第138話 竜、別の山へ降りる
「おお、あれじゃ」
「ありましたか……!」
「結構ウロウロしちまったな……」
「かなり昔みたいだし仕方ないさ」
空を飛んで山を探すこと小一時間。
ディランが確信した声を上げ、背中に乗った一同はようやくかと安堵する。
ソレイユが今すぐに亡くなるわけではないが、やはり早く治療してあげたいというのは全員の想いだった。
ディランはそのまま山頂付近へ降下しつつ、着地できそうな場所を探す。
そこでガルフとレイカが下を見て声を出した。
「お、あそこ村かな?」
「え? あ、本当だ。人が登れない場所なのにあるんだ?」
「元々、山に住んでいた種族とかじゃないかな? たまにああいう村はあるよ」
切り開かれた土地に家屋がぽつぽつと見えていた。煙も上がっているため、人が現在も生活していることが伺える。ハバラが二人にそう言うと、ディランも続けた。
「まあ、ワシらみたいな種族もおることじゃし珍しいことでもないわい。とりあえずあの辺に降りるかの」
「お願いします。……ちょっと気になりますね」
「ヒューシはああいうの好きだもんな」
「人間嫌いの種族なんかもいて、襲われたりするから気を付けた方がいいよ」
『リーナは精霊だけど大丈夫かな?』
「うーん、元は人間だけど……うーん……」
ヒューシの好奇心はハバラに注意され、リーナの疑問にレイカが頭を悩ませていた。そんな会話をしながら、なるべく広いところへと着地する。
「では人化するかのう」
そう言ってディランがいつもの人間体へ変化し、首を鳴らしていた。そこでハバラが山頂方面に顔を向けて尋ねる。
「やはり山頂かい、父さん」
「うむ。割と珍しい木じゃからすぐわかると思う。実もキレイじゃぞ。レイカやリーナは好きかもしれん」
『ホントに! 一個くらいもらってもいいかな』
「大丈夫じゃろ。では行くぞ」
ディランを先頭にし、最後尾にハバラを置いた。その間にガルフ達が挟まるという陣形である。
先頭よりも背後からの攻撃が一番怖い。そのため、頑丈なハバラが適任という訳だ。
「……どんな魔物が出るのか気になるぜ」
「多分、襲ってこないわよ。人の姿とはいえドラゴンだし」
『ガルフやレイカ達も強いしね』
「いやいや、僕達はまだまだだぞリーナ。……お、あのキノコは初めて見るな……」
「ちゃんと封をして持って帰ってよ?」
「はは、ヒューシ君は魔法使いより学者の方が向いていそうだね。ま、父さんが居れば安心だから落ち着いて進もう」
それから進みつつ薬草やキノコといった採集をしつつ先を急いだ。実があればなんとかなるが、ディランやハバラはそれ以外にも使える素材に明るいため折角だからと採っていく。
「ウチで栽培するか」
「大丈夫かい……? 山の生態がおかしくならないようにしないと」
「そこは任せておけ。お、見つけたぞい。……むう」
ハバラがあんまり無茶はするなと釘をさす中、ディランは目的の木を見つけた。
しかし、歓喜の声ではなく渋い感じで唸っていた。
「こいつか?」
「枯れている……」
「なんだって……!? ネクターリンは!?」
「……むう、残念じゃがこの辺りの木は全滅しておる」
『どうして……』
期待していたネクターリンの木はすっかり枯れてしまっていた。
周囲を見渡すと似たような幹をしている木がいくつもあったがやはり実はつけておらず、酷く乾燥している。
「なんてこった……いったい何があったんだ?」
「季節に関係なく実をつけるものじゃからなにかあったのは確実じゃな」
「他の木はないのか……!」
「あ、ハバラさん!」
余裕をもってやってきたが、まさかの事態にハバラは顔を青くして周囲を走り出した。
「ディランのおっちゃん。他の地域とかには無いのか?」
「あるはずじゃ。人が立ち入りにくい山を探せばな」
『どうして人が来ないところなんだろ?』
「人が立ち入ると乱獲や生態が変わる。先ほどのハバラが言っていたようにな。今みたいに一度採集するといったことならそこまで変わらないのじゃが、焚火をしたりゴミを捨てたりといった行為でおかしくなるものじゃ」
「なるほど……」
『もしかしてこの木も人間が? ……ん? 今、何か声が――』
「む? 何者じゃ」
ディランの説明にヒューシが納得する。リーナが木に手を当てて寂しそうな顔をする中、背後に気配を感じて振り返る。
「……今、金色のドラゴンが降りて来たのを見た。お前達の誰かがそうか?」
「エルフ……!」
そこには武装した耳の長い者達の集団が立っていた。
レイカが咄嗟にエルフと口にする。しかしソレイユと違い、肌の色は濃くない褐色をしており普通のエルフとは違うようにも見える。
「すげえ、みんなきれいに日焼けしているなあ」
「日焼けじゃないわ!? ええい、質問に答えろ!」
「お前は喋るな……」
「へぇい……」
『よしよし』
「敵意は無いようじゃな」
「さっきまでは無かったけど、ガルフのせいで怪しくなったかも……」
ガルフが感心したが、日焼けではないと先頭に居た女性が声を荒げた。
ヒューシが頭を軽く小突き、ガルフはしゅんとなっていた。
敵意はないとディランは判断し、一歩前へ出てから集団へ言う。
「ワシはディランという。先ほどのドラゴンはワシの変化した姿じゃ。驚かせたのならすまん。ネクターリンの実を採りに来たのじゃよ」
「……!? ディラン……今、あなたはディランと名乗ったか!」
「え? そうじゃけど、どうした?」
「「「おお……!」」
変に隠す必要もないので自己紹介を兼ねて分かりやすい事情を口にする。すると耳の長い一団は顔を見合わせてざわざわと騒ぎ出した。
そして先頭にいた女性も一歩前へ出て、剣を地面に置いてから膝をつく。
「お、な、なんじゃい?」
「どうしたのかしら……」
そして他の者達も膝をついて頭を垂らす。ディラン達が困惑していると、女性が顔を上げて満面の笑みで口を開く。
「まさかとは思いましたがあのお姿とお名前で本物と確信しました! ディラン様……いえ、伝説の竜神様をこの目で見れたことを光栄に思います……!」
「竜神……!?」
「様……!?」
急にそんなことを言い出し、その場に居たガルフとヒューシが目を丸くして叫んでいた。
 




