第156話 竜、ひとまず泣き止む
「お気をつけてー」
話し合いはそれほど長くかからず、一時間ほどで終えた。
肝となるのは生活場所はどういったところがいいか、食べ物はなにがいいか? 家屋は? 姿はどっちで過ごすか? そういった話とディラン達をロイヤード国へ招待し、顔合わせをしたいという申し出があったことなどだ。
「わしはいつでもええぞ」
「ワシらもじゃな」
「ええ」
「あー♪」
「うー♪」
と、いうことでロクローの意見を聞いた後、打ち合わせの時期はいつでもいいとドラゴン達は返していた。そして今、バーリオ達が帰っていくところである。
「さて、それじゃ次は俺たちだけど……」
「ふふ、リコットちゃんはまだまだ元気ね」
「きゃーい?」
「あー?」
「とりあえず遊ばせて寝かせるのが一番じゃろうか。うーむ、リヒトに懐いておるから可哀想な気もするがのう」
「今はまだなにも分からないですけど、泣いたらなんとかなるという意識がついたらよくありませんよ、あなた」
「むう」
リヒトは物分かりがよく、あまり泣かないので気づいていないがトワイトは泣けばいいという状況を覚え込ませないためにもこれは必要だと言う。
ディランは納得しつつも目をぱちくりさせるリコットに目を向けて口をへの字にする。
「あーう?」
「リヒトはみんなが居るけど、例えばひよこ達が近くに居なくてもそれほど気にしないでしょう?」
「まだええんじゃないか?」
まだ0歳の子に厳しいとディランは返すも、思い返せばハバラもトーニャもそういう風に育てていたなと思い返す。
「リコットちゃんには申し訳ないけど、リヒトもずっと一緒に居れるわけじゃないから」
「そうですね。お家は分けないと、リヒト君が居ないだけで生活が出来なくなると困りますものね」
「仕方ないのう」
「きゃーう♪」
ディランは仕方ないとリコットを撫でると、トワイトは言う。
「やっぱりまずは両親大好きにならないと! ハバラ、頑張るのよ?」
「ああ、そのつもりだよ」
「ウチの子ならいいんだけどねえ」
アッシュウルフ達やひよこ達も構わせすぎると寂しがる可能性があるからトワイトは気にしていたりする。
でも動物までダメとなるとそれはそれで我慢させすぎることになるため、塩梅が難しいという。
リヒトはトワイト達が育てているため、甘やかすのと厳しくするさじ加減はできるが、やはり別家庭には同じことができないである。
「とりあえずハバラとソレイユさんで遊戯室を使って遊ばせてやるとええか。お主達もな」
「「「わふ」」」
「「「ぴよー」」」
「こけ」
「あーい!」
ディランは寝かしつけるまで遊んでおけと告げ、ペット達とリヒトも返事をする。
エルフの森は東の大きな森にあるらしいので、荷物運びが終わるまで忙しくなるであろうとのこと。
「なら私もご飯を作るまで遊んでおこうかしら」
「結局、お前も遊ぶんじゃないか……」
「可愛い孫ですもの♪」
ディランは腑に落ちないものを感じつつ、ロクローに肩をバシバシ叩かれていた。
そのままディランとロクローは再び釣りへ向かい、その他は遊戯室へと行った。
「あーい!」
「うー……!」
「リヒト君、動きますね……」
「この前、勝手に外に出て困ったくらいなの。リコットちゃんもすぐハイハイをするようになるわよ」
そんな遊戯室ではリヒトがリコットにでんでん太鼓で構っていたと思えば、ヤクトやルミナスを掴まえて積み木を拾いに行くなどして思う通りに遊ぶ。
リコットはペット達と遊ぶリヒトがこっちへ来ないため不満を漏らしていた。
「ぴよ」
「ぴー」
「きゃー♪」
しかし、トコトとソオンがリコットの肩に乗って頬ずりをするなどして気を引いていた。意外と気を遣うペット達であった。
「パパと遊ぼうなー」
「うー」
「なんで唸るんだ……!?」
そんな中、ハバラが頬ずりをするとリコットは口を尖らせていた。
パパは好きだが、可愛いモノに囲まれ、優先順位が低くなってしまったらしい。
そして――
「すぴー」
「あら」
「遊び疲れちゃったみたいです」
――それから二時間ほどでリコットは寝息を立て始めた。
「それじゃ、そろそろ自宅へ帰ろう。父さんにも挨拶をしに行こうか」
「ええ。それじゃ庭へ行きましょう」
「私も行くわね。みんな、いらっしゃい」
「あうー?」
トワイトがリヒトを抱っこし、ペット達へ声をかけていた。そのまま全員でディランの下へ向かった。
「父さん、そろそろ帰るよ」
「む、リコットは眠ったかのう」
「ええ、お義父様」
「すぴー」
「よう眠っておるわい」
ディランはぐっすりと眠るリコットに微笑む。そこでロクローが竿を肩に担いで言う。
「また来るのじゃろう?」
「ええ。ひとまずモルゲンロート殿にお礼を言わないといけませんしね。ロクローさんは顔合わせでミスしないでくださいよ? 俺たちのためにも」
「ふん、お前の息子は生意気じゃわい」
「お前の息子は帰って来んくせに」
「なんじゃと?」
「やるか?」
ハバラに苦笑されたロクローはディランにジト目を向けた。ディランもロクローへしれっとそんなことを言い、お互い目を細めてにらみ合う。
「はいはい、止めてくださいよ子供の前で。それじゃあソレイユさん、これを」
「あ、可愛い」
「あー♪」
そこでトワイトが作成したぬいぐるみをソレイユへ渡す。それを見た彼女は顔をほころばせた。
コミカルに作られているが、リヒトと言われたらすぐにそうだろうと思うくらい特徴があった。
「これなら大丈夫だと思います!」
「さすが母さん、ドラゴンでも屈指の手先が器用な方なだけあるよ」
「うふふ、またねハバラ」
そう言ってハバラ達一家は空高く舞い上がり、自宅へと帰っていく。
バーリオとの話をしている時、なるべく見つからないくらい高いところで飛ぶという約束をしているため人間には見つかりにくい。
「ふう……色々あったけど、ソレイユが治って良かった」
「ええ、ありがとうハバラ。私の為にみんな頑張ってくれて……感謝しかないわ」
「ま、父さん達が子供を拾っていて、リコットが懐くとは思わなかったけどな」
「赤ちゃん同士ですもの。いつか大きくなったらどうなるのか、私は楽しみよ?」
「まだ早いよ……」
そんな話をしながら空を飛び、あっという間にエルフの森にある自宅へ到着する。
そこでリコットがぱちりと目を開けた。
「うー……?」
「あら、おはようリコット♪」
「きゃーう♪」
「起きたのか。パパだよー」
「きゃい!」
両親に笑いかけたあと、リコットは頭を動かそうとする。しかし、そこは先ほどまでと違うところだと気づいた。
「うー?」
「おうちに帰って来たのよ。みんなはもう居ないの」
「ふえ……あああああああぁぁ!」
「早いな……」
見知った自宅だと気づくとすぐに涙を浮かべる。泣き始めたところで、ソレイユが例のぬいぐるみを取り出してリコットに持たせる。
「ほら、リヒト君のぬいぐるみよ。しばらく会えないけど、これで我慢しましょうね」
「ふあ……きゃーい♪」
「お、泣き止んだ」
「効果ありね。ありがとうございますお義母様」
そしてずっと握ったまま離さず、リコットはひとまずご機嫌だったとさ。




