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第134話 竜、一家が揃う

「あーい♪」

「うふふ、上手よリヒト」

「ぴよー……」

「あー」


 竜の里でひと騒動があったことなど露知らずの一家は相変わらず平穏な日々を過ごしていた。

 遊戯室でリヒトはまだまだお気に入りのでんでん太鼓をポコポコと振ってトワイトに見せていた。上手く音が出れば褒められることを覚えたのである。

 そして紐の動きを見ていたトコトが目を回してひっくり返っていた。

 リヒトはお座りしたままトコトを拾おうと手を伸ばす。


「あーう?」

「あらあら」


 もちろん身体の使い方はまだわからないため、伸ばした手の方向へころりんとリヒトが転がってしまう。


「きゃー♪」

「ぴよー」


 それが楽しかったのか、リヒトは転がったまま手足をパタパタと振って喜んでいた。そして復帰したトコトは自力で立ち上がり、転がったリヒトのお腹に乗る。


「ダメよトコト。リヒトがまた転がったら潰れちゃうわ」

「ぴ」

「あーう」


 トワイトがトコトをそっと持ち上げる。するとリヒトはまた転がってうつぶせになった。そのままでんでん太鼓を握りしめたまま、器用に寝そべっているダルの方へ突撃する。


「あーい!」

「わほぉん……」


 ゆっくり伸びていたダルの脇にリヒトの頭が刺さり弱気な声を出して舌を出す。ダメージはまったくないが、気分的なものだ。


「わほぉん」

「きゃー♪」


 ダルはお返しとばかりに前足を使ってリヒトを自分のところへ引き寄せた。寝そべって抱っこしたような形になり、リヒトはもふもふした毛に覆われた。


「あーい♪」

「わほ……わほぉん……」


 しかし大人しくなるどころか、テンションが上がり、リヒトが太鼓をめちゃくちゃに振り回してダルの顎にぶつかっていた。


「リヒト、ダルが痛いって言っているわよ」

「あう?」

「わほぉん……」

「あい」


 ダルが悲しそうな顔をするとリヒトは振り回すのをやめてダルのおなかを撫でて、前足から脱出した。


「まだ元気ねえ。お父さんのところへ行く?」

「あーい!」


 トワイトがしゃがんで尋ねると、遊び足りないといった感じのリヒトが大きく声をあげた。彼女はリヒトを抱っこしてトコトをポケットに入れてから庭へと向かう。

 自然とヤクトとルミナスが足元に移動し、ダルも少し離れてついていく。


「それ!」

「こけー!」

「ぴよー♪」

「あー♪」


 外へ行くとディランとジェニファー、そしてレイタとソオンがディランに上空へ飛ばされていた。

 降りてくるときに羽を広げてふわふわと降りて来る遊びをしているようだ。

 それを見たリヒトはでんでん太鼓を振り回しながら目を輝かせていた。


「あなた」

「む? おお、婆さんとリヒトか。家で遊んでいたのではないのか?」

「お昼寝をするかと思ったらまだまだ元気いっぱいなんですよ♪ ならお外で遊ぼうかと」

「あーう!」

「わん?」


 リヒトは元気いっぱいに声を上げて足元に居るアッシュウルフ達に手を振る。どうやら地面に降ろしてほしいらしい。


「はいはい、じゃあ靴を履きましょうね」


 トワイトが察して靴を履かせるとリヒトをそのまま地面へ立たせた。すぐにルミナスが掴まれるようにスッと横に立った。

 

 しかしその時――


「む……!」

「あら、これは……?」

「「「わふ?」」」

「あー」


 ――ディラン達は空に巨大な魔力を感じてバッと顔を上げた。


 その瞬間、ルミナスの身体が動いたため、リヒトが掴まりそこなって転んでしまった。


「わ、わんわん……!?」

「あーう」

「あら、ごめんねリヒト!」


 泣きはしなかったが転んだままになってしまい、ルミナスが慌てて襟首を咥えて立たせていた。起き上がったリヒトの埃をトワイトがはたいてあげる。


「うー?」

「……ふむ、一体何者じゃ?」

「見ておいた方がいいかしら? 危ない魔物とかなら注意しないといけないかもしれないわ」


 かなり上空を飛んでいるが魔力は駄々洩れで、魔力を探知できるものならすぐに気づくというレベルのものだった。

 それがそれなりに強力なのでトワイトが心配そうな顔で言う。


「そうじゃな。ワシが行こう」

「私も行きますよ?」

「あーう?」

「ふむ……なら皆、ワシの背に乗るか」

「うぉふ……!!」


 少し考えた後、ディランは離れる方が心配になるかと連れていくことに決めた。

 そしてすぐにドラゴンに変化すると、ヤクトが興奮気味に目を輝かせてディランの背に飛び乗った。


「では上がるぞ」

「はい」

「あーい!」


 巨大なドラゴンになったディランは音もなくスーッと垂直に上がっていく。

 そのまま山より上になり、雲に近づいていく。

 するとそこには雲の隙間から地上をキョロキョロと見渡しながら飛んでいるブルードラゴンが居た。


「あら、もしかして」

「なんと、ハバラか?」


 見たことがある姿にトワイトとディランは息子ではないかと目を見張る。

 すると別の方向から聞きなれた声がする。


「あれ? パパ?」

「ディランさん!」

「む?」

「あー♪」

「トーニャちゃん?」


 そこにはピンク色のドラゴンであるトーニャが居た。背中にガルフやレイカを乗せて飛んでいた。


「どうしたのじゃ?」

「どうしたもなにも、妙な魔力を感じたのよ。ちょっと迷ったけど、変な魔物とかだったら困ると思って来たの。一応、陛下には言ってきているから」


 トーニャは手を広げて肩を竦める。ドラゴンの姿でため息を吐くと空気が震えていた。


「なら大丈夫か。というか良く知った者じゃったわい」

「良く知った?」


 ディランはモルゲンロートが知っているならいいかと頷き、再びブルードラゴンへ顔を向けた。ヒューシが眼鏡の縁を持ってその方向を見ると、トワイトが口を開く。


「ええ。ハバラ、久しぶりね!」

「え、兄ちゃん?」

「む! 今のは母さんの声……!」

「うわ、こっちに来た!?」


 豆粒ほどだったブルードラゴンがトワイトの声を聞きつけたようで、あっという間にディランの前に飛んできた。

 

「お、おお……! その姿……父さん! そして背中に居るのは母さんか! よ、良かったすぐ見つかった……あと、あれ? トーニャもいるのか……?」


 ハバラは父のドラゴン姿を見て大層喜び、うっすらと涙すら浮かんでいた。しかしトーニャも居ることを見てきょとんとする。


「なによ! いちゃおかしいっていうの!」

「いや、お前は人間の都に憧れて出ていくって……」

「言うな!?」

「うお!?」

「そういう理由だったの?」

「トーニャちゃん、お兄ちゃんを叩いたらダメよ?」


 トーニャはいきなり里を出た理由をバラされて兄を叩いていた。苦笑するレイカをよそに、叩かれたハバラはハッとなって口を開く。


「こ、こんなことをしている場合じゃないんだ! 助けてくれ父さん母さん!」

「助けてほしいじゃと? 一体どうしたのじゃ?」

「俺の嫁が……」

「嫁? お主結婚したのか。なら先に報告をじゃな」

「それは悪かったよ! でもその嫁が病気で……」

「あーい?」


 嫁が出来たと聞いてディランが口をとがらせて言うが、ハバラはそれよりもと自分の両手を見せる。右手には毛布にくるまった耳の長い女性。そして左手にはリヒトと同じくらいの赤ちゃんが、居た。

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