しいミルクがあるといいわねえ。後はペットが入れるかどうかかしら?」
「あい!」
「わほぉん……」
そんな調子でフレイヤの後をついていく。街門をくぐり大通りを歩いていく。少しすると目的のお店を見つけたようで早足になった。
「ここですよ! エメリはケーキとか好きですか?」
「けぇき? 知らない食べ物だな……というか最初に苦手なものがないかとか聞くだろう……」
「確かに……!? ごめんなさい」
「ま、まあ、いいけども! 知らないものは食べてみないと分からないし、竜神様を待たせるのも悪い。早くいくぞ」
フレイヤは良かれと思って連れて来たが、確かにエメリの言う通りだと頭を下げた。すぐに謝ったのでエメリは動揺しながら早く行くぞと口にする。
「はいはーい、ではこちらへ。すみません、大人四人と赤ちゃん一人に狼三頭、とひよこ3羽入れますかー!」
「無理ですけど!?」
「あれ?」
木造りのオシャレなカフェの扉を開け、笑顔でオーダーをするとウェイトレスにあっさり拒否されていた。
「なんだフレイヤじゃない。今度は動物のお友達?」
「それもあるけど、じゃーん! ウイズエルフのエメリさんを連れてきました!」
「「……!」」
「こ、こら! 大々的に紹介する奴があるか!」
「わ、エルフのお友達もできたんだ? あんた本当にコミュ力高いわね」
瞬間、店内のお客さん達の目がエメリに集中していた。焦るエメリがサッとフレイヤの後ろへ隠れると、トワイトが口を開く。
「フレイヤさん、ダル達はダメみたいだから私とリヒトは外で待っているわ」
「ええー!? 折角来てくれたのに……」
(ああ、ドラゴンさんの知り合いか)
(ならあの褐色肌のエルフさんも悪い人じゃなさそうだな)
(ちょっと怖がっていて可愛いかも?)
するとエメリに注目していた人達はトワイトを見て『なるほど』と理解してそれぞれの話に戻っていた。
別にトワイトと話したことは無かったりするが、先日のお披露目でディラン達を見ているため害はないと思われているのである。
「ああ、すみません。飲食店なので動物はちょっと……」
「ええ、ええ、大丈夫ですよ♪ お散歩でもいいですし。ねえリヒト」
「あい!」
トワイトがポケットから出した帽子をかぶせるとリヒトは問題ないと大きく頷いていた。
「ちょっと待ったー!」
「ん? マスター?」
するとカフェの奥からマスターと呼ばれた中年男性がやってきた。
彼は一行の前に立つと、笑顔で提案を始める。
「折角来てくれたのに追い返すのは性に合わない。噂のドラゴンさんみたいだしな。通りで良かったらテーブルを設置するからそこでどうだい?」
「あ、いいんですか?」
「でもご無理を言うわけにも……」
「いや、一応、そういう人向けに用意はしてあるんだ」
オープンテラスを考えていたが、それを願う人は居なかったのでそのままになっているのだとマスターが言う。
「じゃあそうしましょう! マスター、イチゴのふわふわケーキとキンカーンティーを三つ! それとリヒト君とアッシュウルフ達のミルクかな!」
「ひよこ達にもなにか食べられそうなものがあると嬉しいのですけど」
「オッケーだ」
「「「わふ」」」
「「「ぴよー」」」
「あはは、可愛いじゃん! それじゃちょっと待ってて」
キレイに揃って鳴くペット達を見てウェイトレスの女の子が顔を綻ばせる。
そのままマスターと一緒に奥へ引っ込むのを見送ってしばらく待つと別の従業員がテーブルと椅子を持ってやってきた。
「フレイヤさん、また無茶を言ったのか?」
「無茶じゃないですよ!? お客さんを連れて来ただけですけど!」
「まあ、可愛い子を連れて来てくれたのは助かるけどな」
「かわ……! 人間は不誠実でいかんな!」
「あ、怒らせた! 仲良くなるためのお茶会なんだから余計なこと言わないの!」
「はいはい、これでいいかー」
男の従業員はむくれるフレイヤに苦笑しながら男性従業員はテーブルをサッとセットした。
「それじゃエルフのお嬢さんごゆっくり♪」
「あ、ああ」
「まったく、女の子を見たらすぐああなんだから」
「知っているのね?」
「あうー」
「近所に住んでいた同級生なんです。いつもおちゃらけているって感じですね」
「仲が良さそうだったじゃないか」
「全然!」
「うふふ」
トワイトはニヤリと笑みを浮かべて『仲が良さそう』だと語ったエメリに、さっきのお返しかしらと微笑んでいた。
ひとまず腰をかけて、ひよこ達をテーブルに解放する。
「ぴよー♪」
「あー♪」
「わほぉん……」
「大きなあくびだ……」
テーブルは店の出入り口の近くへセットされており、垣根はないがオープンテラスをする予定だったからか、そのあたりの区画は芝生になっている。
ダル達アッシュウルフは前足で地面の具合を確かめるとその場でお座りをしたり、寝そべるなどくつろぎ始める。
もちろん視線は通りにあり、警戒は怠らないのだ。それはそれとしてダルはあくびをしてルミナスとヤクトの前足に顔を叩かれていた。
「どんなのが来るか楽しみねえ♪」
「あーい♪」
落ち着いて席についてスイーツを待っていると、不意に声が聞こえて来た。
「あ、ドラゴンの奥さんだ」
「……げっ」
「おお、先日は失礼をした」
「あら、あなた達」
それはディランに喧嘩を売ってボロ負けしたウェリス達のパーティだった。




