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第159話 竜、他の年寄りに話す

「ふう、茶が美味いわい」

「そうだねえ。そういえばロクローさんが出て行ってしばらく経ったけど帰ってこないのかしらね」

「かもしれんな。いいところを見つけたらここにゃ戻ってくるまいて。……なあ、アビー。オレ達も出るか?」


 竜の里にて、度々名前が出てくるボルカノが縁側でお茶を飲みながら妻とおしゃべりをしていた。

 ディランが出ていき、ロクローも帰ってこないとなると話し相手が減ってしまい寂しいものだと口にする。


「そうねえ。あたしゃ構わないけど、出て行って大丈夫なものかしら? 若い連中だけでやっていけるとも思えないよ」

「それでもやっていくって言っているからなあ。腕っぷしで負けちゃいねえが、いちいち突っかかってくるのも面倒だ」

「なら適当な土地を探しにいくかい? 何百年ぶりかしら。トワイトちゃんとお話ししたいわねえ」


 真っ赤な髪を揺らしながらお茶をすするボルカノに、見事な金髪に褐色肌のアビーが答える。

 心配事は『若い者全員が年寄りを追い出したいわけではない』という点だった。

 ディランはあっさりと出て行ったが、納得のいかないロクローやボルカノ、その他の年寄り竜は喧々諤々しながら若い竜と話をしていたりする。

 結果、二割程度の若い竜は反対していることも分かっていた。しかし、多勢に無勢となり反対派も里を出るかどうかを検討しているらしい。


「ディランさんがあっさり出て行っちゃったから……」

「あいつが抵抗したら若いやつらなんざあっという間に八つ裂きだ。そうしないために出て行ったんだろうよ」

「まあ、若いのが五十人いても勝てないだろうしねえ。それじゃ、荷物をまとめて――」

「おおーい!  ボルカノはおるかー!」


 その内、里を出て行くかと決めた二人の家によく知った声が響き渡る。玄関へ回るとそこにはハバラを探しに出たロクローが立っていた。


「おお!? 帰って来たのかおめえさん」

「お帰りー」

「おう、ちょっと伝えたいことがあってな。年寄りを集めるのを手伝ってくれ」

「んー? なんだあ一体?」

「いいから家を回ってくれ!」


 興奮気味に話すロクローに気圧され、よく分からないまま知り合いの家を訪ねて回る。里は広いので区画の代表数人を集める形にしておいた。

 集会所にぞろぞろとなにごとかと、しかしワクワクしながら入っていく老竜たち。

 ひとまず揃ったところでロクローが一人の男に声をかけた。


「サルエイス、すまんが結界を張ってくれ」

「むお? 重要な話かよ? まあ構わんけど」


 サルエイスと呼ばれた男が手をかざす。するとフッと外の音がシャットダウンした。


「流石は封竜シールドラゴンのサルエイスじゃ」

「まだまだ若いもんには負けんぞ。それで里を飛び出したはずじゃが、どうしたロクロー?」

「うむ、実はのう――」


 ロクローは出先で起こったことを話しだした。

 ハバラを追うことでディラン一家を探し当てたこと。人間の国にある山で暮らしていること。自分もそことは違う国で住めるようになったなどをかいつまんで言う。

 

「ほえー、さすがディランさんじゃ」

「やるわねえ」

「あいつは昔から何でもできるからな。で、ロクローがしばらく大人しく過ごしていたらオレ達もどっかの山で暮らしてもいいってことになるのか?」

「うむ。もう何人かは山に住めるが、魔物や動物、植物なんかを狩りすぎると問題が出てくるから気を付けて欲しいと言っておったな。他の国にも打診すると言っておった」


 その場に居た他のドラゴンが感嘆の声を上げる。

 ボルカノが質問を投げかけて来たがロクローはさらりと決まっていることを答えていた。

 どういったドラゴンが居るか分からないので少しずつなら、とはモルゲンロートとギリアムの言葉である。


「まあオレ達、年寄りは暴れる意味がないのを知っているからな」

「そうねえ。ロクローさんがお酒を作るなら、アタシ達もなにか作って貢献すればいいんじゃないかねえ? 人間の国だとお金が居るんでしょ? 売って物を買えば魔物を大量に狩らなくていいさね」

「アビーの言う通りじゃ。……どちらにせよ、ロクローにかかっておるのか」

「なんでため息を吐くんじゃ!?」


 今後はロクロー次第ではあるが、新天地の目途が立ったということで一同は色めき立つ。人間のように商売を考える者も居れば、山で洞窟にでも居ればいいという者など様々だった。

 少なく見積もって里だけでも老ドラゴン(推定年齢五百歳以上)は百五十人程度居る、全員が同じ国に住むのは難しいだろうが条件はいいと喜んでいた。


「そういえばなんで音を消したんじゃ? 若い衆に話せば喜ぶじゃろ」

「いや、知られたら追い出しにかかるのが早くなるかもしれん。そこは人間の国の指針が決まるまで待つのじゃ。なのでこの計画は年寄りだけで共有を頼む。ある程度減れば若い連中も満足するかもしれんし、残る者も出てくる。万が一のため、わしやディランの居場所を知るものを一人は置いておきたいわい」

「あー」


 ロクローは鋭い目になり、人差し指を立ててそう口にする。なんだかんだで里になにかあった時に駆け付けておける状況は作りたいと言うのだ。


「わかった。ディランがクリニヒト王国、ロクローがロイヤード国だな?」

「そうじゃボルカノ。すまんが決まればまた連絡をしに帰ってくる。わしかディラン、どっちかじゃろう」

「はは、気長に待つよ。百年くらいかねえ」

「そりゃいくらなんでも長いじゃろ。人間は土に還ってしまうわい」


 アビーの言葉にロクローが肩を竦めて笑っていた。

 そんな調子で話が進み、ひとまずディランとロクローがどこに居るかが判明したのは大きいと老竜たちが喜ぶ。


「ウリンも帰ってくるいいのにねえ」

「……ふん、どこにいるか分からんからのう。もし戻って来たらロイヤード国に居るのを伝えておいてくれ」

「はいはい」

 

 数時間ほど話をして近況を伝え合った後、ロクローは再び里を出るため、今度こそ家の荷物を全部持って里の出口を目指す。


「よう、ロクロー爺さん。出て行く決心がついたのか」

「ふん。お前達のように話の通じんところに居ても仕方がないからのう」

「どうせもう役に立たないんだ。人間に狩られて素材にでもなったらどうだ?」

「わしは……わしらはそんなに――」


 出口付近でロクローを見てニヤニヤと笑いながら、三人の若い衆が声をかけてきた。

 軽くあしらおうとしたが、ロクローや年寄りを役立たず呼ばわりしたところで彼は目をカッと見開き、二人の若い男の首を掴んで持ち上げる。


「――ヤワではないぞ?」

「う、お……」

「くっ……!?」

「お、おい……!」

「ふん」

「「ぐあ!?」」


 ロクローの腕をまったく外せない二人が慌てていた。ロクローはそんなドラゴン達に呆れた目を向けて放り投げた。


「ま、油断せんことじゃな。年寄り一人にその体たらくじゃ、なにかに襲われた時に心配じゃわい」

「……チッ」

「じゃあの。せいぜい元気でやってくれ」


 ロクローはふんと鼻を鳴らした後、振り向かずに片手を上げて振りながら去って行くのだった。

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