第125話 竜、話し合う
「まずは謝罪させてくれ。ディラン殿、トワイト殿、トーニャ嬢、ウチの息子の軽率な行動のせいで迷惑をかけた」
「申し訳ありませんでした」
一行は城に戻り、ひとまず謁見の間にて勢ぞろいした。
ちなみに戻って来た時には町からドラゴンが見えたと騒ぎになっていた。今、この時点でもバーリオや騎士達が問題ないとあちこち話をしている。
そして不可抗力とはいえ、混乱を巻き起こしたウェリスとバルドは気絶したまま鍵付きの部屋へ寝かせられた。
そこでようやく落ち着き、モルゲンロートとヴァールがドラゴン一家に頭を下げたのだ。
「構わんぞい。大事になる前に鎮圧できて良かったと思えばええ。しかし、ワシ達がドラゴンであることが大勢に知られてしまったのう」
「そうですねえ」
「まあ、変身をするところを見られていないから大丈夫じゃない?」
ディラン達は騒動に巻き込まれたことは気にしていなかった。それよりもドラゴンであることが知られた方がまずいと口にする。
トワイトもディランと同じ意見だが、トーニャは自分達であることが完全にバレたわけではないからいいのではと返した。
「私もそう思う! 陛下や騎士さんに王子様くらいしか変身したところを見ていないんじゃないかと」
『別にドラゴンでも困らないと思うんだけど……』
「だよなあ」
ユリ、リーナ、ガルフはトーニャの意見に首を縦に振るが、トワイトは頬に手を当ててため息を吐く。
「うーん、気持ちは嬉しいのだけど、この国に『ドラゴンが居る』と知られたのが困るの」
「あうー」
「わほぉん」
「ぴよー」
「あー……」
レイカが困った顔で納得していた。
前に夫婦やモルゲンロートが話していたこともある『ドラゴンという脅威』が世に知られれば他国などに影響が出てしまうことを説明する。
国民もドラゴンともなれば震え上がり、ウェリスのように倒してやろうという者もあらわれるかもしれないと。
「そっか……あたし達が居るとそれだけで国に迷惑がかかるかもしれないのね」
「本当に申し訳ありません……」
「終わったことを言っても仕方が無い。ヴァールの処遇については後ほど決めるとして、今は一家のことを考えないといけないな」
トーニャが肩を落とし、ヴァールが再度頭を下げた。モルゲンロートが片手を上げて会話の主導を取った。するとディランが腕組みをして口を開く。
「ワシらは別の地域に行ってもいいと思っておる。婆さんとはこういう事態になった時、どうするか考えていたことがあるのじゃ」
「え」
『ええ……?』
「そうですね。さすがにご迷惑をおかけするわけには行かないので、別の地域に行くのを検討しています。海の孤島とか」
「あー、それもアリか」
ドラゴン一家はあの山を捨ててどこか静かな孤島にでも移り住もうかと言う。ユリとリーナがポカンとした顔でトワイトを見ていると、トーニャも納得していた。
「えー! それは嫌だよ! ディランさん達に会えなくなるってことでしょ!? ダル達も連れていくのよね!?」
「うむ」
「わほぉん」
「あうー」
しかしユリはみんなに会えなくなることにショックを受けていた。ダルに駆け寄り首に巻きつくとダルがやれやれといった感じで鳴き、リヒトが真似ていた。
人里が近いところは良くないかもしれないと話していたところで、モルゲンロートが話し出す。
「……こういう事態が起こった時に考えていた案が無いわけではない」
「父上?」
「どういうことじゃ?」
「山の管理者のお触れを覚えているだろう?」
「ええ。ガルフが山へ行こうと言ったくらいに施行されたディランさん一家のことですね」
モルゲンロートがディラン達を山の管理者にした時のことを話し、ヒューシが時期について口にして頷く。
「あれは万が一の時を考えて出したのだ。わざわざ各町に言う必要は無かったのだがあえてそうした経緯がある。バーリオや当時のことを知る騎士達と話し合い、ディラン殿達という『存在』は明かすことにした」
「なるほど、なんとなくわかった気がします」
ヴァールが施策について予測がついたと言う。モルゲンロートは皆が見守る中、そのまま施策について口にする。
「この後、ディラン殿はドラゴンだったと公表する。実は管理者にした者はドラゴンで、山に住みたいと頼んで来たので暮らしてもらう交渉をしたとな」
「隠していたことはどうするんですか?」
「故郷を追われたドラゴンということがあり、お互いの環境をいたずらに不安を煽る必要は無いためというシナリオだ」
「確かにいい案かも……」
モルゲンロートの案は『故郷を追われたため住まわせてくれと言われたので、ドラゴンと知った上で許諾した』というものだった。
ドラゴンは山の守り手になるかもしれないという算段もあったような情報を加えるとのこと。
「実際、我等をスタンピードから守ってくれたのは事実だ。あの者達とヴァールの所業は褒められたものではないが、この状況はドラゴン体になっても問題なくなるようにするチャンスでもあると考えた」
「ふむ。ワシらは折角慣れてきたところじゃしありがたいが、ええのかのう」
「問題はいくつかあるが……今はディラン殿一家もこの国の一員だ。それをなんとかするのも国王である私の役目だろう」
「そうですね。具体的にはドラゴンを狙う者や、隠していたことの抗議でしょうか」
ディランは助かると言うが、ヒューシの見解は大きな話なので国民に上手く説明しないと文句が多そうということと、ウェリスのような者が居るかもしれないという懸念だった。
「まあ、負けんからワシはええけど」
「そうですね」
「強者の余裕だぜ……ディランのおっちゃん……」
「国民の理解もスタンピード阻止でなんとかなるとは思う。ドラゴンが町や村を救った、というも目撃者も居るだろうしな」
「実際、管理者になってからそれなりに日数が経っていますが、暴れてたりしていないのでいけそうな気はします」
ヴァールも今の時点で色々と考えているようで、管理者とドラゴンの因果関係は良い方向にいくのではと言う。
「麓の村の人達は知っていますしねえ」
「そうだったな……」
ミルクを貰っている麓の村で変身したことがあるので彼等は知っているのである。
モルゲンロートはそういえばと頭を抱え、言うなと告げたとはいえ本当にバレなかったなと感心していた。
「では、我々がなにをしていたか説明する機会を設けましょうか」
「そうだな。っと、それはそうとヴァールと彼等に罰を与えねばならんか」
「そ、そうですね」
「若気の好奇心じゃ、結果は良くなかったがほどほどにしてやってくれ」
「ふむ。ディラン殿に助けられたな? 城の雑用を3か月と町へボランティアをしに行くのだ。なにをするかは決めていいが毎日報告すること」
「はい」
「今回、なにが悪かったのかを考えて行動するようにな。分かっていなければ期間は延長する」
モルゲンロートが納得しなければ雑用ばかりする毎日になり、極論、王位継承も危ういということにもなる。
「あの、陛下……私は……?」
そこで黙って聞いていたコレルはなにも無かったため手を上げて恐る恐る言う。
「コレルか。お前は特に無い。が、できればヴァールを止めて欲しかったところはある。ヴァールの付き人として一緒に行動をしてくれ」
「……承知しました」
意外だという感じでコレルは頭を下げた。自分はウェリスの友人で魔石を作った張本人のためなにかした重い罪が来ると思っていたからだ。
ひとまずコレルは承諾し一歩下がる。
そこでモルゲンロートがフッと笑いながら話し出す。
「リヒト君を王様にすることにならんようしっかり行動するようにな」
「あうー?」
「それはそれで見てみたい気もしますけどね。でも、父上の息子としてそれは阻止しますよ」
「リヒトが王様か。苦労しそうじゃし、そういうのはいらんかものう。のんびり暮らして欲しいわい」
「うふふ、そうですねえ」
モルゲンロートの冗談にヴァールが真面目に答える。ディランとトワイトはリヒトの頭を撫でながら微笑むのだった。
「ひとまず安心かな?」
『良かったあ……みんなとお別れは寂しいもんね』
「うぉふ!」
「わん!」
「こけー」
「良かったねえダル」
「わほぉん……」
大喜びでダルの頭を撫でまわすユリに、なすがままになるダルだったとさ。
そして――




