第128話 竜、ひとまずの平穏を得る
「山に帰るのか、楽しかったんだけどなあ」
「町に住めばいいのに」
「うふふ、ありがとうございます。だけどやっぱり怖い人は居ますから、離れていた方がいいと思いますね」
「あうー」
「うう、リヒト君、またね……」
とりあえず勲章を貰った後、いつもの交流会を行った。
しかし、いつもと違い今日で終了という話が広まり結構な人数が集まっていた。
トワイトと抱っこしているリヒトの周りには特に女性が集まり、リヒトの小さな手を握手するなどして別れを惜しんでいた。
「ディランさんはもうドラゴンにならないのかい?」
「必要が無いからのう。お、いい白菜じゃな」
「農業区画で作っているウチのなんだ、野菜を育てているって言っていたし良かったら食ってくれ」
「いただくぞい。今度ウチから野菜と米を送るかのう。結構、簡単に育つのじゃ」
「コメ……?」
「あー、それは私のところへ送ってくれれば良い。ザミール経由で取引きしよう」
謎のワードを口にしたディランに訝しむ町人。
モルゲンロートは咳ばらいをして、ディランの物資は自分に送れと口にした。
特に米は美味しすぎるため、出回ってしまうと困る。
「ザミールなら信用できるな」
「なんだ、ザミールさんとも知り合いなのか。そういや最近、あの人見てないな……」
よく世話になっているザミールの名が出てディランは彼に預けるかと頷く。
町人もよく知っているため、知り合いであることを不思議がる。ついでに最近姿を見ないと、また訝しんだ。
「今は他の地域に行っていますわね」
「この前、東の国へ行くって言ってなかったでしょうか……?」
「報酬はきちんと払っているから大丈夫だ」
ローザがあっさりとなにか頼みごとをしていることを口にし、最近、東の国へ行ったばかりではと苦笑する。
モルゲンロートは少し動揺しながら、便利に使っていることを反省していた。
「それじゃ、あたしは屋敷に戻るわね。そっちに行く時は飛んで行けるようになったから楽ねえ」
「あまり変身するんじゃないぞい?」
「依頼とかはこの姿でやるから大丈夫よ! でも、国中が知ったなら移動は飛んでもいいんじゃない? この前みたいなスタンピードみたいなのにすぐ駆け付けられるし、あたし達の存在が身近になるかも?」
「だといいけれど、お父さんは私達より大きいからびっくりするかも。ねー?」
「あーう?」
「わん」
トーニャは若いからか、正体が知られたなら出し惜しみしない方が信用してもらえるんじゃないか? と、口にする。
トワイトは難色を示してリヒトに首を傾げると、リヒトも真似をしていた。
「わたくしはトーニャさんの意見、賛成ですわね。身近な存在として寄り添ってくれると分かればわだかまりは解けると考えます」
「ふむ……まあ、ローザ殿がそういうなら考えてみよう」
「ええ! その時は乗せてくださいまし」
「それが狙いか……」
折角いいことを言ったのにとモルゲンロートは肩を落としていた。
だが、すぐに復帰してディラン達へ告げる。
「王都へ来る時はそれも許可しよう。緊急な依頼の時はトーニャ嬢に頼むかもしれないしな」
「任せてください♪」
「無茶をしないよう頼むわい。ではワシらは山へ戻るぞ」
「また会いましょう」
トーニャの意見にはモルゲンロートも悪くないと考えており、頼みごとがある時は吝かではないと言う。
ディランは渋い顔をするが、まあそういう機会もあまり無いかと少し諫めた後、踵を返して歩き出す。
「娘さんが居るんだから、また町に来てくれよな!」
「あーい♪」
「君たちもね!」
「わほぉん……」
「うわ、だるそう……」
「ジェニファーまたね!」
「こけー」
振り返ると町の人達が手を振って見送ってくれていた。もちろペット達も大人気だったため惜しまれていた。
しかしダルは面倒くさそうに振り返ってとりあえず返していた。ルミナスの背に乗ったジェニファーは羽を掲げて愛想よく返事をする。
「ふう、大変じゃったのう」
「でも大事にならなくて良かったですよ。正体が知られてもどこかへ行けばいいですけど、人間は死んだらおしまいですから」
「それもそうか」
だんだんと遠ざかっていく王都をディランがチラリと振り返ると、この数日通っていた人間達の笑顔が見える。
ディランはすぐに前を向いてからフッと笑う。
「ま、穏やかに過ごせればワシらはなんでもええがのう」
「うふふ、そうですね」
「あー♪」
「そういえばあの二人はどうするんじゃろうな」
「あ、聞いていませんでしたね」
「ま、ええか。後はモルゲンロート殿に任せるとしよう」
一家はウェリス達のことを思い出したが、やることはやったかとディランは頭を掻いて任せることにし、一路キリマール山へと帰って行った――
◆ ◇ ◆
「ふう、これで今日の倉庫整理は終わりだね」
「くっ……巻き込まれただけなのに……」
「いやあ悪いねコレル。私のミスだったよ。君の知り合いなら公にせず魔石回収できたかもしれないなあ」
「……まあ、それに関してはどっちでもいい。迷惑をかけたのは事実だからな。そういえばあいつらはどうなる?」
「ああ、ウェリスとバルドに関しては父上たちが決定したから私は知らないよ。だけど、まあだいたいわかるかな?」
「……」
一応、友人であるためどうなるかは気になるコレルだったが、ヴァールもすぐに奉公に出されたのでその辺りは知らなかった。
城に目を向けてコレルはウェリスの処罰が気になっていた。
そのころ、ちょうど城では二人の処罰を告げるための集会が開かれていた。
「……」
「……」
「さて、審問と状況、結果による考察から君たちの処罰を決めた。覚悟して聞いてくれ」
腕を拘束された二人の両脇に騎士が着き、テーブルを挟んで眼鏡をかけた官職の男が言う。
ここにはモルゲンロートやバーリオは居らず、決まったことを伝えるだけである。
部屋の後ろにはシスが待機しており、身元引受と言う形を取っていた。
「意図的ではないとはいえ、スタンピードを引き起こした件は非常に重い。よって向こう三年はこの国を出ることを禁止する」
「……!? なんだそりゃ……国外追放なら話はわかるが……」
「出られない、のか」
二人が困惑して口を開くが、すぐに騎士達に拳骨をくらい黙らされる。
「反省したと見なされれば解放してやるがな? 監視を含めてこの腕輪をつけてもらう」
「なんだ……?」
「これは罪人の証である腕輪だ。これをつけて生活をしてもらう。魔法がかかっているから壊せないし、国境を通ることも出来ない」
「……」
『罪人』と聞いて二人はバツが悪いといった顔になる。どこに居てもいいが、腕輪で追跡が出来るので逃げられはしないと官職は言う。
さらに――
「腕を斬って逃げる、なんてことはしないと思うが気をつけるのだぞ? なんせ、解除しないで外そうとしたらその場でボンだ。全身爆発して死ぬ」
「「……!?」」
「それが嫌なら大人しく生活することだ。三年の間に反省すればいいだけのことだしな。それと本当にどこに居ても見つけられるから試してもいいぞ」
「マジかよ……」
「極刑にならんだけマシだと思え。騎士達もお前の態度を見ていたがとても褒められたもんじゃなかったそうだな」
絶望感を出すウェリスに官職は淡々と告げていく。そこでシスが口を開いた。
「ま、色々ありますからね。名声なんて今更なんの意味も無いのに」
「うるせえぞ……! チッ、なんでもいい。三年だな? わかったよ――」
「俺もそれでいい」
シスがなにかを言いかけたが激昂したウェリスに止められた。悪態をついて刑は受けると言い、バルドも特に気にした風もなく納得して頷いていた。
そしてシスを除く二人はひとまず、城下町の隅で暮らすことに、決めた。
ロイヤード国から始まった一連の事件は終わり、ひとまずの平穏が訪れた――




