第154話 竜、決まるまで適当に過ごす
「あーう?」
「気になるかしら? 少し余っているからあげるわね。食べたらメッね?」
「あー♪」
「きゃーい♪」
「ぴよー♪」
村へ行った翌日。
キレイに洗って乾かした羊毛を回収してきたトワイトが遊戯室に座ると、ソレイユに抱っこされているリコットと遊んでいたリヒトがハイハイでやってきた。
昨日乗っていた羊の毛だから気になるのかもしれない。トワイトが注意を食べたらダメというジェスチャーをしながら毛玉を渡すと、その場に座ってリコットへ毛玉を振っていた。
リコットも機嫌がよく、彼女にくっついているひよこ達も楽し気に鳴いていた。
「あーい」
「わほぉん」
お座りをした状態でリヒトが声を上げると、ダルが顔を上げててくてくとやってきた。
リヒトは毛玉を持ったままハイハイができないと思い、掴まり立ちに切り替えたようだ。
「リヒト君、まだ一歳になっていないんですよね?」
「ええ、多分そうね。拾った時には首もすわっていなかったし」
「そう考えると歩けるようになったのが早い気もしますね」
右手に毛玉、左手でダルの毛を掴んでからゆっくりとリコットのところへ戻るリヒト。到着すると掴んでいた部分を優しく撫でてから、ぺたんと床に座った。
「わほ……」
「あー♪」
ダルはそのまま大あくびをしながらその場に寝そべり、背もたれになり大きな口を見てリヒトが真似をする。
「あーい♪」
「きゃー♪」
「ぴーよー」
リヒトはそのまま毛玉をリコットへ放り投げ、それをリコットが弾くという遊びを始める。
フワフワした毛が落ちそうになるとひよこ達が下からジャンプして毛玉を浮かせていた。
「ふふ、楽しそう。良かったわねお兄ちゃんが遊んでくれて」
「きゃーう♪」
「リヒトは元気がいいから、退屈しないかもしれないわね」
ソレイユが大喜びで毛玉を返すリコットの青い髪を撫でて微笑む。そこで自分の作業に入ったトワイトがにっこりと笑いながらリヒト達を見て言う。
アッシュウルフ達やひよこ、ジェニファーも遊び相手になるが、同じ赤ちゃん同士というのはまた違うのかもしれない。
「いい布をもらったから捗るわね。今日中に出来そうだわ」
「あ、速いですね! そういえばハバラ達はお外ですか?」
「ええ。畑仕事が終わって、今は釣りをしているみたいよ。ヤクトやルミナスもお外にいるわ」
「あーう!」
「わほぉん?」
リヒトが思いついたように毛玉を手に取り、ダルのお腹をポンポンと叩く。よく分からないが立ち上がろうとするダルに、リヒトはひょいと背中に抱き着いた。
そのままダルが立ち上がると、リヒトが背中にくっついたような形になった。
「きゃーう♪」
「あら、凄いわ」
その様子にリコットが喜び、ソレイユが目を丸くして驚いていた。さらにリヒトはお腹を撫でていた。
「わほぉん……」
「あーう?」
「リヒトが落ちそうだから動かないのね。ソレイユさん、申し訳ないのだけどリヒトを連れてお外に行ってもらえるかしら?」
「もちろんいいですよ! リヒト君、おいで」
「あーう? ……あい!」
「お父さんによろしくね♪」
ソレイユがリヒトに手を出すと、うまい具合に肩に抱き着いていた。両手に赤ちゃんを抱えて立ち上がり、玄関へと向かう。
「わほぉん」
「「「ぴよー」」」
「わほぉん……」
「行ってらっしゃい♪」
ダルが伸びをしていると、ひよこ達が背に乗り、着いていくように背中をつついていた。仕方なくとぼとぼとリヒトの後を追い玄関を出て行く。
「こけ……!」
「そいやぁ!」
「川の方から声が聞こえて来たわ」
「あーい」
「きゃう」
ソレイユが外にでると早速ジェニファーとディランの声が聞こえて来た。
赤ちゃん二人が声を上げる中、ソレイユが川の方へと向かって行く。
「あなた」
「ん? おお、ソレイユ! どうしたんだい?」
「リヒト君がお外に行きたそうだったから連れて来たの。あなたも釣っているの?」
「いや、俺は見ているだけだよ。父さんとロクローさんが対決をしていてさ」
「ぬう、でかいのう……ディランには負けられん……!」
ソレイユが立っていたハバラに声をかけると妻と娘、そしてリヒトを見つけて顔を綻ばせていた。釣りはしていないらしくリコットを預かって抱っこする。
「きゃ~♪」
「パパだよー! ふふ、ソレイユが元気になってやっときちんと暮らせるなあ」
「ええ。でもリヒト君と離れたらしばらくは泣くかも」
「あーい?」
「リヒト君は大丈夫そうだよなあ」
「愛想もいいし、この子も可愛いわ♪」
ソレイユが微笑むと、リヒトはソレイユの頬を撫でる。すると機嫌の良かったリコットが頬を膨らませて手を振る。
「うーあ!」
「ん? どうしたんだ?」
「リヒト君に自分も構えって言っているのかも……?」
「ふぐ……あああぁぁぁ……!」
瞬間、リコットが目に涙を溜めて泣き出した。あまり大きな声ではないがぐずりだした。
「おや、どうしたのじゃ?」
「ああ、父さん。ちょっとリコットがぐずったんだ。大丈夫だよ」
孫が泣いているのを聞きつけてディランが声をかけてきた。あやしながら説明をしていると、ソレイユが口を開く。
「あなたあれをやってあげたら? 私が体調を崩す前に見せていた変身姿」
「お、おお……そうか。じゃあまたリコットを頼むよ」
「ええ♪」
「ほら、パパの変身だぞー」
そういった瞬間、ハバラはドラゴンへと変身し、すぐに三つ首竜となる。それを見ていたリヒトが目を輝かせていた。
「あー♪」
「きゃーう♪」
「ほら、泣き止んだわ」
『複雑だけど……』
『怖がられるよりはいいのかねえ』
『しばらくこの姿でいるか』
「きゃっきゃ♪」
それぞれの首が言葉を喋り、その様子がいいのかリコットがはしゃいでいた。
「あーい♪」
「リヒト君も気に入っているみたい」
『それはなによりだな』
ハバラの首の一つがうんうんと頷きながら目を細める。少し長い首が怖い印象を醸し出すが、赤ちゃん二人は動く首が楽しそうだった。
するとその様子を見ていたルミナスとヤクトが動き出す。
「わん!」
「うぉふ!」
「あー?」
いつものペット達の鳴き声が聞こえてリヒトが下を見ると、少し離れていたところに立っていたダルのところへ行く。
「ぴよー?」
「「わふ」」
二頭は背中に乗っていたひよこ達を前足でそっと挟んで降ろしていく。よく分からないと首を傾げるひよことダルに、きらーんと目を光らせたルミナスとヤクトがダルに重なった。
「わほぉん……!?」
「わんわん♪」
「うぉふ♪」
「お、そういうことか」
ダルがぺしゃんこになった。
そしてダルの頭の左右にルミナスとヤクトの頭が来て、三つの頭があるように見えていた。ハバラがなるほどと口にすると、リヒトが両手を上げていた。
「あーい♪」
「ふふ、可愛い♪」
「きゃーい♪」
ソレイユとリコットも微笑む。そこでディランが腕を組んだ状態で口を開いた。
「ふむ。あれじゃな、ケルベロスじゃったか? あれに似ておるのう」
「おー、三つの頭の魔物がおったな。確かに」
「わほぉん……」
ディランとロクローがそんな話をしている中、ダルは切ない声で助けを求めるのだった。




