第165話 竜、キマイラの準備をする
「どうじゃな?」
ディランがカッと目を見開いて審議しているザミールへ話しかけた。
真剣な表情でディランに向き直った後、目を閉じてからしばらくなにかを考える。そして再び目を開けてから彼は口を開いた。
「……これは、専門家に見てもらった方がいいですね……!!」
「あらら」
その言葉を聞いてその場に居た者達がズッコケていた。そこでザミールは後ろ頭を掻きながら続ける。
「良いか悪いかで言えば間違いなく良品なのです。腐っているものは無く、切り口は見事と言うほかありません。ただ、材木として使えるのかどうか? そうなると加工職人さんしか判断ができないんですよ」
それと『なにに使うか?』が重要らしく、少し小突いた感覚で言えば剣のグリップなどは折れにくく最適かもしれないと言う。
「なるほどのう。なら、何本か王都に持って帰ってからその加工職人とやらに聞いてみるしかないか」
「そうですね。私ならこの長さ一本で金貨五枚は出します」
「あら、意外と安いのね?」
「ま、まあ、トワイトさんの絨毯と比べたら。元々、森が多い地域ですと伐採費用の方が高いくらいですね。ただの木であれば金貨一枚行くかどうかですよ」
「へえー」
ネクターリンの木ということで高いかと思っていたが金貨五枚はやや拍子抜けだった。もちろんトワイト自身の絨毯やらが高いだけで、木の取引としては高いのだという。
そういった情報がスラスラ出てくるとフレイヤがポカーンとした顔でザミールを見ていた。
「知らないんですか人間も?」
「私は騎士ですからね! 人間って数が多いからできる仕事を職業としているんです。エルフさん達って集落でそれぞれ狩りなんかをして、職業という概念が無いっぽいですからピンとこないかもです。それはともかくフレイヤちゃんと呼んでくださいよー」
「嫌だ! ええい、近づくな!」
「はっはっは、エメリが困っているのは珍しいな。いつも困らせる側なのに」
「うるさいっ!」
「ぐあ!?」
逃げるエメリを見て他のウィズエルフが笑っていると、まつぼっくりは投げつけられていた。
「それじゃあ練習も兼ねてキマイラのデランザ君にも王都へ行ってもらいましょうね」
「あーい!」
「うぉふ!」
【おウ!? 近イな!?】
ひとまず移動しようとトワイトがデランザに近づき、手を合わせて頷いた。
リヒトとヤクトが大きな顔に向けて元気よく吠えた。
やりにくそうな顔をしながらデランザが尋ねて来た。
【とりアえずトんで行くのカ? 運ぶにもどうやっテだ?】
「えっとね、お婆ちゃん色々作って来たのよ♪」
【?】
トワイトがザミールの馬車に載せてもらっていた風呂敷を開ける。
そこには『配達中』と記載された首下げボードを取り出した。さらに蛇の首やヤギの髭に結ぶリボンなども並んでいた。
「あ、凄い」
「これはいいかもしれませんね」
「はーい! 私、リボンを結んでいいですか!」
「メインの頭には三角巾でいいかしらね♪」
【えエー……】
「あ、奥方様、私もいいですか……!」
かくしてヴェノムキマイラという普通の種族から見てかなり強い種族であるデランザはドラゴン、ウィズエルフ、人間というバラバラの種族の女性陣からデコレーションされることになった。
【ううム……我ハ強いのニ……】
「あーい♪」
【お、ナンだそれハ……!】
「あう」
なすがままになっているデランザに、ピーっと伸びる笛を見せるリヒト。
強者だと語ったデランザは目を丸くして食いついていた。
「笛に心を奪われるとはまだまだじゃのう」
「アレ、子供に人気な商品らしんですけどね」
「まあ、ええじゃろ」
【おお、おもシロいな!】
「あー♪」
「わんわん!」
「ぴよー♪」
「こけー!」
「ここにも結んじゃいましょう!」
「人間、こっちni
も黄色のリボンをくれ……!」
デランザがリヒトに注目していること約数十分。その間、女性陣によりデコられていた。そしてお披露目となる。
「おー」
【む、終わっタのカ?】
【~♪】
【~♪】
「ヤギの頭と蛇の頭は喜んでおるようじゃぞ」
【ふむ、まあ悪クないカ】
「いいんだ」
蛇の頭がにゅっと首を伸ばし、巻かれたリボンを見せていた。
まあまあだなとデランザが分かったようなことを言い、ザミールやウィズエルフ達が苦笑していた。
「あい♪」
【かっこイイか?】
「あう!」
「ぴよ!」
【そうカ。ならこれデ行こウ】
「うんうん、可愛い可愛い! あ、私はデランザさんに乗せてもらっていいですか? ザミールさんも」
「私もかい?」
「ええ! 陛下とバーリオ様が今後、キマイラに乗って移動することもあるかもしれないとおっしゃっていたので、どんな感じか試しておきたいんです」
「なるほどね」
興味本位と言いつつ、意外と仕事のことを考えているなとザミールが頷き、提案に承諾した。馬車はディランの背でないと無理そうなのでまずは二人が決定。
「ウィズエルフさんは誰が行きますか?」
「ではこちらからはエメリを行かせましょう。ちょうどフレイヤさんと仲が良いようですし」
「良くない……! しかし……まあ、すいーつなるものを頂けるというのであれば吝かではないな!」
「そうそう、行きましょう行きましょう♪」
謎の言葉スイーツに魅了されたエメリが仕方ないと言いながらデランザに乗る。
トワイトはその間、お腹の下に袋を結び、材木を数本突っ込む。
「これで落ちないはずよ」
【悪クない。まだ持っテいけルぞ】
「今回はお試しじゃからそれでいいわい。ワシが大風呂敷に五本ほど入れていくわい」
「わかったわ」
ディランが変身してドラゴン用の大風呂敷に材木を入れてからしっかり縛ると小脇に抱えた。トワイトが笑顔でそれを見届けると、馬車を引いてディランの背中へ乗り込んだ。
「気を付けてなエメリ」
「行ってきますー! ……って、心配なら誰かついてきて欲しいんだけど!?」
「あーい!」
「ははは、リヒト君が居るから大丈夫さ」
準備ができた一行は再び空の旅へと戻って行く。
デランザも三人を乗せてふわりと浮いて、雲の上まで到着した。
「こっちじゃ」
【わカった】
ディランが先に立ち、スーッと進みだす。その後に続いてデランザが『配達中』の札を揺らしながらついていく。
「あーい♪」
「わほぉん」
【おウ、ちゃんトついていっているゾ】
「リヒト君、愛想が良くて可愛い~」
「そうだな。あの子は可愛いと私も思う」
リヒトが後ろに手を振ると、フレイヤやエメリが可愛いと同調していた。
それを見てザミールが仲がいいなと笑っていた。
「それにしても……ディランさんと違って揺れますね」
【そうカ? 確かにドラゴン殿ハ魔力で力場ヲ作っていルようダ。……これデどうダ?】
「お、やるじゃないかデランザ! いつも食って寝てばかりだと思っていたが器用なこともできるじゃないか」
【ふふン、これくライはな】
エメリがデランザを褒めると、得意げに鼻を鳴らしていた。するとそれを聞いていたトワイトがダルを撫でながら口を開く。
「うふふ、ダルみたいな生活をしているのかしら?」
「わ、わほぉん……!」
「あーい♪」
そう言われてダルはぎょっとした後、リヒトを前足でぎゅっとし、きちんと護衛しているとアピールするのだった。




