第142話 竜、片鱗を見せる
とりあえず害虫や鳥に襲われないようにしようと芽の周りをロープで覆ったりするなどの処置をほどこしていた。
『良かったねー♪』
「あーい♪」
「きゃっきゃ♪」
もう芽から声は聞こえないとリーナは言う。しかし、寝ているだけならこのまま成長してくれるはずだと喜んでいた。
ガルフとヒューシがロープを張るその様子に赤ちゃん二人も笑顔になっていた。
「ぴよ♪」
「こけー♪」
「ふふ、あなた達もお仕事が増えるわね!」
「害虫駆除よね。で、ダル達はジェニファー達を守ると」
「「「わふ」」」
そして畑の害虫駆除をしているジェニファー達も張り切って若い芽の周りをウロウロしていた。
ユリはアッシュウルフ達に笑いかけると、揃ってお座りをして元気よく鳴いた。
「すまんな」
「これでオッケー……だと思うぜ。芽は珍しい木のやつだし、プランダーマンキーがひよこを連れて行ったって聞いたからどちらかと言えばジェニファー達の方が危ないかもな? ルミナスとかが守るかもしれないけど」
芽の周りを整えてくれたのでディランが礼を言う。
ガルフはそれくらい別にいいと言いつつ、珍しい木の芽とジェニファー達が魔物などに襲われないか心配していた。
「わほぉん」
「お前が強いのは知ってるけど、空からの攻撃とかはやっぱ難しいだろ? かといって屋根をつけて陽を浴びさせないのも違うし、難しいところだ」
「まあ、その辺りはおいおい決めればええじゃろ」
尻尾を振って『任せろ』と鳴くダルの頭を撫でながらヒューシが考察していた。
ディラン達の気配で基本的に魔物は近づいて来ないが、獲物があるとなれば突撃してくる個体も居る。
ひとまず保留だとディランが言うと、そこでハバラが満面の笑みで戻って来た。
「父さん、母さん! ソレイユの容態が戻ったよ!」
「あら、良かったわ♪ リコットちゃん、お母さん治ったって!」
「きゃーい♪」
「あーう♪」
「良かったわね兄ちゃん」
ハバラがネクターリンを食べさせたソレイユはみるみる内に顔色が良くなり、目を開けて笑ったとのこと。
「ありがとう母さん。リコット、ママに顔を見せような」
「うい!」
トワイトからリコットを受け取り、また宿へと戻っていく。その様子を見ながら一同は微笑む。
「さて、無事も確認できたしワシはもうひとっ走りウィズエルフのところへ行って来る。キマイラを倒してこねばな」
「俺達も行っていいか?」
「キマイラは話だけで実物は見たことがありません。どういった魔物か見たいです。遠目からでもいいので……」
「あ、じゃあみんなで行かない? そのウィズエルフってのも気になるわ」
「いいかもね?」
ディランがそういうとガルフとヒューシがまた一緒に行きたいと口にする。
今度はウィズエルフを見たいのでユリも行くと言い出した。
「わほぉん……」
「わん」
「うぉふ」
「あー♪」
「あら、降りるの?」
嫌な予感がしたのかダルもそそくさと宿へ行こうとする。しかし、ルミナスとヤクトに阻まれていた。
リヒトが手を振ってダルを見ていたのでトワイトが地面に立たせると、ダルにぎゅっと抱き着いていた。
「わほぉん……」
リヒトも行くのならとダルは尻尾を上げて少しやる気を出していた。その様子を見ていたディランが腕を組んで頷いた。
「ふむ。なら、行くか。自分の身は自分で守れるな?」
「おう!」
「あーい♪」
「リヒトも行くの? じゃあ、ソレイユさんはハバラに任せて一緒に行こうかしら?」
「ならあたしは残るわよ。ネクターリンの芽も気になるし」
トワイトがリヒトを連れていくと言い、代わりにトーニャが残ると親指を立てた。
では早速ということでディランが背中を見せる。
「待ってくれ父さん、俺も行く。ウィズエルフにというわけじゃないけど、実を提供してくれたネクターリンの木がある土地は正常にしなければ」
「きゃい」
そこでリコットを抱っこしたハバラが戻って来た。そしてネクターリンの木に報いるためキマイラを倒そうと言う。
「む、そうか? 奥さんの傍に居てええぞ」
「もう大丈夫だと思う。母さん、代わりに残ってくれるかい?」
「もちろん構わないわ」
「うい!」
ハバラがリコットをトワイトに渡しながらディランの背に乗ると。
「よし、では乗るのじゃ。ジェニファー達は残ってくれ」
「「「わふ」」」
「ぴよっ!」
ダル達も背中に乗ると、ジェニファーやひよこ達が並んで見送る。
そしてよく見るとダルの背中にリヒトがくっついたままだった。
「あら、リヒトはダメよ」
「あーう!」
トワイトが近づくと、ダルから降りてディランの背中を撫でる。一緒に行くと言いたいらしい。
「むう、さすがにリヒトは危ないと思うが……」
「ほら、お母さんと一緒に待ちましょう」
「あう!」
「わほぉん……」
「あら」
トワイトが優しく手を伸ばすが、ダルの毛を引っ張って口を尖らせていた。
珍しく我儘を言うリヒトにトワイトが驚いていた。
「まあ良い、このまま行くとしよう。ハバラも居るし大丈夫じゃろう」
「あーい♪」
「気を付けてね。みんな、お願いよ」
「「「わふ!」」」
「あーう」
「うい?」
ひとまず急ぐかとディランが浮き出し、リヒトがトワイトとリコットに手を振る。
トワイトに抱き着いて指をくわえていたリコットがリヒトが遠ざかっていくことに首をかしげていた。
「ほら、行ってらっしゃいってしてあげましょう」
「う……? ううう……」
「ん?」
リコットの手を取って振らせていると、リコットの口がへの字になり震え出す。
トワイトが首をかしげると、リコットは大きく息を吸い、そして吐いた。
「ああああああああああああああん! うあああああああああああああああん!」
「うお!? ばかでけえ声!?」
「すご……!? ドラゴンの子ってこんなに泣くの!?」
「あらあら」
「リ、リコット……!?」
「むう」
リコットは離れていく父親とリヒトを見て大泣きした。あまりの泣き声に近くの鳥は飛んでいき、木々が揺れた。
ディランはまた着地した。
『うわあ、凄い……』
「あーう」
「きゃー♪」
リヒトの姿が見えた瞬間すぐに泣き止み手を伸ばす。どうやら離れるのが嫌だったようだ。
「これはリコットちゃんも連れて行かないといけないかしら?」
「そ、そうするか……パパと行くか」
「うい」
「ええー……」
トワイトがハバラにリコットを渡すが、すぐにリヒトに手を伸ばしていた。
まったく見向きもされなかったハバラが冷や汗を流していた。
「あはは、パパよりリヒト君なんだ? 赤ちゃん同士だし気を許せるのかもね?」
「むう」
ハバラは口をへの字にしてリコットを抱っこする。娘を取られたくないという感じだった。
「行ってらっしゃいー」
「うむ。では行くぞ」
「キマイラか……現物を見るのは怖いが楽しみだな……」
「だねえ」
ディランが今度こそと浮き始める。
それぞれ現地のことを思いながら話をしていると――
「おー! 見つけぞ! ディラン、トワイト!」
「なに? ……お前、ロクローではないか!?」
「どうしてここに?」
――ロクローがバタバタとやってきて声をかけてきた。そしてまた、ディランは降りるのだった。




