第126話 竜、割と受け入れられる
「でかい!」
「はっはっは、ドラゴンじゃからな」
「なんか山の魔物を撃退してくれたんだって?」
「そうよ、ウチの息子が北の町に住んでるんだけど助けてくれたって」
スタンピード未遂事件から三日が経過した。
モルゲンロートは国中に御触れを出し、当初の予定通り山の管理者は住む場所を奪われたドラゴンで、助けを求めてやってきたという設定で話を進めた。
とはいえ、殆ど本当のことなのでディラン達も後ろめたさはない。
「あーい!」
「可愛い子だねえ。故郷を追われて大変だったのに、人間の子供を拾って育てているんだって?」
「いえいえ、できることをしているだけですよ♪ リヒトもいい子なので苦労とかは感じないですね。モルゲンロートさんには感謝しています」
「こっちこっち! 犬にまたがってる子が可愛いのよ!」
「うー?」
「わほぉん」
「あらあら、リヒトが大人気ねえ♪」
城のすぐ外でドラゴンと話せるという企画をヴァールが行い、今もディランはドラゴン姿である。
トワイトはリヒトの手前、人間の姿だが話上手なのと、リヒトの境遇で概ね受け入れられている。
ドラゴン一家はそんな調子で城下町の人と交流ができていた。
「姉ちゃんもドラゴンなのか!」
「そうよ! ほら!」
「「「うおおおおお!」」」
トーニャは元々町で生活していたので、ドラゴンだと知られても人柄で『あ、そうなの』くらいの勢いだ。
商店街の子供たちが目を輝かせてドラゴンかと尋ねられ、ピンクのドラゴンに変身をする。
『ギルドに出入りしている時から子供に人気だよねトーニャ』
「美人だし、ノリがいいからだろうな」
「ヒューシみたいに硬くないからねえ」
「うるさいぞユリ……」
「わんわん!」
「ぴよっ!」
ガルフ達はパーティメンバーなのでトーニャと一緒に居た。とりあえず人が来ては質問を受けるので、聞かれたことを返すという役割を担っていた。
「よう」
「お、ダイアン達じゃねえか!」
そこでダイアン達がガルフのところへやってきた。ドラゴンが町の外壁からチラッと見えるので入れ替わり人が来るので不思議ではない。
「あの御仁が……いや、一家がドラゴンだったとはな。勝てるわけが無かったなあ」
「まあ、隠していて悪かったよ」
「いやあれで良かったのだ。おかげで目が覚めた」
「そういやそんなことを言っていたな。……あの二人もそうなるのか?」
「あの二人?」
「いや、なんでもねえよ」
ディランやトワイトと相対した者は総じて気が晴れたようになっていたのでガルフはそう推測していた。
ひとまずウェリス達は今のところ騒動の中心ではあるものの、扱いをどうするかまだ決まっていないため秘匿されている。
「挨拶をしていったらどうだ?」
「今日は見るだけだ。どうせトーニャさんはお前のパーティーに残るんだろ?」
「……まあ、な」
「ん? じゃあまたな」
「またねー」
「うぉふ!」
またドラゴンを見る機会はあるだろうと口にするダイアンに、ガルフは曖昧な感じで返していた。意図は分からないがまあいいかと彼は手を上げて仲間と一緒に去って行った。
「ドラゴンなのに姉ちゃんは暴れないんだな?」
「んー? そうね。まだ君達には早いかもしれないけど……力があるからって暴れたり、自分より弱い者を攻撃するのは良くないのよ」
「でもいじめられないと思うの」
「向かってくる相手には見せてあげるのはいいかもだけど、自分からやっちゃったら結局そのいじめっこと同じになるわよ?」
「あ、そっか……」
「ふふ、トーニャがディランさんみたいなことを言ってるわね」
「そりゃあパパの娘だもの!」
里を追われたこと、町を守ったこと、リヒトを拾って育てているといった要因もあるがドラゴンが受け入れられた理由はこういう『考え方』によるところが大きい。
この国に来てからそれなりに日数は経過しているが、まったく気付かなかったほど穏やかに過ごしていた。
そして夫婦がその理由を人間に迷惑をかけたくないと語ったため、こいつらは話せるし、陛下がお願いを聞いたのも納得がいくという者が多数だ。
「だけど、やっぱ怖いよな。なるべく山から出ないで欲しいもんだぜ」
「だな。獲物を取られちゃ困るし」
「ふむ。野菜などは育てておるから、お主達と食う物は変わらんがのう」
「ふん、どうだか」
ただ、冒険者などは仕事に支障が出ると歓迎していないところもあった。
一番の理由は話の分かるドラゴンと言えど彼等にしてみれば『魔物』とそう変わらないからである。
「失礼な奴等だねえ」
「仕方ありませんよ。ドラゴンなんて怖がられるものですし。昔も私達を倒そうとやってくる人間は多かったですよ」
「ふうん、その時はどうしたの?」
「撃退して帰ってもらってましたよ! でもドラゴンによっては気性が荒い人もいますし、殺されてしまうこともあります」
「ひぇ……」
冒険者達が去って行くとおばさんの一人が口をへの字にして悪態をつく。
しかし、トワイトは真面目な顔で自分達はそういう存在でもあると告げ、あの態度も頷けると言う。過去の例を語ると人間達はさすがに冷や汗を流していた。
「ふう、みな興味を持ちすぎじゃ。年寄りの話など面白く無かろうに」
「ずっと生きているんだから、面白いって」
「はは、怖い顔をしているのに年寄りとはなあ」
「嘘じゃないぞい」
ディランがそう言ってため息を吐くと、気のいい人間達は笑いあっていた。
その様子を外壁の上から見ていたモルゲンロートは、問題はあるかもしれないが今はこれでも良さそうだと頷くのだった。
 




