第127話 竜、正式に国の住人となる
「城下町の様子はどうだ?」
「調査を行ったところ、八割は問題ないとの意見をもらっております」
謁見の間にてモルゲンロートが机の向こうに立つバーリオへ状況を確認していた。
ドラゴン一家は城で寝泊まりしてもらい、朝から昼、休憩を挟んで夕方まで特設会場で交流を行っていた。
そこでアンケートを取り、キリマール山の管理者を続けてもらうか国を出て行ってもらうかという調査をしたのである。
「悪くない結果だな……」
「ですな。ドラゴンと言えど話は可能ですし、この国へ来た経緯も同情できるものです。ここで出て行けと突き放すのは感情としてしにくいかと」
「その辺りは狙っていたから上手くいったと思っておこう。反対者の意見は?」
「冒険者が多いですが、やはり強すぎるため牙を剥かれたらどうするのかという意見ですな」
バーリオがそう返すと、モルゲンロートはそれは存在自体が強者なので仕方ないと頷く。
「他には?」
「食糧難にならないか、実は自分達を食うために仲良くしているのではと、勘繰るような感じでした」
他になにかあるか尋ねると、宰相が報告書を手に告げた。
そこまで聞いてからモルゲンロートは顎に手を当てて少し考える。今日で七日経過したかと。
「よし、好感触ならば迷うこともないか。ドラゴンの一家を正式にこの国に腰を据えてもらおう」
「他国は大丈夫でしょうか?」
「少なくともロイヤード国は問題ないだろう。近隣諸国にももちろん通達をする。後で知られるより先出しの方がイメージは良いだろう」
「確かに」
「では、ディラン殿達には山へ戻っても問題ないことを伝えよう」
山に住むドラゴンの一家として改めて管理者とすることをお触れとして出すことを決定し、その場にいた全員が頭を下げて取り掛かる――
◆ ◇ ◆
「ふあ……」
「あーう……」
「あらあら、大きなあくびですね♪」
ベッドの上であぐらをかいているディランがあくびをし、その膝に座っていたリヒトがもらいあくびをしていた。トワイトがそれを見て頬を緩めていた。
「わほぉん……」
「わふ……」
「わん……」
「「「ぴよー……」」」
「こけー」
「あーい♪」
さらにアッシュウルフ達が揃ってあくびをし、その頭に乗っているひよこ達は目を閉じてうつらうつらとしていた。
窓から差してくる陽光がほんのり温かく、過ごしやすい気温である。
そんなペット達にリヒトはディランの膝から移動してダル達に抱き着いていた。
「今日もあそこでお話かしら?」
「恐らくそうじゃのう。そろそろ家に帰らせて欲しいのじゃが……」
リヒトをペットに任せてディランがベッドの端に腰を掛けると、トワイトが町の外で人と話すのかと首を傾げていた。
ディランがそうだろうと口にすると、小さく頷きながらトワイトが笑う。
「皆さん良い人達ばかりだから楽しいですよ♪」
「お前は凄いのう……ワシは人に囲まれると踏んだりしないか怖いわい」
「うふふ、一番強いのに一番優しいあなたに凄いと言われると複雑ですよ」
「あー♪」
「おお? リヒトか。お主もよく動くようになったのう」
「あう!」
リヒトははいはいでディランの背中にくっつくと、そのまま肩車のためよじ登ろうとして転がる。変な方向に落ちないよう、ルミナスが屈書になっていた。
「失礼します。今日もよろしくお願いします」
「あら、お迎えみたいね」
「よし、行くか」
団欒の中、騎士の一人が迎えに来た。二人はそれに応じてリヒトを抱える。
すると騎士はディランへ声をかけた。
「今日でイベントは終了になります。ご協力ありがとうございました! お荷物は後で取りに来られますか?」
「む、今日で最後で良いのか」
「はい! 町の人達がドラゴンを受け入れてくれたので、管理者としてそのまま山で暮らしてもらう形ですね。後で陛下が行くと思います」
「ありがたいですね! リヒトが大きくなったらお勉強をする学校? そこに行って欲しかったから」
「ドラゴンの知恵の方が凄そうですけど……」
トワイトがディランの腕に居るリヒトの頭を撫でていると、騎士が苦笑する。
「人間の勉強とドラゴンの知識はまた違うからのう。文字を覚える、数をかぞえるといったのは人間の知恵じゃ。ワシらのは……そうじゃな、生活の知恵というか生きる上で役に立つ知識というところかのう」
「ふうむ、その話は興味がありますね」
「まあ、年寄りの言うことじゃからほどほどに聞いておいてくれ。さて、それじゃ荷物は全部持っていくか」
「わほぉん」
とりあえず荷物を手にして移動すると、ダル達がベッドから降りて着いて来る。
ひよこ達はアッシュウルフ達の頭に乗ったまま寝ているのでそのまま乗せていくことにしたようだ。
「こけー」
「わん」
ゆっくり歩くのでジェニファーを先頭に通路を進む。騎士に案内されて馬車へ乗り込むと城下町を抜けて外へと向かう。
「トーニャちゃんは屋敷でいいのかしら?」
「あ、そうですね。ひとまずトーニャさんは近所のおばさんやギルドで人気なので、そのままでいいそうです。子供にも好かれていますからね」
「さすがトーニャちゃんね」
「あい♪」
そんな話をしていると門を抜け、会場へと到着する。何故か屋台などが出ており、祭り感がある。
そこにトーニャが立っていて、ディラン達に気づくと手を振って迎えてくれた。
「こっちよー」
「一人か。ガルフ達はどうした?」
「今日は依頼なの。あたしはこっちに来ないといけないから外してもらったわ」
馬車から降りて合流する。
ガルフ達の姿が見えないのでディランが不思議がっているが、納得の理由だった。
「お、来たか。ディラン殿、トワイトさん」
「リヒト君もおはようございますわ♪」
「あーい♪」
「モルゲンロート殿自ら来ておったのか」
そこでモルゲンロートとローザもその場に居り、挨拶を交わす。
ディランが驚いていると、モルゲンロートは咳ばらいをしてディランへ近づいていく。
「さて、今日ここへ来たのは外でもない。あなた方一家を改めてドラゴンの住み家として、管理者としてキリマール山を任せたいと告げに来た」
「これは?」
モルゲンロートはみんなが注目する中、三人にメダルのようなものを渡す。
リヒトには少し大きい感じのメダルを見て、首を傾げる。
「それは一家に私の権限がかかっていることを示す勲章みたいなものだ。手を出さないよう、プラスでお触れを出すことにした。それでも完全に防げはしないだろうが、なにかあればそれを使ってもらっても構わない」
「ふむ、助かるわい」
「あい」
国王の権力があるメダルということで、下手に倒そうなどというものなら処罰があるぞと言えるのである。
「まさかトワイトさん達がドラゴンだったなんて……」
「ローザさん、黙っていてごめんなさいね」
「いえ! わたくし、凄い方とお友達でワクワクしておりますの! ちょっと見せて下さらない?」
「あらあら」
「王妃様は凄いなあ……」
怖がるどころかワクワクしていると口にするローザに、その場に居た町の人や騎士達がポカンとしていた。
この先どうなるか? それはまだ分からないが、穏やかな一家はクリニヒト王国の一員となるのだった。




