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第130話 狼、家族を守る

「あーい♪」

「わんわん♪」

「ぴよー♪」


 トワイトが靴を作ってから数日が過ぎた。

 特にトラブルなどもなく、一度だけ王都からトーニャに乗ったガルフ達が遊びに来るくらいで、日常は落ち着きを取り戻していた。


「うふふ、ルミナスにしっかり掴まっているわね」

「毛を引っ張り過ぎてないか心配じゃわい」


 靴を履いたリヒトがルミナスの背中の毛を掴んだ状態でひよこ達と庭の中を散歩していた。

 まだアッシュウルフ達の毛はそれほど長くないので、ディランは赤ちゃんの力でも痛くないか心配する。


「うぉふ」

「ん? 問題ないじゃと?」

「うぉふ!」

「みんなリヒトが好きねえ」


 毛を掴まれても大丈夫とディランの前でお座りをして尻尾をぶんぶんと振る。

 ダルもあくびをしているが尻尾の振り具合からヤクトに同意しているようだった。


「こけー!」

「ぴよ? ぴよー♪」

「ぴよっぴ!」

「あーい?」


 てくてくと畑に向かって歩くリヒト。

 そこでジェニファーが畑近くでぴょんぴょんと飛び上がって鳴く。ひよこ達がなにごとかとぴよぴよとジェニファーに近づいて行くと、歓喜の声を上げていた。

 

「あら、アブラムシね」

「ミミズもおるな。畑の害虫駆除をやってくれるから助かるわい。まあトウモロコシを要求してくるがの」

「こけー♪」


 ディランはふっふと笑いながらおやつに興じるジェニファー達に言う。昆虫を食べてご満悦なひよこ達を見ていると、じっと見ていたリヒトがルミナスから手を離して駆け寄りだした。


「あー♪」

「わん!?」

「あらあら」


 その瞬間、一人で歩けないのでもちろんリヒトは盛大に転ぶ。べしゃっとお腹から転んで四つん這いになった。


「あーう」


 リヒトは大きな目をぱちくりさせてなにが起こったかわからず、きょとんとしていた。痛くは無かったようで泣かなかった。


「元気で良いのう」

「帰ったらお着替えをしないとね」

「うー」


 ディランとトワイトが微笑んでいると、リヒトは立てないことに不満を漏らしていた。


「ぴよー」

「あー♪」


 そんなリヒトを見ていたトコトが歩いてきて、リヒトの前にミミズを置いた。

 どうやらおすそ分けに来たようだ。


「あい♪」

「いかんぞ!?」


 リヒトがミミズを掴んで食べようとしたので、ディランが珍しく慌てて瞬間移動し、ミミズをポイしてリヒトを抱っこした。


「あうー?」

「ぴよー?」

「これは食べてはいかんのじゃ。トコトの気持ちはありがたいがのう」

「ぴよー……」

「よしよし」


 ディランがミミズをトコトに返しながら告げると、そうなのかといった感じでがっくりと頭を垂らしていた。

 そんなトコトをトワイトが手に乗せて背中を撫でてあげていた。


「汚れてしまったし、そろそろ家へ戻るぞい」

「あうー」

「お部屋で遊びましょうね」


 まだ外に居たいというリヒトだったが、服が汚れてしまったので抱っこしたまま連れて帰ることに。


「ほれ肩車じゃ」

「あー♪」


 機嫌を取るためディランが肩車をすると、彼の髪の毛をぎゅっと掴んで大喜びだ。

 ダル達も後を追おうとした瞬間、それは起きた。


「ぴよー!?」

「こけー!?」

「ぴよぴー!?」

「うぉふ……?」


 離れたところに居たジェニファー達が猿型の魔物に攫われていた。

 トウモロコシ畑の葉に隠れていたところ、ディランとトワイトが後ろを向いた瞬間、サッと連れて行ったのだ。


「あー!」

「む、プランダーマンキーか」

「あら、近くまで来るのは珍しいですね? ニワトリやひよこを食べ――」

「……!! わほぉぉぉぉん!」

「「わふ……!!」」


 トワイトが困った顔で話していると、ダルが尻尾をぴんと立て、珍しく大きな声で遠吠えをして地を蹴った。続いてルミナスとヤクトが追いかけていく。


「キキキー♪」


 十二、三歳程度の子供くらいの大きさをした猿の魔物が歓喜の声を上げて山を登っていく。小脇にいるジェニファーやレイタがじたばたと暴れるが、なかなかの俊足だった。


 だが――


「わほぉぉぉぉん……!!」

「キキ!?」

「こけー♪」

「うぉふ……!!!」

「わんわん!!」


 ――ダル達はそのプランダーマンキーにあっという間に追いついた。牙を剥きだし、本気で怒っている顔でダッシュをかけていた。

 回り込むためダルとルミナスが左右に広がる。山道や木々をものともせずに追いかける様は捕食者そのものだ。


「キィー!」

「うぉふ!」


 そこでプランダーマンキーはレイタとソオンをジェニファーを抱えている手に持ち替えて木に登る。片手で登っていけるほどの腕力を見せ、こちらも魔物らしさを見せていた。

 

「わほぉぉぉん!」

「わおーん!!」

「うぉふ!!」

「キキ!?」


 しかしアッシュウルフ達は自慢の爪を使って木を登っていく。むしろ逃げ場のないところへ行ってくれて助かるといったふうにも見えた。


「わん!」

「キィー!?」


 そしてついにルミナスがプランダーマンキーの尻尾を捉えた。そのまま勢いよく引っ張るためルミナスが自由落下を始める。


「こけー!」

「「ぴーよー」」

「わほぉん」

「うぉふ」


 その瞬間、ジェニファーとレイタ達を取り落とした。

 すぐにヤクトがひよこ達を自分の背に乗せ、ジェニファーはダルが首を甘噛みして咥えていた。


「キキィ……」

「わん」


 そんな中、ルミナスは地面に落ちたプランダーマンキーを前足で抑えて逃げられないようにしていた。


「おお、捕まえたか。やるのう」

「プランダーマンキーはすばしっこいから中々捕まえられないのよ」

「わん♪」


 そこへディランとトワイトが追い付き、感嘆の声を上げた。もちろん夫婦はすぐに捕まえることができるが、それはそれとして褒めたたえる。


「わほぉん」

「うぉふ」

「キー……」

「あーう!」


 ダルとヤクトも合流してプランダーマンキーをどうしてやろうかと前足をグリグリと押し付けていた。リヒトもペット達を連れていかれてご立腹だ。


「しかし、いたずらの代償は大きかったのう」

「本当ね♪」

「わほぉん?」


 何だろうという感じでダルがディランを見上げると、トワイトが続けた。


「プランダーマンキーは野菜とか豆や果物が主食だからお肉は食べないのよ。だからジェニファー達をさらっても食べられないの」

「うぉふ!?」


 トワイトが先ほど言いかけたのは『ニワトリやひよこを食べないのに』ということらしかった。それを聞いたダル達はポカーンと口を開けていた。


「はっはっは。早とちりじゃったが、家族を守るため本気になったのは偉いぞい。今日はいいものを食わしてやろう」

「「「わふ♪」」」


 三頭はそれを聞いて嬉しそうな声を上げた。

 ディランが頷いた後、プランダーマンキーの首根っこを持ち上げてから言う。


「ほれ、お主もこれに懲りたらウチでいたずらをせんことじゃな」

「キキー? キー♪」

「行くがよいぞ」


 ディランはプランダーマンキーにトウモロコシを持たせると、地面に降ろしてやる。

 歓喜の顔をした魔物はそのままトウモロコシを抱えて距離を取る。


「キー」

「達者でね」


 一度だけ振り返って鳴いた後、プランダーマンキーは山の奥へと消えて行った。


「あー」

「こけー」


 リヒトが手を振って見送っていた。ジェニファーが鳴くと、トワイトがひよこ達と一緒に抱えて微笑む。


「それじゃ今度こそ帰りましょうか♪」

「そうじゃな。それにしてもよくやったのう」

「あーい♪」

「「「わふ!」」」


 褒められてご満悦なアッシュウルフ達は堂々とした調子で前を歩くのだった。

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