第140話 竜、原因を探る
「すまんな」
ディランは木に謝罪をしつつ、根っこから掘り起こした。
そして出て来た根っこの部分を見て驚愕する。
「腐っている……という感じではないですね」
「そうだな。眼鏡人間の言う通り、木に栄養が行っていないわけでは無さそうだ」
「ならどうして枯れたんだ?」
その木は幹が枯れているのに根っこはそれほど損傷がないという奇妙なものだった。病気という線も考えられたが、根っこが無事なのに枯れるのはおかしいと首を捻る。
『う、なんだろまたなにか……?』
「とりあえずヒューシ、水を根っこに与えてみてよ」
「そうだな<ウォーター>」
ドラゴン・ディランの持った木の根にヒューシが水魔法をかける。すると、根っこがわずかだがわさわさと動いていた。
「ほう、まだ死んではおらんようだな。流石はネクターリンの木じゃ」
「なら土が腐っている……?」
『うーん……ちょっと触るね』
「リーナ?」
先ほどから眉を顰めていたリーナが空を飛んで木の幹へ手を当てた。レイカが首を傾げるがリーナは目を閉じてシーっと唇に指を立てる。
『ふんふん……なるほど……』
「なんか話しているっぽいな」
「精霊だからそういう能力があるのかもな」
「おお……精霊様もこの目で見れるとは……!」
リーナがなにやら木と交信をしているようなそぶりを見せていた。ハバラやガルフが見守り、エメリが興奮状態となる。
しばらく見守っていると、リーナが目を開けてディランの鼻先へ飛んでいく。
『原因が分かったわよ! ディランお父さんが倒したっていうキマイラは完全に死んでいなくて、そいつがこの辺り一帯の木々や動物、魔物から魔力を吸い上げているみたい。で、ネクターリンの木は特に吸われているんだって』
「なるほどのう。仕留め切れておらんかったとはワシもまだまだじゃわい」
『うーん、死んではいたっぽいけど……あんでっど? とかなんとか』
「魔物なら有り得るな……」
ヒューシが眼鏡の位置を直しながら冷や汗をかく。動物の心臓と同じようなものが魔物にはあり、それが残っていればいつか再生なりすることは珍しく無いという。
「すげえな。俺達は倒した後完全に解体したりするから復活しないのか」
「じゃな。そういう意味ではウチのハバラはずるい部類にはいるぞ」
「なにを言っているんだ父さん。俺はずるくないぞ?」
「お主、三つ首竜になった後、どれか一つでも頭が残っていたら死なないじゃろ。ドラゴンと言えど心臓と頭はやられると死ぬからのう」
「ああ、そのことか。確かに頭は二本までなら痛いけど死なないな」
「いや、あっさり言ってるけどずるいな!?」
もし、先日ディランに突っかかって来たウェリス達のように戦いを挑んだとしても簡単に殺すことはできないとディランが口にした。
ガルフは魔物を退治する側の意見として『限りなく不死身に近い相手』とやりたくないと首を振る。
「コホン! 話が逸れたから戻すわね。リーナ、その魔物の場所は分かるの?」
『あ、ちょっと待ってね……そこまでは分からないみたい。というかこの子達は吸いつくされているから辿れないって』
「なるほど。しかし、そのキマイラが元凶なら我々も探しましょう。魔物や動物達が狩りやすいと思っていたのですが弱っていたとは」
エメリは驚愕の表情を見せた後、頬を叩いてディランに告げる。それを聞いたディランはドラゴンの顔をぬっと近づけて口を開く。
「しかし無理をしてはならんぞ? 前の時もウィズエルフ総出できつい相手じゃったからな」
「ハッ! ありがとうございます! では早速集落へ戻り、警戒と探索を伝えます」
「うむ。ワシらは一旦、自宅へ戻る。すぐに戻ってくるから見つけても早まるでないぞ。この木、抜いてしまったがもらってもええかのう」
「もちろんです!」
ディランが忠告とお願いをすると、エメリが満面の笑みで頷いて駆け出して行った。
「大丈夫かねえ」
「まあ、寝た子を起こさなければ大丈夫じゃろう。 集落の位置も分かったし、サッと行ってサッと帰ってくるとするぞい」
「本気で飛ぶのかい父さん?」
「そこまではせんでもよかろう」
「見たい気もするわね……」
ガルフ達を背中に乗せていく中、ハバラが本気で飛ぶのかと口にする。だがディランは手を振りながらそこまでせんでいいと肩を竦めていた。
そのままふわりと宙に浮き、雲の上へ行くと自宅へ進路を取った。
「しかし、リーナはお手柄じゃ。木々の声を聞くなどワシらはできんから助かったのう」
「あ、確かに! 偉い!」
『えへへー。わたし、死んでいたのにこうやって旅にも出られて本当に嬉しいよ!』
「そう言ってくれると僕達も一緒に住んでいて嬉しくなるな」
『ヒューシやトーニャ、レイカにユリにガルフと一緒なのも楽しいよ♪』
ディランが賞賛すると、リーナは素直に喜んだ。
精霊になっているとはいえ、まだまだ子供なので褒めると全力で表現してくれる。
「それで、父さん。その木はどうするんだい?」
「根っこが生きておるなら植え替えてみようかと思ってな。まあ無駄かもしれんが抜いてしまった以上、最後まで面倒を見なければいかん」
「すげえなあ」
「父さんと母さんは優しいからね」
ガルフはそういうのを見習いたいぜと感嘆の声を上げていた。ハバラはそんな父親を褒められて嬉しそうに笑っていた。
「着いたぞ」
「え?」
「も、もう!?」
二言、三言、話をしている間に到着したとディランが言う。レイカが驚いて下を見ると、キリマール山が見え、視線を動かすと王都も見えていた。
「え、これで本気じゃないんですか……?」
「ん? 行く時と違って真っすぐじゃからこんなもんじゃろ」
「……」
一体どれほどの力を持っているのかと人間組は半分くらい呆れていた。
そんなことなど知る由もなく、ディランは降下していく。
畑のある近くへ降ると、みんなを降ろす。
「俺はソレイユの様子を見て来る!」
「おお、母さんを呼んできてくれ。さて、この土地ならどうじゃ?」
『折角だし、元気になってほしいね』
ドラゴン・ディランが人差し指で土を掘り、根っこをゆっくりと土につけて周りを埋めていく。それなりに大きい木が畑と水田の間に一本立った。
「水をやるか」
「それは僕がやりましょう」
「頼むわい」
ヒューシが少しワクワクしながら申し出ると、ディランがお願いをした。
このまま、またウィズエルフのところへ戻るため人間の姿にならないようだ。
「また実をつけられるかな? 土地が違うし難しいかしら」
「む……!」
レイカが眉をひそめてそういうと、ディランが反応した。
そして――




