第143話 竜、いっぱい連れて行く
「ロクロー、お主なぜここへ!?」
「おお、いつも冷静なディランさんが驚いている……」
「ハバラを追ってな! うわっはっは! というか人間も居るじゃないか。どういう状況じゃ? お主はにん――」
「やかましいわい。というか、里を出て来たのか?」
「俺を追って来たのか……」
「まあ、パパ達を追い出した後、どうなっているか気になるわよね」
アースドラゴンのロクローを見てディランが珍しく声を大きくしていた。
大笑いする彼にディランが尋ねると、ロクローは腕組みをして頷いた。
「うむ。というかまた戻るがのう。お主がどういう生活をしてるか気になると皆が言うので代表で出て来たのだ」
「……お主が言い出しっぺじゃろ」
「……そんなことはないわい」
「あー、絶対この人からだ」
ディランが里を追い出されてからどういう生活をしているか興味があり、代表で様子見をしに来たというが、あっさり看破されていた。
ユリが目を逸らすロクローに苦笑していた。
「あなた、ロクローさんは驚きましたけど急がないといけないんじゃありませんか?」
「む、そうじゃな」
「なんじゃ、出かけるのか?」
「うむ。……お、そうじゃ。お主も来い。アースドラゴンならあの土地をなんとかできるかもしれん」
「あ、そうか二人の知り合いならこのおっちゃんもドラゴンか」
ディランがロクローを連れて行くことに決めた。ガルフがポンと手を打ってロクローの正体に気付く。
「なんぞあるのか? まあ、お前達と話しに来ただけじゃから暇だしいいぞ」
「よし、決まりだ。乗れ」
「おう」
「よろしくお願いします」
「よろしくね!」
「「「わふ」」」
「お、べっぴんさんもいるじゃないか。トワイトちゃんに怒られるんじゃないのか?」
「やかましい」
そしてようやくディランが羽ばたけると垂直に浮いていく。眼下ではトワイトとトーニャが手を振っていた。そのまま雲の上に行き、目的地へ。
「それにしても大所帯じゃな」
「まあ、人間の世界で暮らすならこんなもんじゃ。まさかお主が里を出るとは思わんかったが」
「お二人のお友達なら、ロクローさんもお年寄りですか? となるとやっぱりディランさんのように追い出されるんですか」
「ああ、若い衆は年寄りを追い出しておる。お主が最初じゃったが、数人年寄りが出て行ったわい」
ロクローが周囲を見渡しながら目を丸くして多いと口にする。ディランが里ではないから多いのは仕方ないと返した。
レイカが里について質問をすると、鼻を鳴らしながら現状を報告してくれた。
「そうか。ワシが粘らなかったから調子に乗らせてしまったかの」
「遅かれ早かれじゃろう。あやつらも年を食えばやっていることの意味がわかるじゃろ」
「ウチのおじいちゃんも『年寄りは大切にしろ』ってよく言っていたね」
「わほぉん」
ディランは自分達がさっさと出なければ話し合いもできたかと言うが、ロクローは手を振りながら一緒だという。
ユリがダルを撫でながら自分の家の祖父がそんなことを言っていたと頷く。
「無駄飯食らいなのは認めるがの。うわっはっはは!」
「それでも自分の食い扶持はディランさんみたいに自分でやっていたのでしょう?」
「まあな。畑なんかはちゃんとしておったぞ」
『わたしはお家がお金を持っていたからパパとママはメイドさんを雇っていたね』
「リーナみたいな貴族だとそうなんだろうけどなあ」
「基本的にドラゴンは自給自足というやつじゃ」
「狩りもじゃな。まあ、木の実を食べているだけの奴もおるし様々ではある」
生活習慣は里だとまるで違うと、ディランとロクローは口を揃えて言う。
「この子がいれば里へ帰れたりするのかな?」
「うー?」
「あーい?」
「どうかのう。嫁さんがエルフだとまたギャーギャー言うのではないか?」
まだお座りができないリコットを抱っこしたハバラが若い者、子供が居る親はどうなのだろうと呟く。
リコットと、ヤクトを背もたれにして手を繋いでいるリヒトが首を傾げていた。
ディランはエルフの嫁だと難しいかもと言う。
そして、その話を終えた辺りで目的地であるウィズエルフの集落近くまで来た。
「この辺りか」
「おお! 竜神様! こちらでーす!!」
「あ、エメリさんだ」
集落が見え、少しずつ降下していくと褐色エルフのエメリがディランに気付いて手を振っていた。
広場に案内され、全員を降ろすとディランも人型に変化した。
「ふう、ドラゴンの姿で集落に降りるのは気を使うわい」
「わしはあまり飛べないから羨ましいがの」
「む、人間。竜神様に馴れ馴れしいのではないか?」
「ああ、気にせんでいい。こやつもドラゴンじゃ」
「え?」
エメリが口を尖らせるが、ディランとロクローの言葉に目を丸くして驚いていた。
「ほ、本当なのか?」
「そうらしいわ。私達もさっき会ったばかりでまだ姿を見たことが無いんだけど」
「そういえば自己紹介もしていないよ」
「というか人間は嫌いなんじゃ……?」
「ハッ!?」
こそっとエメリがレイカにロクローのことを尋ねる。まだ自分達も断定はできていないが、ディランの友人らしいので間違いないだろうと返していた。
そこでヒューシが眉を顰めて尋ねると、エメリはハッとしてレイカ達から離れた。
「そ、そうだ! 人間は森や山を汚すからな! 竜神様のお知り合いといえど特別扱いはしない! そうだなみんな!」
「まあ、別に俺はどっちでもいいけど……」
「いい人間ならいいんじゃないか?」
「あれ!?」
「この人間達はワシが世話になっておるから普通にしてくれると助かるわい」
「はい! 竜神様がそうおっしゃるなら!」
「手のひら返しが早い!?」
「よし、ダル達はエメリにじゃれついてきなさい」
「「「わふ」」」
「あ、ちょ……ふわふわ……!」
ぐっと拳を握って承諾するエメリにウィズエルフたちは苦笑し、ガルフが驚愕していた。
ディランが居るからか、他のウィズエルフはそこまでガルフ達に違和感を覚えていないようだった。
「で、これからなにをするのじゃ?」
「あーい?」
「うー」
「リコット、リヒト君はあとでね」
「あーうー」
ロクローがディランへ尋ねると、ディランに抱っこされたリヒトも髭を引っ張りながら唸る。
リコットはリヒトに構って欲しそうだが父に阻まれていた。
「うむ。この地域にキマイラが生息していての。ネクターリンの木を根こそぎ枯らしてしまいおった。そいつはワシが倒し損ねた相手らしく、今度こそとどめを刺そうと思っておる」
「おー、そういうことか。ならそいつを探すというわけじゃな」
「そういうことじゃ」
「あーい!」
事情を説明するとロクローはすぐに理解して手を打った。そしてそのまま話を続ける。
「ならわしを連れて来たのは正解じゃな。ネクターリンの木へ案内してくれ。そこから辿ってやるわ」
『わかるの?』
「アースドラゴンのロクローがすぐに見つけ出してやるわい。うわっはっはっは!」
リーナの言葉にそう言って笑い、一同は集落を後にする――




