第147話 竜、販路を確保する?
「お、来たか」
「話は終わったぞい。すまんなロクロー」
「なに、わしとお前の仲じゃ。それにこれが終わらにゃこっちの話もしにくいしのう」
「あー♪」
ネクターリンの群生地へと戻ったディラン達は地面から頭だけ出しているドラゴン・ロクローを発見した。
ディランが片手を上げて話しかけるとレイカから返してもらったリヒトも真似をする。
「うー♪」
「リコットちゃんも真似してる。可愛い♪」
とりあえずリヒトが近くに居るのでハバラの抱っこしているリコットの機嫌もいい。今のところユリとハバラ、ディランとリヒト以外が近づくと泣くのでレイカが遠巻きにほっこりしていた。
そんな会話の中、ユリが周囲を見渡して声を上げる。
「あれ、ネクターリンの木は?」
「幹はほぼダメになっておったから根元と種だけ残して伐採した。あそこにあるぞ」
「おお、この短時間で……さすがドラゴンですね」
「ふっふっふ、眼鏡の坊主よ、分かっておるな」
彼の示唆した場所には積まれた大量の材木があり、ヒューシが眼鏡の位置を直しながら感嘆の声を上げる。ロクローは地面から突き出した頭を頷かせていた。
「さっき一本持って帰ったが皮を剥げば使えそうじゃったぞ。ウチのは芽になってしまったが」
「そうじゃな。ネクターリンの木で家でも作ったらどうじゃ? 長持ちするぞ」
「そうですね。ウィズエルフの家は元々少しずつネクターリンの木で造っているためウィズエルフは大丈夫です。薪にするにも多いですし……どうしましょうか……」
削って薪にするにしても相当数があるためウィズエルフも持て余すであろうとのこと。しかし、このまま放置して腐らせるのも勿体ないという。
「竜神様が必要なら持って行ってもらっても構いませんが……」
「ふむ。ならこいつを売るのはどうじゃ?」
「売る?」
「うむ。ワシには人間の商人に知り合いがおる。もしくは国王に相談すれば買い取ってくれるかもしれん」
「なるほど……ザミールさんか陛下なら買ってくれるかも? 珍しいし」
『家具に使いたいとか言うかもしれないね』
「それはありがたいが……人間の金銭は使わないから物々交換の方がいいかもしれない」
「確かにそうかもしれない。竜の里も物々交換か自前だったし」
買い取りを提案したディランにレイカとリーナが頷いていた。しかし、ウィズエルフのお年寄りがお金は使い道がないという。
ハバラも竜の里やソレイユの居たエルフの集落もそういう感じだったと語る。
「食料とか衣類でどうかしら?」
「食料は助かるな。服はどうかな。我々が気に入るものがあればというところだな」
「ならザミールさんを連れてくればいいんじゃねえか? 商売ならどこにでもいくし」
「そうじゃな」
「ザミールさんはそんな便利な人ってわけじゃないぞ……」
目録があればいいかも、などとガルフやレイカ達とウィズエルフがまだ決まっていない交換話に花を咲かせていた。
「とりあえず数日中には戻ってくるからそのまま布でも被せておいて欲しいわい」
「任せてください竜神様!」
「よろしく頼む。再三で悪いが、暴れるでないぞ?」
【約束ハ守る】
「あーい♪」
「うーい♪」
ディランがドラゴンに変化して後を頼むとエメリへ言う。ヴェノム・キマイラのデランザにももう一度だけ注意をしておいた。
特に問題ないと鼻を鳴らすデランザの一番下にある髭をリヒトとリコットがびよびよんと引っ張っていた。
【こラ! 両方かラ髭をひっぱルな!】
「高さ的に掴みやすいもんねー」
ユリがそんなことを言いながら顎を撫でていた。デランザは目を細めてからため息を吐く。
【お前モ顎を撫でルんじゃナイ……人間、怖いナ……】
「わほぉん」
「わん」
「うぉふ」
【おウ!?】
デランザが項垂れていると、アッシュウルフ達が前足で顔をタッチしていき、ディランの背中へ飛び乗った。頑張れと言いたいようである。
「ネクターリンの木はその内に復活すると思うが、世話はしてやってくれや」
「わかりましたアースドラゴン様!」
「では行くぞ」
「またねーエメリさん!」
「あーい!」
「うーい!」
「ああ、お前達なら歓迎するぞ!」
ディランが少しずつ浮いていき、ユリやリヒトがウィズエルフ達に手を振っていた。エメリも人間に慣れたのか歓迎すると口にして手を振っていた。
【またナ】
「俺達は簡単に来れないから次があるかわからねえけど……またな!」
デランザも見上げて鼻を鳴らしていた。こちらはガルフが挨拶を交わしていた。
その内、挨拶は済ませたかと判断したディランが一気に上昇し、自宅へと飛んでいく。
「いやあ、久しぶりに里の外に出たと思ったらいきなり仕事とはのう! ディランはドラゴン使いが荒いわい」
「ふん。その話がまだじゃったな。ハバラを追って来たらしいが里になにかあったのか?」
「まあまあ、後でええじゃろ。こいつを飲みながら、な?」
ディランがロクローが自宅へやってきた経緯を尋ねると、彼は頭のところまで歩いていき、酒瓶を見せた。
「仕方あるまい。ひとまずガルフ達を届けねばな。ハバラも今後どうするか聞いておきたい」
「そうだね。トーニャが居るなら俺達もこの国に住まわせてもらいたいところだけど……」
「リコットちゃん含めて、なにかあった時、家族がいると助かるものね」
「そうだな。陛下がなんというかだが……」
「ザミールさんも探さないとな」
「またびっくりするわよあの人……」
そんな話をしているとあっという間にキリマール山へ帰還した。そして庭へ降り立つと、トワイトにトーニャ。それとソレイユが出迎えてくれた。
「……! ソレイユ、もう大丈夫なのか!?」
「きゃー♪」
「ハバラ、リコット! ごめんなさい、もう大丈夫よ。お義母様とトーニャさんに話は聞いたわ。みなさん、ありがとうございます」
「きゃーう!」
「ああ、リコット……また抱っこ出来て良かった……」
ハバラがディランの背中から飛び降りてソレイユの下へ駆けつけた。
おっとりした感じのあるソレイユがその場にいた全員にお礼を述べ、喜ぶリコットを抱きしめていた。
「良かったわねえ」
「だな。俺達、なんもしてねえけど」
『わたしが頑張ったからパーティとしてなにかしたってことでいいじゃない!』
「はは、そうだな」
「はい、リヒト君をお返ししますね!」
「あらあら、ありがとうね」
「あーう」
ガルフ達がそんな話をしていると、ディランも人の姿になっていく。
ユリがトワイトにリヒトを返すと、リヒトはリコットの方をじっと見ていた。
リコットはソレイユに抱っこされて頬ずりをされていた。
そしてリヒトはすぐにトワイトに向き直り顔を摺り寄せる。
「あーい♪」
「うふふ、どうしたの? 今日は甘えん坊さんね♪」
「リコットちゃんが羨ましかったのかしら?」
「あい!」
「ん? 今度はお父さん? ダル達も?」
「ワシもか?」
「わほぉん」
「こけー」
「ぴよっ!」
そのままトワイトからディランに移り、最後はアッシュウルフ達とひよこ、ジェニファーに抱き着いてもみくちゃになっていた。
「あー♪」




