第158話 竜、顔を合わせて色々決める
「ようこそロイヤード国へ。俺は国王のギリアムだ。あんたがロクローさんか?」
「ギリアムの娘でカーラと言います」
「ギルファです!」
「わしがアースドラゴンのロクローじゃ。初めましてじゃな」
ディランも人間の姿になり着陸地点に備え付けられたタープの下でテーブルを囲む。
そこでメインとなるギリアム一家とロクローが挨拶を交わしていた。
「お爺さんだと聞いていましたけど、ディランさんと一緒でお若いですね」
「そうかい? まあわしらのジジイと人間のジジイじゃ違うからのう」
「ロクローさんもドラゴンなんだよね? 後で見たいなあ! ディランさんもかっこよかったよね!」
「おお、変身していいならええぞ」
「そういえばこっちじゃ変身したこと無かったか」
ギルファが目を輝かせてロクローに言う。
そういえばディランもドラゴン姿を見せたのは初めてかと口にしていると、ギリアムが話し出した。
「それは後だギルファ。というわけでロクローさんが住処を探していることは聞いている。で、モルゲンロートがウチに頼めないかということで、それを許可した」
「ありがたいことじゃ。それで、わしはどうすればいい?」
「基本的にどこに住んでもらってもいいんだが、移動する場合は俺たちに分かるようにして欲しい。居場所は掴ませてくれ」
「そこの都でもいいのかのう?」
「え? 意外」
「確かに……」
ギリアムの提示したお願いの一つが住処だった。どこでもいいが、居場所を変えた場合それは通達して欲しいという。
すると王都でもいいのかとロクローが言い、ユリとカーラが目を丸くしていた。
ディランとトワイトは迷惑にならないようにと山に住んでいるが、ロクローは人間を気にしていないからだった。
「別にいいぜ? ただ、オススメはしねえ」
「お、そうなのか? どうしてじゃ?」
「……聞きたいか?」
ギリアムが神妙な顔でオススメはしないと口にする。ロクローも興味深いとばかりに聞き返す。
「アースドラゴンのロクローってのが知られたら恐らく家に色んな奴が押し寄せてくる。まあ始めだけだろうが、のんびり暮らしたいと考えているなら止めた方がいいってこったな」
「あー、確かにそれはありそう! わたしだったら通うかも」
「僕も行くと思う!」
「ほらな」
「そのようじゃの」
ギリアムがくっくと笑い、ロクローもニヤリと笑みを浮かべる。
ロクローさえ良ければとは言うが、余計なトラブルになりやすいとも暗に言っているのだ。
「では、あの山にしようかの。割と近いから様子見に来るのも簡単じゃろ」
「オッケーだ。ホイット山だな。あそこはまあまあ魔物も居るがドラゴンなら大丈夫だろう。こいつらみたいなのも居るぞ」
「わほぉん……」
「わん?」
「ま、近づいて来んじゃろうな。こっちから狩りに行かねばいかん。まあ、畑も作るつもりじゃけど」
ひとまず住処を決定。
続いてギリアムは今、話に上がった件について質問を重ねた。
「畑ってことは食い物とかもディラン殿と同じでいいのか? 金は……持ってないか」
「そうじゃな。米を分けてもらいに行くやもしれん」
「そりゃ構わんが、タダではやらんぞ」
「チッ、仕方ないのう」
「うふふ、ロクローさんも得意のお酒で稼ぐといいかもしれませんね。私もユリちゃんが言ってくれたからぬいぐるみを作ろうかと思ってるの」
食べ物は自給自足でやるとロクローは返し、ディランは呆れた顔で肩を竦めていた。
そこでトワイトが飛んでいる間、即興で作ったヤクトぬいぐるみをテーブルに出す。
「あーい♪」
「わ! 可愛い!」
「えー、これ欲しいよー」
優しそうな顔立ちをしたヤクトと分かるコミカルなぬいぐるみはすぐにリヒトが撫で、カーラとギルファが反応していた。
特にヤクトが大好きなギルファは即欲しいと口にする。
「これはギルファ君にあげるわ♪ ヤクトが好きだものね。リヒトにはまた作ってあげるから」
「あい!」
「……! わあ! ありがとうトワイトお母さん!」
「うぉふ!」
作ったぬいぐるみはギルファに渡され、彼は大喜びで抱きしめた。
ギリアムは苦笑しながら続ける。
「後はなにがあるかねえ。ドラゴンの姿で過ごすかどうかくらいか」
「わしはこの姿じゃ。ディランと同じじゃな。暴れることもせんが、戦いにならんよう注意してくれると助かるわい。つい先日、冒険者がディランにつっかかったらしいからのう」
「へえ、そりゃ初耳だ。命知らずだぜ」
「……お父さんも倒しに行ったじゃない」
カーラに突っ込まれるとギリアムは口笛を吹いてそっぽを向いた。娘に呆れられている中、ギリアムは誤魔化すように言う。
「そこは任せてくれていいぜ。むしろ変なのが来たら適当に蹴散らして報告をしてくれたらなんとかする。見せしめもいいな」
「普通に過ごしているところに攻撃するなんてダメだよね!」
ディランに突っかかて来た冒険者の話にギルファが憤慨していた。トワイトを含めてみんな優しいのでどうしてそんなことをするのかと。
「まあ、後はお互い困ったら話し合いをしようぜ」
「そうしよう。小屋は……ディランに手伝ってもらうか」
「すぐワシじゃのう……まあ暇だからええけど」
「ディランさん、呆れているのに手伝うの優しいですよね」
「ウチのお父さんはいつも優しいわよねリヒト」
「あい♪」
「むう」
なんだかんだと協力するディランにヒューシが微笑む。トワイトもリヒトの手を取ってディランの肩に当てると、リヒトはにこーっと笑っていた。
「それじゃとりあえず話がこれで終わりならわしは里へ一度戻るわい。皆に話をせねばいかんからな」
「ああ、そうなのか」
「ボルカノ達によろしくな。少ししたら尋ねてくるとええと伝えてくれ」
「おう! 場所が分かったからもう大丈夫じゃろう。ではギリアム殿、また頼むわい」
「おお!!」
「あー♪」
そう言ってロクローは少し離れたところに行き、ドラゴンの姿に変化した。
ギルファはやはり大喜びで、リヒトも手を上げて声を上げていた。
そのまま地面へ沈んでいき、あっという間に姿を消す。
「凄い……」
「飛べない代わりにああいうことができるんだ……」
「あれ、便利なんじゃよ。さて、これで話が終わりかのう」
「だな。折角来たんだし、飯でも食っていってくれ。ギルファとカーラも話しがしたいだろうし」
「お言葉に甘えるかのう」
「ええ♪」
「ぬいぐるみ、作ってください!」
ひとまず話し合いが終わり、一家はホッとしていた。このまま増え続ける可能性はあるが、それでも居場所があるのは助かるとディランとトワイトは考えていた。
「そういえば木材の話もせねばな」
「ん? そりゃなんだい?」
「実はのう――」
続けてディランはウィズエルフ達の話をするのだった。




