第155話 竜、決定が下る
「ほっほっほ、まだまだじゃな」
「うぉふ……!!」
「わんわん!!」
「わほぉん……!」
さらに数日が経過した。
庭でロクローがアッシュウルフ達と一緒にじゃれ合っていたりする。
ダル達は本気で飛び掛かっているがロクローはあっさりと回避したり、抱き止めて撫でまわしたりしていた。
まったく歯が立たず三頭はここで特訓をするつもりでいた。
「あーい♪」
「きゃーう♪」
「ぴよぴー♪」
「うーん、元気だな」
そしてそれをリヒトとリコットが手を叩いて見ていた。ぬいぐるみは完成しているため、その内ハバラ達が家へ帰ることになる。
しかし、リコットがリヒトの横で眠っていることにより、彼女はスッキリ目が覚めているため眠ってから運び出すことが出来ずにいた。
産まれてそれほど経過していないリコットにとって、狼、ひよこ、リヒトとの生活は楽しすぎるのである。
膝に座るリコットの頭に手を置いてからハバラは苦笑していた。
「うふふ、機会があればいいんじゃない? ウチはいつまでいても構わないし」
「母さん達はいいだろうけど、人間の王様が困るんじゃないか?」
「できれば近くには住みたいですね。昨晩も楽しかったですし」
昨晩はディランとロクロー、そしてハバラはお酒を飲みながら談笑して過ごしていた。夫が楽しそうにしているのを見ていたソレイユも顔がほころんでいた。
「モルゲンロート殿次第じゃがな」
「こけー」
「ぴよー」
「みんな一緒が好きだものね……あら?」
ディランの膝に乗るジェニファーとトコトも『それがいい』と声を上げていた。
そこで坂を上ってくる気配があり、トワイトがそちらに目を向けた。
「おお、皆さんお揃いで!」
「バーリオさんじゃありませんか。ということは色々と決まったのですか?」
「おお、他の騎士もおるな。ご苦労じゃったのう」
「いえ重要な事柄なので構いませんよ」
バーリオと共にやってきた騎士達もいてディランの言葉に手を振りながら気にしないでいいと口にしていた。
「ロクロー、お主に関わることじゃこちらへ来い」
「ん、おお、話し合いか」
「「「わふ……」」」
ディランはアッシュウルフ達とじゃれていたロクローを呼んだ。
彼はアッシュウルフ達をいなしてからディランの下へと向かった。
ダル達はこれだという攻撃をロクローに与えることができずがっくりと頭を落としてついてきた。
「たまの運動もいいもんじゃ。里に居るよりいいかもしれんのう本当に」
「それで困るのは人間じゃからなんとも言えんわい。それで?」
「結論から言うと、ロクロー殿はこの国に住んでもらうのは見送りになりました」
「なんと」
「やはり集中するのは良くないと?」
「あーう?」
質問をするとバーリオは神妙な顔でロクローをこの国に置くわけにはいかないということになった。
ハバラが聞き返すと、バーリオは話を続ける。
「少なくとも『今のところ』はそういう結論です。緊急なので各国との折り合いがついていない状況なので……」
「なるほどのう。ではロクローは里へ戻ることになるか」
「ええー? せっかく楽しんでおったのに……」
ディランが珍しく意地悪く言うと、ロクローは心底残念だという顔をしていた。
しかし――
「お待ちくだされ。話にはまだ続きがありましてな、ロクロー殿はロイヤード国で住んで頂くことになりました」
「なに? ギリアム殿が許可したのか?」
「まあ」
「ええ――」
バーリオの説明はこうだった――
◆ ◇ ◆
「陛下、書状が」
「お、なんだ? ……ったく、相変わらずよくわからねえな」
「どうしたのお父さん?」
「なにかあったの?」
ロイヤード国はギリアムの執務室に書状が届いたと連絡があった。部屋には娘のカーラと息子のギルファも居た。
苦笑している父に、姉弟で顔を見合わせてから声をかけると、書状を読んでみるかと差し出した。
「えー、ディランさんのお友達が里を出たんだ。それで住むところを探していると」
「それってどうなるの?」
「あー、そのロクローって爺さん……見た目はおっさんらしいが、ロイヤード国で住まわせてもらえないかとさ」
「え! じゃあドラゴンさんが来るの!」
カーラの疑問をギリアムが説明した。するとギルファが目を輝かせていいことだと喜ぶ。
「まあディラン殿の友人らしいし俺は別にいいかと思ってる。家臣達に一度話してから意見を募ろうぜ」
「困っているみたいだしね。お世話になったし、一人くらいならいいんじゃないかな?」
「うんうん!」
――それからロイヤード国では家臣との話し合いから町の調査をすること数日かけると『クリニヒト王国がすでに住まわせているならいいのでは?』という結論になった。
◆ ◇ ◆
「――というわけでして」
「ならわしは隣の国に住めばいいのじゃな!」
「行き来は人間の姿なら好きにできますし、悪くないかと。準備が出来たら我々と一緒にロイヤード国へ行っていただければ」
「もちろんじゃ! ひとまず一度里に戻って準備をするわい。ハバラはどうなんじゃ?」
「彼ら一家は北の山であれば住んで頂いて構わないことを決定しております」
ロクローはロイヤード国へ住めることが決定し大喜びだ。
さらにハバラもクリニヒト王国にて住めることが決まっていた。一家は小さい子もいるから実家が近い方がいいということのようだ。
「ありがたいのう。また米を贈らせてもらおうかの」
「そうと決まれば里に帰ってボルカノ達にも伝えねばな」
「ああ、そうでした。他のドラゴン殿についてはまだ考えていることがあります。それまで少し待っていただく形になりますが……」
「まあ、他にも受け入れてくれるんですか?」
トワイトがそういうとバーリオは微笑みながら頷いた。
そのためにはロイヤード国でロクローがディラン達のように過ごせることが条件となるのだと。
やはり人間の力では止めるのが難しいので、暴れないことが保証できればと言う。
「大人しく生活ができればボルカノ達も来れるというわけか。なんじゃロクローは責任重大じゃないか」
「むう、暴れなければええんじゃろ? 問題ないわい」
「次になにをするのか分かりませんけど、モルゲンロートさんには頭が上がりませんね」
「我々も助かっていますからね。それでは細かい話をしましょうか」
騎士達も交えて注意事項、ギリアム達との会談といったことを経て住む場所を決めるという。
「しかしよく受け入れてくれたのう」
「はは、ギルファ王子がドラゴンが来ると喜んでおりましてな。ギリアム様はディラン殿の友人なら大丈夫だろうと気にしていないようで」
「そしてロイヤード国自体、ギリアム様の破天荒な感じは知っているので、まあいいかもとのことでした」
「国も色々じゃな。里もその一つじゃし、話し合いは大切じゃ」
ディランはしみじみと呟きながら話が前向きになって良かったと頷くのだった。




