第133話 竜、慌てる
ディラン達一家がのんびりと暮らしている中、竜の里では――
「ふん、小童めが! 出て行って欲しかったら力づくでやるんじゃな!」
「くそ……ジジイの癖にやけに強いじゃねえか……ディラン爺さんは尻尾を巻いて逃げたのによ……」
「あ? 阿呆か。あやつはお前達にケガをさせたくないから出て行ったのじゃ。三人がかりでわしに勝てんようでは十人居ても無駄じゃろうな」
――若者が力づくで追い出そうと年寄りに勝負を挑んでいた。
しかし結果は三人がかりで惨敗。
年寄り側にも複数のドラゴンは居たが、あえて一対三という状況で若者をのしていた。
「平和ボケして戦い方すらなっておらんのう」
「それで里に危機が訪れたらどうするのじゃ!」
「いつか教えを乞うてくるかと思ったがまさか追い出しにかかるとはあきれ果てるわい」
地面に座り込んでいる若者たちを見下ろして年寄りたちはやいのやいのと言葉をぶつける。さらにディランは自分達よりも強いと口にしていた。
「ディランの爺さんは身体がでかいだけだろ……クソ、覚えてろよ……」
「まあお前達は知らんじゃろうがあやつは――」
「とーさぁぁぁぁん!」
「「ん?」」
先ほどまで戦っていた年寄りドラゴンがなにかを口にしようとした瞬間、上空から叫び声が聞こえて来た。
その場に居た者が上を見ると、そこには青い鱗のドラゴンが里に向かって降りてくるところだった。
「む、あやつは――」
「ディランとこのハバラじゃな」
「なんぞ慌てておるようじゃがどうしたのじゃ?」
ある程度の高さで変身する……のかと思いきや、実家の近くで滞空し家に向かって声をかける。
「父さん、母さんただいま! 急で悪いんだけど、頼みがあるんだ!」
ディランの息子であるハバラが物凄く焦った声を出して頼みごとがあると告げる。
しかし、いつもならすぐに返事があるのに、今日はまったく反応が無かった。
「出かけているのか……!? ああ、困ったぞ……」
「おい、ハバラ!」
「え? ああ、ロクローさん! お久しぶりです!」
そこで先ほどの年寄りドラゴンがハバラに声をかけると、少しほっとした様子で挨拶を返していた。だが、ロクローの次の言葉でハバラは驚愕することになる。
「ディランのやつはそこの若い連中に里を追い出されて居なくなったぞ」
「え? ……はあ!? な、なんでですか!?」
「若者を中心に里を維持していくと言ってな。わしらも今、力づくで追い出されそうになったところじゃ」
「な……! お前等!!」
「「「うお!?」」」
その瞬間、ハバラの頭が増えて三つ首竜になった。怒りの戦闘スタイルである。
若者たちがびくっと声を上げたところにハバラが口を開く。
「お年寄りを追い出してどうするつもりだ? 知識や戦い方といった流動的なものは全て過去からの経験だろう?」
「今まで育てて来てもらった恩を忘れて追い出そうとするとは呆れたねえ」
「お前等は馬鹿なのか?」
それぞれの首が言葉を発し、若者たちに説教をする。首の性格は少しずつ違うようで、喋り方が異なっていた。
「里を攻撃されたらどうするつもりなんだ……」
「う、うるさい! もう出て行ったお前に言われる筋合いはない!」
呆れたように言うハバラに一人の若者が激高してドラゴンの姿になった。
そのまま浮いて攻撃をしようとしたが、ハバラは目を細めて羽を大きく羽ばたかせた。
「う、動け……ない……!?」
「俺はテンペストドラゴン。母さん譲りの風を操る能力を持つ。忘れたとは言わせないぞ」
「くっ……」
「俺一人に手を出せない奴が里を守れるものか! い、いや、こうしている場合じゃない!? ロクローさん、父さん達はどこへ?」
若者たちは地面から動くことができず、呻くばかりであった。しかし、説教よりもやることがあると両親のことを尋ねた。
「わからん。しかし西の方へ飛んで行ったわい。そういえばこの前トーニャが帰って来た時も同じことを言った気がするな」
「トーニャが? なら一緒に居るかな? だと助かるけど……ロクローさん、ありがとうございます!」
「おう!」
ハバラはお礼を言ってから再び上空へ舞い上がると、あっという間に姿を消した。
「おー、速くなったのう」
「トワイトにはまだ及ばんかな? にしても急いでおったな」
「ふむ」
「どうしたロクロー?」
ハバラが飛んで行った後、ロクローが空を見上げてなにか唸っていた。年寄りドラゴンが尋ねると、ロクローは手をパンと打ってから言う。
「わしも追ってみるか。ディラン達の様子を見てみたいわい。上手くいってそうならこやつらの言うとおり里を出てもいいかもしれん」
「お、そりゃ名案じゃ! 行くか!」
「里の外か、久しぶりじゃて」
「いや、まずはわしが行く。ディランと会えたら場所を教えに戻ってくるわい」
「ずるくない?」
「だって言いだしっぺじゃし」
一応、ドラゴンが三人も一緒に居るのは良くないとロクローは考えていた。
里の守りも欲しいと言う。
「むう、仕方あるまい。しかしお主は飛べんじゃろ」
「地上を走破するならアースドラゴンであるわしの出番よ。ボルカノは茶でも沸かしておれ」
「言いよるわい。まあ、ディランに会ったらよろしくな」
「おうさ。わしは旅に出てくるがまた戻ってくる。わしらを追い出したければ強くなることじゃな」
方針が決まったところでロクローは旅立つことに決めた。
ついでにと、ハバラに飛ばされて尻もちをついている若者に顔を近づけて忠告をしていた。
「二度と帰ってくるな……! ぐあ!?」
「生意気言うでないわ! では、荷物をまとめて行くかのう――」
拳骨を落とした後、ロクローは風呂敷に荷物をまとめて里を後にするのだった。
◆ ◇ ◆
「ぶえっくしょい!」
「わほぉん!?」
「こけー!?」
庭で日向ぼっこをするペット達に付き合っていたディランが盛大なくしゃみをした。あまりにも大きなくしゃみだったので、ダルやジェニファーが飛び上がって驚いていた。
「あーい?」
「ぴーよ?」
「む、リヒトか。大丈夫じゃ。ドラゴンは病気にならん」
「花粉かしら?」
ヤクトに掴まって太鼓を鳴らしながらひよこ達とあちこち歩きまわっていたリヒトが、ディランのところへ戻って来た。そして座っているディランの手を撫でながら首を傾げる。
「鼻がむずむずしただけじゃろう。ほれ、太鼓を振るのじゃ」
「あーい♪」
「上手よー♪」
平穏な一家はこれからなにが起こるか、まだ知らない――




