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第160話 人間、穏やかな日常に……戻れない

「あーい♪」

「うぉふ!」

「ぴよー」

「もー可愛い!」

「これはヤバイわ……!」


 ロクローが里へ帰るため移動を始めたころ、ロイヤード国に残っていたディラン達は少しだけお茶をいただいていた。

 ギルファがせがんだのもあるが、トワイトのぬいぐるみにも皆が興味津々であったからだ。

 そして一時間ほどトワイトが針作業を行い、ドラゴン一家のぬいぐるみが完成していた。

 リヒトを中心にアッシュウルフ達とひよこ、ジェニファーである。


「この青い髪の子は誰なんです?」

「ああ、この子はリコットちゃんと言って私の孫なの♪」

「あれ? あの嬢ちゃんが子供を産んだのかい?」

「そっちじゃなくて息子の方じゃな」

「息子さんも居たんですね」


 リコットのぬいぐるみもその場にあり、カーラが誰かを尋ねて来たのでトワイトが答えを返していた。

 ギリアムがトーニャのことを指していたが、ディランがそういえば会ったことが無いかと訂正をする。


「やっば、ダルの顔そっくりじゃん! ほら、カーラ様眠そうな顔ですよね」

「ぷっ……ほ、本当ね!」

「わほぉん……」

「あ、こら止めなさい!」


 ユリがぬいぐるみダルの横に本物を連れて来る。カーラもよく似ていると言いながら笑うと、ダルが自身のぬいぐるみを前足でぺちぺちと叩き始めた。

 

「ヤクトは優しい顔だよね」

「うぉふ」

「女の子なのにルミナスが一番キリっとしている……」

「わん」


 ギルファはもらったヤクトのぬいぐるみをヤクトの頭に乗せて比較する。ヒューシはルミナスが一番かっこいい顔だと評していた。


「あたしはひよことにわとりが好きかな? コロコロして可愛いわ」

「こけー♪」

「「「ぴよ♪」」」

「あー♪」


 ひよこ達が自分達のぬいぐるみとジェニファーのぬいぐるみに飛び込んでもぞもぞ動く。顔だけだしてまるでひよこがたくさん増えたように見えるのでリヒトがご満悦だった。

 ポコポコとでんでん太鼓を鳴らして喜んでいると、トワイトが手を止めた。


「あら、綿がなくなってしまったわね。ダル達のぬいぐるみで結構使ったから仕方ないけれど」

「まあ見本みたいなものじゃからええじゃろう。ヤクトのはギルファにやるとして、ダルはユリかのう」

「もらえるなら……!」

「もちろん構いませんよ♪」

「なら、あたしもジェニファーとひよこが欲しいかも」


 そんな調子でぬいぐるみの試作品が行きわたり、みな笑顔だった。するとギルファがテーブルに木彫りの熊を置いてヤクトと並べた。


「ディランおじさんが作ってくれた熊さん! 部屋に飾っているよ!」

「おお、そりゃ嬉しいのう」

「飾っている……ってか、いつも持ち歩いているんだぜ。かなり気に入っているよな」

「落として壊れたら絶対泣くのに」

「な、泣かないよ! ねえリヒト君」

「あーう!」


 そしてどうやら木彫りの熊はギルファがおもちゃのように持ち歩いているらしい。

 カーラに壊れたら泣くと言われたところ、リヒトに同意を求めていた。

 リヒトは呼ばれたのでとりあえず返事をする。


「そういえばこの木彫りの熊さん、たまにカタカタ揺れるんだよ。なにか知っている?」

「動くのか? いや、ワシは普通に彫っただけじゃ」

「まさかゴースト……?」

「悪い感じはしないからいいんだけどね」

「村の狼木彫りにもなにかないか聞いてみるか」

「そうですね」

「「「わふ」」」


 ギルファは気にしていないといった感じで木彫りの熊を撫でていた。彫った張本人もよく分からないため村の狼木彫りを確認するかと口にする。


「ぬいぐるみも出来たし、そろそろ帰るとするか。綿もなくなったのじゃろう?」

「ええ」

「もう帰っちゃうの?」

「うー?」

「うむ。ロクローのことは終わったし、息子一家も片付いた。次は木材の話じゃな」

「木?」


 ディランが腰上げ、トワイトがリヒトを抱っこする。ギルファは少し寂しそうな顔をして尋ねると、まだ仕事は終わっていないと言う。


「そういえばネクターリンの木が大量にあるって話だったな……あれもモルゲンロートは胃が痛い話だと思ったぜ」

「そうか? まあ確かに買えというのはいささか不躾だったのは認めるわい」

「そっちじゃねえって」


 ギリアムはキマイラが運び屋になることを聞いていたので苦笑しながらそう返す。

 ディランが首を傾げていると、騎士達がざめいていた。


「キマイラ……?」

「ドラゴンよりはマシ、というあの……? アレを運び屋にしているのか……?」

「あー、びびるよな。まあディラン殿ならそれくらいはできるだろ。そんな感じで、クリニヒト王国ではキマイラが飛んでいる日常が来るかもしれねえってよ」

「うおお……」

「キマイラって強いのお姉ちゃん?」

「うーん、正直物凄く強いわね……騎士団総出でようやくって感じ?」


 ロイヤード国の人間達は冷や汗をかきながら喉をごくりと鳴らす。そんなのが徘徊していて一歩間違えたらと考えたら恐ろしい。

 しかし、ドラゴンがいることを思えば似たようなものかとも感じていた。

 そしてギルファの問いにカーラはドラゴン一家を見て困った顔で告げ、騎士達も肩を竦めていた。

 それでも無理だといった感じはしないのはプロだと言える。


「やっぱりドラゴンさんは強いんだなあ。僕は大きくなったらディランおじちゃんに鍛えてもらおうかな?」

「お、親父さんが良ければ構わんぞい」

「あんた、ホントに強くなったわね……」

「男の子はこれくらいがいいんじゃない? ねえヒューシ」

「はは、そうだな。ガルフと僕もよく決闘ごっこなんてしてたよ」

「そうなんだ! ヒューシさん、冷静っぽいのに!」


 ギルファは目を輝かせて話をする。強い、ということへ憧れが出てくる年かとギリアムは頷いていた。


「ではまた来るわい。ロクローがなにかしでかしたら声をかけてくれ」

「ああ、そうするよ。キマイラは俺も見たいし、連れてきてくれ」

「あいつが行くというならな」

「またねー!」

「あーい♪」


 ギルファはリヒトと握手を交わす。リヒトはぎゅっと握り返してにこっと笑っていた。

 そのままディランは変身をするとトワイトやヒューシ、ユリ達が乗り込む。


「またねユリ! あなたとはまた話したいわ!」

「ありがとうございますカーラ様!」

「モルゲンロートによろしくな!」

「ええ!」

「ぬいぐるみありがとう! 大事にするね!」

「あー♪」


 小さくなっていくギリアム達が見えなくなるまで手を振り、雲の上へ出る。


「先に王都へ行くか」

「ありがとうございます。ザミールさん、戻って来たかな」


 ヒューシとユリを送るためディランはクリニヒト王国へと向かうのだった。


「ぬいぐるみはもっと作りましょうね」

「あい!」

「わん!」

「大きさで値段を変えたらいいかも?」


 ぬいぐるみは好評だったため、トワイトはもう少し作ろうと考えていた。

 そして――


◆ ◇ ◆


「ロクローのジジイは出て行ったか」

「あ、は、はい! 少しずつですが年寄りは減らせています」

「そのようだな。結構だ」

「しかし、なんでまた年寄りを里から出す必要があるんだ……?」


 竜の里付近。

 そこでロクローに突っかかっていた若い竜が何者かと話していた。


「難しい話じゃない。食料問題なんかは話してやったろう? 俺の集落がそうなった。お前達の里も同じようにならないよう助言したまでだ」

「確かに……」

「まあ、ジジイどもはすぐ説教で気に入らねえし、ちょうどいい」

「そうだ。未来ある若者のために仕方なくやるのだ……フフ……」


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