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第146話 竜、仲間にする

【わ、我ノ負けだ……二回もしにたくハない……】

「では、これで戦いは終わりじゃ」


 ヴェノム・キマイラは項垂れて大人しく負けを認めた。ディランが人の姿になってからそう告げることで今回の戦いは終了となる。


「「「わふ!」」」

【や、やめロ!?】

「これ、やめるのじゃ」

「あーう」

「わん」


 リヒトを攻撃した相手に手ぬるいと、アッシュウルフ達は獅子とヤギと蛇の頭を前足でべちべちと叩いていた。

 ディランが一頭ずつ抱え、リヒトが声を上げると大人しくなる。


「なんじゃ、わしの出番はないのか」

「土壌をなんとかしてくれんか? それがロクローの仕事じゃて」

「ふむ。ネクターリンの実は美味しいからのう。ならそっちに行くわい」

「あ、地面に」


 ロクローはずぶりと地面に埋まっていき、姿を消した。

 するとガチガチの岩肌の隙間にポツリと小さな花が咲いていく。ヴェノム・キマイラが吸収して枯れた土壌が復帰しているようである。


「どういう原理なのだろう」

「前に聞いた時は土を口に含んで吐き出すとアースドラゴンの魔力と混ざり合って土壌が回復するらしい」

「へえ、土を食うんだ」


 ヒューシの疑問にハバラが解説を挟んでいた。ガルフが頷いていると、レイカが苦笑しながら言う。


「食べているわけじゃないと思うけど……」

「ドラゴン時の糞も栄養になるらしいぞい」

「さすが竜神様! 物知り!」

「忖度が凄いなあ」


 ハバラの時は反応しなかったのに、ディランの知識には拍手をして喜ぶエメリ。

 それはともかく、と、ディランがヴェノム・キマイラに向き直った。


「今後はどうする? ウィズエルフに悪さをしないならこの山で暮らすのも良さそうじゃが」

「だ、大丈夫ですかね……? 竜神様が居なくなった途端暴れ出したりしませんか?」

【我ハ負けを認めタ。ドラゴンの言うことに従ウゾ。もう食事がデキればなんでもいい】

「一気にプライドが無くなった!?」


 スックと立ったヴェノム・キマイラはもう暴れないと口にする。ただ、飯を食えればいいとのこと。


「喋れるのは意外じゃったが、こういう輩は割と素直になるもんじゃ。ダル達もそうじゃし」

「わほぉん」

「魔物って強さ基準みたいな?」

「そんなところじゃ。次になにかあれば容赦なく消す。それも分かっておる」

「何というか……ある意味、本能で生きている分、人やエルフといった存在よりも簡単でいいですね」

「あいつらとか酷かったしな」


 ヒューシとガルフはディランに喧嘩を売って負けたが、尚もいきがっていたウェリス達を思い返す。

 人間は賢いし色々なことができる。それゆえに、下手なプライドがあるのかもしれないと人間とウィズエルフは顔を見合わせて身震いしていた。


「ではキマイラ殿はこの山に住むのか?」

【そうサせてくれルとありがたい。土をダメにしてスまなかった。お前達の集ラクを守るトイウことで良いカ?】


 ひとまずウィズエルフに頭を下げた後、ディランに自分の役割を伝えるヴェノム・キマイラ。


「そうじゃな。人間達が山を荒らす時は威嚇してもいいかもしれん」

「大丈夫かなあ? なんか国の偉い人とかが危険視しない?」

「元々、ここは険しい山なので麓から少し上くらいまでしか登ってこないのです。万が一来ても我々が追い返すので大丈夫かと」

「ヴェノム・キマイラが暴れなければ大丈夫かだろう」

【うム、承知したゾ】


 それこそ五百年前も不可侵な状態だったので今さらだろうとエメリが言う。

 暴れないようにとドラゴン・ハバラが釘をさすとヴェノム・キマイラの三つの頭は同時に頷いた。


「それじゃ、ネクターリンの木に行ったロクローさんを追いかけようか。行こう、ダル、ルミナス、ヤクト!」

「「「わふ」」」

「では俺も戻ろう」


 話はついたので後はロクローかとユリが口にし、リコットを抱っこしたままアッシュウルフ達を呼んで歩き出す。

 ハバラも人の姿になり、後を追う。するとそこでヴェノム・キマイラが前足を上げて口を開いた。


【待テ。その狼タチに名前がアるのか?】

「え? うん。私がつけたよ」

【ふム。ヴェノム・キマイラとは言いにくいだろうカラ、名前をツケルといい】

「ん?」


 ヴェノム・キマイラがふふんと鼻を鳴らしてそんなことを言う。レイカが首を傾げていると、ディランが返した。


「まあ、いいかもしれんのう。名前があると嬉しいもんじゃて。せっかくじゃし、ウィズエルフの誰かにつけてもらったらどうじゃ?」

「となると……エメリか」

「え!? 急な重い仕事を振らないでください!」


 ウィズエルフ達は即座にエメリを指名した。一応、この森を警護する戦士で、リーダー格らしくそれもいいだろうとのこと。

 しかしいきなり話題を振られて困惑していた。


「お主でええじゃろ。山や森に入るならよく会うじゃろうし」

「竜神様がそうおっしゃるのなら……!」

「切り替えが早い」


 エメリはディランの言葉に手を上げて返事をしていた。


【一番イイのを頼ム】

「そういうことを言わない! 緊張するでしょうが! ……そうですねえ、デランザなんてどうです?」

「かっこいいな。なにか意味があるのか?」

「古代語で『勇敢な者』という意味がある。結果は伴わなかったが、竜神様に立ち向かい、素直に負けを認めたからだな」

「あーい!」

「うーい!」

「いいかもって言ってるのかしら? でも負けを認めたのに勇敢っていいの?」


 レイカがピンとこないといった感じで聞くと、エメリは腰に手を当て、指を立てて言う。


「負けを認めるということは戦士にとって、とても覚悟の必要なことだ。世が世なら『腰抜け野郎、追放』というセットになる」

「有りそうだ……」

「そういうわけでデランザでどうだ?」

【勇敢……イイな、これからそウ呼んでクレ】

「あー♪」

「リヒトもいいと言っておるな。なんじゃ、撫でたいのか?」


 ヴェノム・キマイラは満足したように頷き、ウィズエルフの横を歩く。

 レイカが抱っこしているリヒトがそちらを向いて手を伸ばすのを見てディランがそんなことを口にした。


「危なくないですか?」

【ふふん。我ハ暴れんゾ】

「ワシが連れて行こう」


 さすがにレイカに任せるのは危ないかとディランが抱っこし直してデランザへと近づく。


【どうダ、カッコイイだろう】

「あーい♪」

【うおオ!? 髭をひっぱルんじゃない!?】

「ふぉっふぉ、迷惑をかけた罰じゃな。さて、ロクローが待っておる。急ぐか」

「ドラゴン相手じゃ、キマイラも形なしってことか」


 ディランは笑いながらヴェノム・キマイラ、デランザの背中をポンポンと叩きながら先を進むのだった。

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